69.異界を知る者
「…それは異界の亀裂だ。」
私はレオがそれをはっきりと言い切ったことに驚いた。
直接な接点があったかは謎だったが、セージが二度目の開門をした際には数年前同じ事件が起きていたことを知っていると書かれていた。レオの両親は魔法使いだから結実の事件も知っていただろうが、異界については箝口令が敷かれている。
「(一回目の開門でレオは両親からそのことを聞いたと思っていたけれど…)」
この段階でレオが異界について知っているとは思ってもみなかった。
元々両親から聞かされていたのだろうか?そんな疑問も浮かぶが、今それを聞く時ではない。
「異界の、亀裂?」
聞きなれない言葉に疑問視を付けたのはキヨで、彼と同様にモモもスミレちゃんも不思議そうな顔をしている。
「異界、とはキヨ君が言ったように地獄や異世界、それらを総称した言葉とは違うのですか?」
これも読者からすれば意見が分かれるところだった。
あの門は生み出した人物がつなげたい場所につなぐことのできるどこで〇ドアなのか、それともある一点の世界を結ぶものなのか。
結実が繋いだ世界とセージが繋いだ世界は同じ場所なのか。
それぞれの事件発生後の被害が酷似しているため、後者を推す声と地球と異界、この物語の世界は二つだけが存在していると言った物理的な話に発展している考察が多かった。
「異界についての記録は魔法界ではパンドラと呼ばれ、調べることを禁止されている。…僕は一学期、学園から盗まれたものはそのパンドラではないかと思っている。」
突然のレオの発言に私も戸惑ったが、それ以上に他の三人が付いていけてなかった。
完全に置いてけぼりでぽかんとしている。
私は初めて聞く『パンドラ』の単語やそれが学園に存在しているかのように言ったレオに色々と聞きたかったが、レオはレオで箝口令があるためかまだ躊躇いが見えた。
「もしかして言いにくいことなんですか?」
助け舟を出すように私はレオに問いかけた。
レオの発言は彼に危険な橋を渡らせている可能性があった。
色々聞きたいのは本音だが、今それについて聞かなくても先には進める。
むしろここで話が止まっていては後がつかえる。
何も答えないレオに私は提案として少し異界から離れることにした。
「異界の定義については一度置いておくとして、少なくともその亀裂は開いてしまうとまずいものという認識でいいんですよね?」
これはレオとモモに向けて聞いた。
二人は分かりやすくすぐに頷き、私もそれに頷き返して先に進める。
「問題はなぜ亀裂が入ったのか、なぜセージ君は笑っていたのか。仮にセージ君が何かしらの方法でその亀裂を入れたとして、目的は何か、方法は何か、そして何よりどうすれば止められるか。いま重要なのはその辺だと思います。」
だから無理して話すことはないとレオに言うつもりだったが、今の言葉で彼は目を見開き大きく頷き話し出したのだ。
*
「異界は以前にも学園内で開かれたことがある。その時も多くの被害が生まれ、それを真似する者が現れないよう一切のことを秘匿とし関わったもの以外は今も知らないはずだ。」
言わなくていいと促した傍から語られると何とも言えない気持ちにはなったが、聞きたいことが聞けるのだから何も言うまいと私は大人しくレオの話を聞くことにした。
「僕が知っているのは父親がその時の犯人と同学年だったからだ。口にしてはいけない。そう言われていたそうだが、僕がこの学園に入学する時、父は教えてくれた。」
きっとその時のことをまとめた資料がこの学園には保管されている。
犯人は捕まっておらず、再び現れる可能性がある。
学園で何か異変を感じた際には速やかにその場を離れ守るべきものを守れ。
「(守るべきものは命かスミレちゃんか、それとも学園の生徒全員なのか。)」
レオがどう判断したのかは分からない。
ただ異界開門については魔法界では公然の秘密とばかりに思っていた。
「(魔法界でも一部の人しか知られてない?)」
何か引っかかりのようなものを感じたが、今は異界が何であるかというよりもこれからどうするかの方が大事だし、キヨがいる場で犯人の話をして何かに気づかれる方が困るため「その記録には亀裂をふさぐ方法も記載されているのでしょうか?」と話の方向転換にもう一度努めた。
「それよりも亀裂を防ぐ方法。セージを止める方法を考えた方がよくない?」
スミレちゃんがそう言ってくれたため何とか目的が達成されそうで私はこっそりと息をつく。




