54.途中退場の理由
お使いから帰ってきたクー・シーは口に加えた箱を私に渡した。
中に入っていたのは綺麗な赤色のピアスが片方。
「これって…」
普段セージの耳についていた物だった。
少しばかり長い髪で隠れている耳に飾られているそれは、入学時誰だったか「ピアスしてんの?」と聞いていた気がする。
「お守りですよ。」そう言って誰も不審に思わなかったのは、直前に三浦先生の耳にある三つのピアスがあったからだ。
この学園での校則というものがどうなっているのかは分からないが、そのことが特別問題視されることもなく、それは当たり前にセージの耳にあった。
「(いつから計画されていたことなの?)」
このピアスが魔道具なのか、それともただのピアスに魔法を込めたのか、ケットシーの見立てでは前者のようで、少なくとも最近付け始めたものではない様だと言った。
「確かに細かい傷がついている。」
ピアスのキャッチ部分にある傷を見て、これが新しいものではないと言うことは分かったが、それはセージが長年使っているという理由付けにはならない。
元は誰か別の人が使っていて譲り受けたか、中古品を見つけ出したのか、考え出したらきりがない。
あくまでこれはコピーしてきたものだから、本物はセージの耳に今もあるだろう。
これを使って資料により判明した魔力量の多い三浦先生から魔力を奪い、クラス分けのある九月とそれからセージの最後となる二年後に異界の門を開けるのだろう。
魔法の使いすぎは危険であると最初から習っている。
三浦先生の胃に穴が開いたのはセージから日々魔力を奪われたからなのか、二年後のあの日に大量に魔力を奪われることがあったのか、それともセージの魔法によるダメージを先生の能力で移動させたものなのか、どれかは分からないが途中退場のはっきりとした理由が判明しつつある。
「(最悪ピアスを奪ってしまえば門は開けない?)」
これはあくまで最終手段だが、本当にそれでいいのだろうかと疑心暗鬼になる。
「(そもそも、セージは何で異界の門を開きたいの?)」
原作でもその辺りは全く語られていなかった。
「(異界と現世を繋ぎたかった?それとも異界に行きたかった?)」
頭を悩ませつつ、日課の魔力吸収のためキヨの元へと進む私は異界へのメリットについてひたすら考えていた。
結実は好きな人のいる世界と繋がりたいという分かりやすい理由があった。
ならセージはどうだろう?
「珍しいね。どうしたの?そんな顔して。」
そんな顔とはどんな顔だろう?そんなことを考えつつ、「おはようございます。」とキヨに挨拶をしてなんと返事をするべきか考えた。
「異世界に転生するメリット?」
この世界で有名な小説投稿サイトはクラスでも時々話題に上がることがあった。
「ええ、随分とそう言った設定が多いなって。仮に知っている別の世界へ行きたいというのならまだわかるのですが、どこに行きつくか分からない世界に人は行きたいものなんでしょうか?」
もちろん、小説の中の主人公たちは皆が皆、望んで異世界へと言っているわけではない。ただ中には自ら志願していくような設定もあるはずだ。
「えーっと、キャラクターがというより読み手がそれを望む理由が分からないってこと?」
そうキヨに聞かれ私は頷く。
「私の想像力不足なのかもしれませんが、言葉が通じないとか危険地帯とかの可能性もある上で人が異世界を望むメリットが分からなくて…」
小説に現実的な話を持ってくるのはつまらない。
この言葉は面倒で可愛げがなさすぎるかもしれないと思ったが、思い付きで話し始めてしまったのだ今更後戻りはできなかった。
「異世界へのメリット…」
なぜか遠くを見るキヨは「僕は分かるかも、その気持ち。」と言った。
「メリットというよりも、どこか遠くに行きたい。ここではないところに、それこそ死んでしまってもかまわない。全部どうでもいい、って気持ちもあるのかもしれない。」
その言葉に『しまった』と思ったのは私か、それともキヨだったのか。
私たちの間には気まずい空気が流れた。




