7.主人公について
悪意について考える前に改めておさらいをしてみようと思う。
頭痛の呪いが解けている一日の終わりに私は寮の部屋で記憶をさかのぼる。
私が『双子の魔法使い』を最後に呼んだのは受験が終わり、暇を持て余していた高校三年生の冬休み。
AO入試で夏には合格が決まっていた私は周りの目もあり、大っぴらに遊ぶことはできず家で大人しくその長すぎる物語を読んでいた。
何だかんだ本棚を一列以上占めるそれを売らず、たまに読み返してみようと思って手に取っているのだから、少なからずこの後味の悪いダークファンタジーを私は気に入っていたのだろう。
せめて髪色が赤とかピンクならば分かりやすいのだが、作者はあくまで和製魔法物語にこだわったようで、時々特徴としてあげられる髪色も茶色が一人いるだけだった。
主人公は双子の兄『結城赤也』と妹の『結城桃花』、それと『天願清墨』の三人。
勇気を持って行動する双子と天に願い続けた闇落ち主人公。
まずはメインヒーローである結城赤也の話だ。
最初に言っておくと私は彼が嫌いだ。だからこそこの時間でしか彼を考察することができない。
物語の登場人物であるだけならばいけ好かない程度で済んだかもしれないが、目の前に現れたとなってはその好感度はがくんと下がる。というか関わりたくない。
結城赤也、彼は良くも悪くも好奇心の塊。
人のプライベート空間に土足でドカドカ入って来るタイプの人間。
だからこそ物語は進み、天願清墨とも仲良くなれたわけだがすべての人間がそれを好意的に受け取ると思われては困る。
私は家に帰ったならすぐに着替えて、外で使った鞄は自室に持っていかない。潔癖という訳ではないけれど物理的にも外と中は分けたいタイプだ。それは精神的にも言えることですべて本音でさらけ出せなんてことはもちろん無理だし、さらに言えば昨日何やっていた?今朝何食べた?なんてどうでもいいことでさえ言いたくないのだ。
どうでもいいことならいいだろうと思われるかもしれない。
でも嫌なものは嫌なのだ。
仮に朝パンを食べたとして何を食べたか聞かれた際、私はご飯を食べたと答えるだろう。
嘘が習慣化しているとかそう言うことではなく、ただ気持ちが悪いのだ。
小さい頃の私は嘘をつくことがいけないことだと本気で信じていたため、その質問にいつだって答えることができず困っていた。
優しい嘘、ついてもいい嘘があると知ったときはなぜ教えてくれなかったのだと両親を責めそうにもなった。
私の朝ごはんのメニューなんて嘘でも本当でもどちらでも構わない。だからこれはついていい嘘。私はそう判断した。
自分の行動、嗜好を誰かに把握されることがとてつもなく苦痛。
そんな私にとって彼は天敵ともいえる相手なのかもしれない。
だから絶対、彼が振り分けられるSクラスにだけは行くもんかと魔力のコントロールを身につけ、出来るだけ目立たないように過ごそうと決めた。
*
「ばれなきゃ大丈夫!」「知らなかったからしょうがない。」「子供だから大目に見てよ。」作中に出てくる彼のセリフだ。
確かに未成年は子供だ。しかしその言葉は免罪符ではないし、知らなかったからしょうがないは被害を受けた側がいう言葉であり、問題行動を起こした側がいってはいけない。
ばれなきゃ大丈夫と言っている時点でいけないことをしている自覚もある。
そんな人間を好意的に見ろというのは私には到底無理で、あくまで創作されたキャラクターだから子供のありがちな行動を誇張表現したに過ぎないと読み手だったときには思っていた。
そんな人物と私はいま同級生として机を並べなきゃいけないという事実に直面している。
ちなみに文字通り机を並べることになるかはまだ分からない。
席替えがどう行われるのか分からないが、男女別列かあいうえお順にしてほしい。
話はそれたが、その彼を私はまだ目視していない。
神様からの縛りで部活紹介の途中で保健室行きになったからだ。
おそらく主人公のことだ、魔法を多く要いる部活動の紹介に身を乗り出して周りの迷惑をかけているだろう。
(いや…。)
むしろそれは妹の方かと思い直し、そんな彼女を諫めるように振舞い苦労しているお兄ちゃんアピールをしているだろう。
そうこの主人公結構腹黒なのだ。
実際ドラマの中のように一心同体、命を懸けて守るなんて兄弟の方がまれなのは理解していても、自分の妹を下げて自分を上げるという行為も私の中では苛立ちを感じる要素だった。
分かっている。
まだ子供の彼ら、まして双子なのだから兄とはいえ同い年。
何か失敗をしてしまった時、相手に押し付ける言動も現実には多いだろう。
それでも許せないと感じたのは単純に好みの問題かもしれない。アカヤやいうキャラクターよりも、彼により被害を被った妹のモモの方が私は好きだ。彼の選択により苦難の道を選ぶことになったキヨの方が好きだ。
例え二人がアカヤを恨んでなくとも、たいして気に留めてなくとも物語を読んでいる私が嫌だった。
ただそれだけ。
これはあくまで個人の嗜好の問題であり、別に物語を批判しているわけではない。
何度も言っているが、アカヤが好奇心旺盛で、様々な問題に首を突っ込まなければ物語は進まない。
物語の主人公としてはこれが正解なのだろう。
それに多くの子供が食いつく作品だ。少なからず子供は彼を受け入れていたのだろう。アカヤの行動に共感又は憧れを持っていなければここまで有名にはならなかったはずだ。
だから、認める認めないではなく、出来る限り関わりたくない。私はそう行動する。そんな宣言のようなことを心の中でした。
神様はこの世界で生きていく私の心の中を読まないと言っていたが実際は分からない。
だからこれは神様にあてたメッセージなのかもしれない。
あくまで私はこの世界を生きる一人のちっぽけな人間。
主人公たちと一緒に冒険に出るなんてことはまっぴらだ。
神様の望む人間に成れるように私は背景に生きる者たち緩やかに生きていこうと思います。
(まぁ、緩やか何て土台無理な話だけれど)
大きく息を吐いて伸びをする。
一人部屋がせめてもの救いだ。
今日から私は中学生。
魔術師見習い一年生になった。




