57.まさかの理由
「おかしいですよ。おかしいですよ。世良様はあれから毎日、出歩いては魔力の持っている人間からその力を吸い上げています。」
セージがご両親から魔力を奪った日、被害者の二人は床に倒れた。
セージの魔力の吸引方法は相手の顔面を手のひらで覆うこと。
どう考えても相手から追及されそうな方法だったが、セージの異能は『洗脳』だ。
前後の記憶をまるっと消して、あたかも相手が貧血か何かで倒れたように装った。
「しかし、しかし、こんなやり方すぐに足が付きます!」
ケットシーはそう言ったが、私はそう思わなかった。
街中で出会った人はおそらく面識がないだろうし、人影で魔力を吸引し記憶を消してそのまま放置すれば、被害者は自力で起きて帰るか救急車で運ばれるかは分からないが、それで終わりだろう。
事件性がなければ警察は動かなし、他の魔法使いたちにも伝わらない。
何せ被害者が記憶を持っていないのだ。
「気づいたらめまいがして。」
その証言に対し誰が異議を唱えるのか。
仮に一連の行動が防犯カメラに写っていたとしても、誰かがその瞬間を目撃でもしていなければ不覚調べはしないだろうし、それぐらいは気を付けているはずだ。
「何で今になってと動き出した?」
セージの行動で変わったことといえば、朝から晩まで過ごしていた幼馴染グループへの参加が午後からになったぐらいで、午前中は魔力狩りを行っている。
その直前にいつもと違う何かがあったとすれば、半分以上聞き流していたグループ内のカップル成立ぐらいだ。
「(さすがにそれはないだろうし。‥‥もともと動き出す予定だった?)」
何て私の予想はすぐに覆る。
クー・シーの報告でセージが一瞬だけ殺意を放ったというまさかの行動。
一体何に対し、あれほどまでに仲の良かったグループでセージは感情を乱したのか、私はクー・シーに今日見てきたことを逐一教えて欲しいと頼んだ。
「うっそん…」
クー・シーがお使いで出来ることは何かを持って帰って来ることと、相手を監視すること。
カメラ機能なんてものはなく、あくまでクー・シーが見て感じたものをケットシーに訳ししてもらい、自分で考察するしかないのだ。
そしてクー・シーの話では私がよくあることと聞き流したそのことがセージの殺意に関連していたというから再び驚くことしかできなかった。
セージが仲の良い友人に対して殺意を放ったのは、件のカップルがデートをすると言い明日は来ないと言ったときのことだった。
「…その女の子のことが好きだったとか?」
普通に考えればそれが自然だ。
「しかし、しかし。世良様はその日までは特別その方に何か感情を向けることなく、淡々と過ごしていたとクー・シーは言っております。」
誰かの恋人になったことで自分の気持ちに気づいた。
それもおかしな話ではない。しかしセージだ。
どうにも腑に落ちなかった。
「それで?何かアクションは起こしたの?」
二人の間を邪魔するなり、機嫌を損ねるなり何かあっただろうと聞いてみればクー・シーは首を横に振った。
セージは感情を表に出さないようで意外と短気だ。
少なくとも物語を読んできたときはそう思っていた。
まだ半年も一緒にいない彼からそう言った印象は見受けられないが、特別仲の良い友人たち相手ならばもっと素直に感情表現しそうなものだとますますわからなくなった。
原因。
それは本当に幼馴染の中からカップルが生まれたことなんだろうか?
仮にそうだったとして、それが殺意に変わる理由はなんだ?
叶わぬ恋に身を焦がし、後れを取った自分にかはたまた、奪い去ったその恋人か、どちらにせよセージには似合わないと思った。
「(似合わないと言ってもセージもまだ13歳。私が勝手にセージを作り上げただけ?)」
そう思ったら何となく残念なような、もの悲しいような憂鬱な気分になった。




