40.亀裂
原作とは違い主人公組で行動はしていなかったが、別段仲が悪いという印象はなかった。
それがここにきて、キヨがアカヤに対してあまりよくないイメージを持っていることを隠さなくなったことに私は驚いた。
「アカヤ、この間のこともあるし少し真面目に授業を受けたら?」
一見アカヤのことを心配しているような言葉だったが、キヨの表情は険しい。
私の知らないところで何かがあったのだろうか?そんな深読みをしたが、実際は違った。
「本当はずっと前から苛立ってはいたんだ。」
勉強会でモモがいない時にキヨは言った。
「最近アカヤと何かありました?」私がそう聞くと、スミレちゃんやレオも頷いたのだから誰の目から見てもそれは分かったのだろう。
「でもモモの兄弟だから…」
言葉を濁すキヨにスミレちゃんは声には出さないが、言葉の意味に対しキャーと色めきだったし私はなるほどと原作同様すでにキヨはモモが好きなのだと悟った。
モモのことが好きだから原作のように行動を共にしなくてもアカヤを気にかけていたし、部屋が隣だと言うこともあって何かと会話をする機会は多かったのだろう。
それがあったから私たちはアカヤとキヨはそれなりに仲がいいと思っていた。
「確かにあの態度は気に食わんな。」
キヨの気持ちに気づいていないのかレオは頷いて同意した。
「ここは魔法を学ぶ場であり、遊びの場ではない。休み時間ならまだしも、授業を受けるものとしてのあの態度は失礼だ。」
レオの言う通り、アカヤは典型的な中学一年生(いや、それよりも幼い?)。
休み時間になれば校庭に走り、遊びまわって授業中はぐったりとしていたり、授業が終わりに近づけば気もそぞろで外を見ていることが多々あった。
夜更かしをしてか朝一の授業では寝ていることも多いし、最近は深夜の職員室侵入のこともあり教師陣からマークされている。
その監視されていることに腹を立て、寝ていない時もあまり授業態度がいいとは言えない。
今日モモがいないのもアカヤの件で職員室に呼び出しされているからだ。
「あと、帰る場所があるのにそれをうざったいって、アカヤは言うんだ。」
「(あ、やっぱり何かあったんだ。)」
暗い表情のキヨに良い子の二人は心配そうに顔を見合わせている。
「僕たちが聞いてもいい話か?」
こうやって相手に気を遣うレオは本当にいい子だ。
原作では主人公のライバル役と言うこともあり、嫌味な性格のように表現されてはいたが気位が高い本人の性質と、育ってきた環境からの言動。
言葉の意味だけを捕らえれば原作でもレオの言っていることはいつだって正しい。
そんなレオを見つめるスミレちゃんを見て私は嬉しくなった。
「(見る目あるよスミレちゃん。)」
苦しい時に助けてくれた人だからレオを好きになったのかもしれない。
でもそれはあくまできっかけだろう。
レオはいつだってスミレちゃんを気にかけていたし、それ以外でも誰かを害するような人ではない。ここでの発言だって陰口ではなく、レオの思ったアカヤへの思いだ。
きっと彼ならアカヤを目の間にしても同じことを言える。
「(それにレオと結ばれれば絶対に幸せになれる。)」
スミレちゃんの生い立ちを知っている身としては彼女には幸せになってもらいたかった。
*
「夏休みに僕は親族がいないから寮に残るって話をしたんだ。そしたらアカヤが羨ましいって…」
アカヤたちも現在両親はおらず、夏休みは遠縁の親戚の家に行くと聞いたのは先日のことだ。
彼からしてみれば母親を亡くした後すぐに学園へ入学となったから、大して話したこともない親戚の家にいるよりも寮に残った方がのびのび出来るという意味で言ったのだろう。
「(あ、原作崩壊の影響だ。)」
アカヤはキヨが天涯孤独であることを本当の意味で知らないのかもしれない。
そのエピソードが語られるシーンが生まれるほど、二人の仲は近くない。
『親族がいないから』という言葉を単純に近くにいない、または自分たちのように最近亡くしたととらえ、同じ境遇だなとアカヤが判断したのかもしれない。
「(どれだけキヨが家族を欲しがっているか知らないアカヤが地雷を踏んだ。)」
つい笑いそうになる表情を引き締め、思考をずらそうと試みたが遅かったのだろう。
久々にくる痛みに私は顔をしかめる。
「‥ッバ、ハイバ!!」
スミレちゃんの声に顔を上げ、浮かんだ脂汗を手でぬぐう。
「(すぐにそらしたから今日は倒れなかったぞっと)ごめん。もう大丈夫。」
上手く作れなかった笑顔だがこの場はそれでもいいだろう。
さっきまでの暗い表情はいつの間にか心配を浮かべ、キヨまでこちらを見ていた。
「ごめん、話の腰をおって。」
そう謝れば「本当に大丈夫か?」と心配される。
話が戻らないからこの頭痛を話の中に組み込んだ。
「いや、私もそんな風に言われたらいやだなって考えたら、頭の中がぐちゃぐちゃしちゃって…」
そう悲しげに言えば「そ、そうよね…」と私の事情を知るスミレちゃんはことを察してくれた。
「ハイバも、家族、いないんだよね。」
その小さなつぶやきが部屋の中で響いた。




