⑩本文抜粋 設楽先生
「あらあら、こんなところでどうしたんですか?」
本棚の奥、暗闇から聞こえてきたのはアカヤたちのよく知る声だ。
「もう消灯時間は過ぎていますよ。」
そう言ってその人は笑っている。
明らかな校則違反。しかも昨夜は学園の禁書が何者かに盗まれたという事件が発生している。それなのに目の前の人、設楽先生はランプを手にその姿を現しこちらへとにこやかに近づいてくる。
アカヤたちを犯人とは思っていないようで、「危ないですから早く部屋に帰りましょうね。」と言っていた。
「設楽先生でラッキーだったね。」
モモのその言葉にアカヤとキヨは顔を見合わせそれぞれ苦い顔をした。
だっておかしいじゃないかと言いたかったが、設楽先生本人が近くにいる場で話すことではないとそれぞれ部屋に戻っていく。
設楽先生はアカヤたちが昨日事件が起きた図書館に入ってしばらくしてから声をかけた。
本棚の奥、しかも明かりは灯っていなかったのだからじっとアカヤたちよりも早くにその場にいて、自分たちの行動を観察してから姿を現したのだろう。
もちろん、犯人を捕まえるために潜んでいてアカヤたちの言動を見て犯人ではないと判断したから姿を現したのかもしれない。
「(僕らがここに来るって初めから知っていた?)」
「(いつもタイミングが良すぎる。)」
二人は言葉に出さなかったけれど、設楽先生に言いようのない不穏な影を感じていた。
キヨは困っているといつも現れるその人の存在に困惑する。
「(母があの事件を起こした人物だからマークされている?)」
まだ自分の母親が鳥居結実と決まったわけではない。
だけどキヨはどうしても自分とその人物が無関係には思えなかった。
そしてやたらと事件に詳しい設楽先生は自分を警戒しているから常に傍にいるのではないかと思えてきた。
「(僕と彼女と同じ土属性の先生。入学前から魔法界についていろいろと教えてくれた。異能の創生にもたくさん手を貸してくれた。そんな先生を悪い人だとは思いたくはない。)」
キヨは設楽先生を信じたかった。
これまでも困っていれば手を貸してくれたし、校則違反をした際も何度か見逃してもらっている。先生は知らないことだが、キヨたちは先生の忘れ物を使い秘密の薬を作ったこともあった。
「(うっかり忘れもの…あの時はそう思っていたけれど、あれも全部僕がどう行動するか泳がされていただけだとしたら‥‥!?)」
キヨはめまいを覚え、足元がふらついた。




