61.知りたくなかった事実
クー・シーには引き続きセージに張り付いてもらうとして、私は一度この状況を整理しようとケットシーと話した。
「そもそも友人たちから記憶を抜いても、その家族からセージの話題が出たらどうなるのかしら?下手をすると集団催眠の事実も明るみに出て、魔法界にも伝わっちゃう気がするんだけど?」
そんな杜撰なことをあのセージがするのだろうか?
「家族の皆様の記憶も奪うかどうかは分かりませんが、幼馴染と言うことですのでそれ以外の同級生や近所の方々から世良様の話題が出る可能性があります。そのすべての方々の記憶を操作できるとは到底思えません。」
そう、ケットシーの言うようにセージの存在を幼馴染たちから抜き取ったとして、それを完全犯罪よろしく誰からも不審がられないようにするためにはとてつもない量の魔力と時間、手間がかかるはずだ。
「世良様はこのことがばれてもかまわないと思っているのではないでしょうか?」
必ずしもこのことが表ざたになるとは限らないが、学校が始まり地元の別の友人たちから「夏休み何してた?」の延長で「セージは元気だった?」と聞かれる可能性はそれなりに高いはずだ。
一人が「セージって誰?」と言ったぐらいならば喧嘩をしたかなと思われるかも知れないが、あの人数が特定の人を忘れているとなると大事になるのは目に見えている。
「ばれてもかまわない‥‥」
ケットシーが言うようにセージのした行為はあまりにも無謀で、これから先どうするのだろうかと私は不思議に思った。
異界に逃げればいい、そう思ったとでもいうのだろうか?
「(来月の異界開門でもセージはこの場にとどまる。あちら側に行くのは三年生になってから。…それまで逃げ切れる方法があった?)」
そんな長い期間、魔法界からセージのやった行為は気づかれない又は黙認されるのだろうか?
「黙認、…そうか、だから今なのか。」
原作の中でセージが友人たちの記憶を奪ったと描写されるシーンはない。
一回目の異界開門前後、先生たちがセージに違和感を覚えたかも文章からは読み取れなかった。
だから本当のところは分からない。分からないが、九月過ぎれば先生たちはもちろん魔法界のお偉いさんたちもそれどころではなくなるのだ。
「異界開門による混乱。」
原作では一回目のそれを練習だと私を含め多くの読者が思っていただろう。
だが二回目が二年後とずいぶん時間がたってから実行されたことに私も他の読者たちも何か都合があったのだろうと考察していた。
その都合が二回目ではなく、一回目にあったとしたら?
少しずつピースがはまり始め私は楽しくなった。
そう、この時までは楽しかったのだ。
「本日世良様は幼馴染のグループに顔を出されることはなく、帰り支度を済ませると街に出て魔力狩りを行っていたようです。」
記憶を消しているのだから昨日までのように友人たちと遊んでいるとは思っていない。
異界の門を開くつもりなのだから多くの魔力を必要としていることも分かっている。
だからそれほど驚くことでもない。
驚いたのはその後だ。
「その後、ご自宅にお帰りになられ写真などの品を破り捨てていたそうです。」
どうやらセージは幼馴染たちとの思い出の心を処分していたそうだ。
「破いて?それで?」
「?破いてゴミ箱に捨てたそうです。」
その言葉をきいて私は想像以上に落ち込んだ。
「それから泣きながら『どうして』『何で』とつぶやいて__」
クー・シーの言葉を訳してくれるケットシーの言葉に重ねて私は言った。
「「変わらないって言ったやんか!」」
私の言葉にケットシー「なぜです?なぜです?なぜ分かったんですか?」と言った。
*
写真を破り捨てゴミ箱に捨てるなんてあまりにも杜撰だ。
ばれてもいいと思っていたとしても、見つからないに越したことはない。
私の想像上のセージならば写真類は燃やすなり、人の手に渡らない方法で廃棄したはずだ。
なぜそうしなかったのか、それは感情的になっているからだろう。
昨日の報告でもクー・シーはセージの感情を『激情』と言った。
では一体何に感情を揺さぶられているのか。
仮に仲間内で出来たカップルの恋慕していたのなら、それこそ魔法を使って奪い取ればいいだけだ。
そうしないだけの分別があったのなら、そもそもこんなことにはなっていない。
二人が付き合い始めたことにショックを受けたのは事実だったのだろう。
それはそれとして、時間がたってから激情する理由は何か?
「変わらないものなんてないやろ。」
「今は時間があるから集まれるけど、そのうち難しくなるんだろうな。」
「大人になったらそれぞれ大事なものもできるしね。」
友人たちの言葉だ。
この直後、セージは無謀な魔法を使った。
「あほすぎる。」
思わず吐いて出た言葉は想像よりも温度がなく、私は心の中でフザケんなよとセージを軽蔑した。
何てお子様思考!
何て自分勝手!
今まで私の中にあって世良錆二というキャラクター像が音を立てて崩れていく。
「変わることが嫌だったなんて、サイコパスでもなんでもない、ただの駄々っ子じゃない!」




