62.期待
夏休みもあと数日。
宿題も提出済みで、寮にはちらほら寮生たちが戻ってきていた。
「どこか出かけよう!」
そうモモに声をかけられた私は特別やることもなかったため素直に頷いた。
思い返してみればこの世界に来た初日以来、初めて学園外に出たなと気づいた。
物語でも学園外のシーンはほとんどなく、この辺の街並みはこんななのかと不思議な気分だった。
モモとの女の子同士の他愛もない会話も一見意味のないものに見られそうだが、頭の中の整理をするうえでこういった行為はとても大事だ。
最近のセージの予想外の行動と昨晩の神様の来訪により、苛立っていた心が少しずつ落ち着くような気がした。
「予想外の行動にショックを受けた?」
ランチをしながらふと「最近元気ないね。夏バテ?」とモモに聞かれ、よく見ているなと少しうれしくなった。
昨日神様に「最近楽しそうですね。」的なことを言われ、どこを見てるんだと思ったから余計に、だ。
「(もしかしてあれって嫌味だったのか?)」
神様という存在だからそう言った感情はないと思っていたが、苛立ったり慌てたりしている私を揶揄して『楽しそう』と神様は言ったのかもしれないと納得する。
たった数か月の付き合いだったが、この年下の女の子は私の彼女の変化にちゃんと気づいてくれた。
自分から線を引いて彼女たちと距離を取っていたことは自覚していたし、何かと頼られることも多かったからギブアンドテイク。必要な付き合いでしかないと思っていたが、友人とそんな付き合い方をモモがするはずなどありはしないと今更思い出した。
いつものなら何でもないと、ただの夏バテだと流してしまう所だったが、気持ちの整理もしたい。
だからモモに問いかけてみたのだ。
「予想外の展開に気落ちした、というかショックだった?みたいな出来事があって。」
あえて何がとは言わない。
私の言葉に何を思ったのか、目をぱちくりさせ少しばかり楽しそうなモモは「それって」と言葉を続ける。
「相手のことが好きだったんじゃない!?」
今度は私の方が目をぱちくりさせる番だった。
「ショックってことは、相手に何かを期待していたってことでしょ?両想いかもって期待してたから…え、もしかして失恋したの?」
さっきまでの楽しげな雰囲気は一変、聞いてはいけないことだったかもしれないとモモが百面相するその顔を見て私はつい笑ってしまった。
「違いますよ。休みの間、読んだ小説のことです。途中までは本当に楽しかったんですけど、結末と言うかあるキャラクターの行動理念が語られたシーンであまりにもやっていることの落差があったというか…。」
特に含みはなくそう答えればモモはほっと息をついてから「行動理念…?」とつぶやく。
「ファンタジーもので敵側のキャラクターがその位置になったきっかけがあまりにも些細な?特別な理由でなかったことに勝手にがっかりしている感じ、ですかね?それまで物語が面白かっただけに余計に期待外れ、いや、キャラクターに呆れたって感じで。」
全部本当のことだ。
だからこそ言葉は考えなくてもすらすらと出てくる。
「ああ~、本格ファンタジーの敵が幼児向けアニメの敵キャラ的理由で悪事を行っていた、みたいな?」
セージが幼児向けアニメの敵キャラと評されたことに吹きそうになったが、私は頷いた。
「それってやっぱり、こうあって欲しいって理想があったわけで、理想があったってことはそのキャラが好きだったから余計にショックだったってことかなぁ?あとは好き!って思えるはずの作品だったのに、最後の最後でこの終わり方かぁ~みたいなショックとか?」
そうモモに言われ、私は少しだけドキリと嫌な感覚が胸をよぎった。




