63.13歳
「それってなんて本なの?私も読みたい!」
モモにそう言われ私は前世でもよく使った言葉でそれを断る。
「う~ん。感想が違ったら気まずいし秘密で。図書室にある本とだけ。」
今物語の内容を否定した分、モモがそれを読んで楽しいと判断した場合、互いに気まずくなるかもしれないという建前を告げればモモも頷いて同意した。
「それ分かる。よくアカヤとやるんだよね。」
互いに好きなキャラが敵対してどちらの方が強いとか、アカヤが勧めきた漫画がつまらなかったりとかとモモにも経験があったようだ。
「でもつまらないって言ったら喧嘩になるかごまかすとさ、じゃぁ語り合おうぜ!なんて言われて、面白くない漫画に対した感想もなくて結局喧嘩。」
別に読み物だけではない。
私は基本誰かに自分の好みを知られることがとても嫌いだ。
なぜって聞かれれば明確な答えはないけれど、しいて言えば頭の中身をのぞき見されているようでどうにも気分が悪くなるのだ。
*
「それってやっぱり、こうあって欲しいって理想があったわけで、理想があったってことはそのキャラが好きだったから余計にショックだったってことかなぁ?」
モモに言われた言葉を部屋で反芻しながら思い返す。
セージがキャラクターとして好きだったと認識したことはない。
どちらかと言えばアオイ君派だったし、いまの私ならば年齢的にも花村先生が好みかな、しいて言えばと答えるだろう。
「(いや、前世では花村先生の存在自体知らないけど。)」
そう、年齢的に。
精神年齢がもう成人近い私が、この世界で現実に存在しているセージを好ましいと思うこと自体が自分の中で問題だった。
「(いや、ショタコンじゃないし。…そもそもセージが好きだったとかありえるのか?)」
この世界では同い年、しかしながら認識的には七歳下。
それぐらいたいしたことはないという人もいるかもしれないが、相手は未成年だ、犯罪だ。
「(待って、違う。なぜショックを受けたか。それは物語の惨劇の理由が子供じみた理由だったから…でも。)」
私は心の中で自問自答する。
きっと神様がまた心うちを盗み見していれば手をたたいて笑っていることだろう。
しかしそんなこと気にしている余裕など私の精神衛生上なかった。
確かにこれからセージのやろうとしている行為は許されないとしても、セージが『変わりたくない』『変わってしまったから』と思うことはあり得ない感情だったのだろうか?
「(でもそれが原因で多くの人が亡くなるのよ?ありえないでしょ?)」
ショックと表現したからおかしいのだろうか?
これが怒り、憤怒だったのならいま余計な詮索などする必要もなかったのか?
でもショックという言葉が一番合う気がしたのだ。
ファンの間ではサイコパス。結実を表舞台に引きずり出した影役者物語の黒幕。結実の信者など様々な憶測が飛び交っていたが、この世界で生身のセージ本人と出会ってみればそれらのすべてはただの妄想だったと言われた気分だった。
もちろん、セージの行為がのちに結実が再び異界の門を開けだすきっかけになっているのだから物語上必要な行為だ。きっかけが子供じみたものだとしても、それがすべてではなくこれから先、一度目と二度目の開門時に何か思うことがあるのかもしれない。
「(期待は、してたのか。)」
ぼんやりと初めてこの物語を読んだ日のことを思い出していた。
あの頃はまだこの世界の住人たちよりも私の方が年下で、誰もが大人のように見えた。
しかし現実の13歳と言えばまだまだ子供。
そんな中、本心を悟らせないセージは実際にあった時も子供だとは思わなかったのだ。
何だかんだ何事にも全力投球のレオや物静かだが気になる話題にはそわそわしだすアオイ君とか、彼らは大人びた性格に見えたがちゃんと子供だと会ってそう感じた。
セージだけ物語を読んだ時と変わらない印象。
何を考えているのか分からないし、何をしたいのかもわからない。
子供の頃に読んだ大人のような人物像そのままだと私は思っていた。
「(私も変わることが嫌だったのか。)」
自分の中のキャラクター像がことごとく塗り替えられていくことが嫌だった。
生きて生活する彼らに対しなんて失礼なことを思っていたのだろうと思うと同時に、理想の女の子であった結実が変わってしまうことを恐れた。
セージとは意味は違うが、変わることが嫌だというこの結論に私はどうしようもなく疲れた。
「(できれば結実は夢を見たままがいい。)」
失礼だと分かっていながら、自分が夢見るその人は変わって欲しくないと強く願った。




