66.猫の妙案
三人寄れば文殊の知恵とは言ったものの、大した案は出なかった。
それはそうだ。
私の思考をトレースした存在でなかったとしても、この二人は私の行動範囲の内に収まっている。
加えてこの世界に来たばかりで頼る相手のいない私と、この世界に生まれたばかりの使い魔。
どうあがいても限界はあった。
「でしたら、でしたら。」
いつものように言葉を二度繰り返し声を上げたケットシーは妙案だとばかりにジャンプしながら主張した。
「モモ様に予言してもらいましょう!」
それは私が考えてもいなかったことで、私から生まれたとしても彼らの存在は独立した別の生き物ではないかとますます思うようになった。
モモの異能は予言だ。
だから彼女の見た夢であれば誰もが一目置くことになるだろう。
「他者に思い通りの夢を見せる魔法って、確かあったわよね?」
その魔法は決して危険なものではない。
相手を害そうとする悪夢に関してはこの魔法は使えないようになっているため、子供向け魔法の呪文所に載っているようなお遊び程度の魔法だ。
「ええ、ええ、確かに乗っていました。ご主人様がお使いになりますと、その形跡が残るやもしれません、このケットシーが代わりにモモ様へ魔法をかけましょう!」
任せてくれとばかりに、胸元をポンと叩くしぐさは猫の姿をしているだけに余計可愛かった。
そう上手くいくものだろうか?
そんな思いが頭をよぎるものの、本当の予知夢を見せるわけではない。
駄目だったら次の手を考えればいい。
今は目の前の私の使い魔に任せてみようと頷いた。
*
「世良様の能力ではなく、異界開門を見せるのですか?」
ケットシーは不思議そうに聞き返してきた。
「そう。本当は能力のことも伝えた方が皆が彼を警戒して安全性は上がるかもしれない。でも、それは彼を余計孤立させるだけになりそうじゃない?…まぁ、最悪そうしてでも止めたいわけだけど…」
別にセージを思ってのことではない。
ただセージは自分から一人でいることはできても、皆から避けられ一人にされることはきっと駄目な人間だろうと感じた。
「(とは言ったものの、現状も似たようなものだけど…)」
子供は意外に聡い。
無意識下で危険な匂いを感じ取っていたのだろう。元からセージは学園になじんでいなかった。
ただこれはあくまで無意識下。
セージが自ら望みそんな空気を読んだクラスメイトが彼に話しかけられない、そんな面も実際ある。
表面上は何も変わらないが、当事者としては大きな違いがあるだろう。
プライドの高い人だと思う。
自分から避けることは許せても、他人から避けられることは許さない。
能力がばれ、恐れられるのならばまだいいだろう。
恐いのは影でこそこそと遠巻きにされることや、その能力を危険とし上の人間に奪われること。
そうなった時、セージはどういった行動に出るか分からない。
魔法や異界、そんな非現実な言葉。
この世界が小説だったころには深く考えていなかったが、あの事件で多くの人が亡くなっている。
偶然なんかではない。
二回ともセージが企てたことだ。
私は疑わしきは罰せずという言葉があまり好きではなかった。
確かに全く証拠のない状態で相手を疑う行為は場合によってはどうかと思うが、今回の相手は未来が分かっている人。
しかし神様は言っていた。
私の行動でこの世界の未来は変わるかもしれないと。
確かにセージは嫌いなキャラクターではなかった。
事件の背景を知ってがっかりはしたものの、彼はこの物語に必要な人間だ。
「(だからと言って、彼が犯罪者になればいいのに何て思っていない。)」
思っていないが、
「(とっても面倒くさい。)」
セージの事件を止めたくはあるが、犯罪者になりうる可能性の高い人間を更生させる能力なんて私にはないし、義理もない。
危険人物であるのなら早々に捕まって欲しいとも思っている。
この相反する思いを抱え、先の見えない状況に私はうんざりする。
セージに事件を起こさせないため異界開門の可能性をモモに見せる。
セージを切れさせないために彼の能力を隠す。
同じようで全く違う。
むしろどっちつかずな行動だ。




