*名前
「怜青って名前さ、キラキラネーム?すんなり読めないんだけど。」
喧嘩を売っているわけではないが、聞く人によればそれは馬鹿にされているように聞こえるかもしれない。
現にスミレはいまにもアカヤに食って掛かっていきそうな顔をしていた。
アカヤがレオにそう尋ねたシーンは原作にはないものの、彼がその名前に憧れを持っていると言った描写を読んで知っているハイバは何とも言えない気持ちで苦笑すればいいのか、苛立てばいいのか分からなかった。
「キラキラ?しているかは分からないが、外国に行ったときも通じやすいようにと両親が考えてくれた名だ。僕は気に入っている。」
特別、感情をあらわにすることはなくレオははっきりとそう言った。
その言葉を聞いてハイバはうまいなと思った。
レオは計算してそう答えたわけではないだろうが、嫌味や悪意への最大の攻撃はこうした善良な感情なのかもしれないと感じたからだ。
案の定、レオの返答にアカヤは何も言うことはできない。
ハイバは鼻で笑いたい気持ちを押し込め、「素敵なご両親ですね。」と当り障りのないことを言葉にする。
「私はスミレの咲く時期に生まれた菫なんだよね。レオが羨ましい。」
「あ、私も桃の花が咲いた時期だから桃花だよ。一緒だね!」
両親のことを思い出してか、本当に名前に不満があるのかは分からないが少しばかり気落ちしているスミレにモモは笑いかける。
「ならアカヤはなぜアカヤなんだ?君たちは双子だろ?」
桃の花の時期、赤にまつわる何かがあっただろうか?その場にいたレオたちは首をかしげる。
「あー、…男女の双子って珍しいらしくて。生まれるまで女の子と思われてたから、アカヤ。」
苦笑したモモはアカヤの名の由来を知っているのだろう。ちらっと彼を見てそれを言うべきか悩んでいるようだった。
「生まれた瞬間、真っ赤な顔で大泣きしてたから赤い顔の赤ちゃんで赤也なんだよ!文句あるか!?」
誰も文句など言っていないのにアカヤはそうまくしたてた。
原作にはなかったキャラクターたちの名前の由来。
ハイバはそんな新情報に少しばかり胸が躍ったが、続く言葉で自身の体温が下がっていくことを感じた。
「ハイバは良子、良い子って意味だよね、きっと!」
悪気は全くないモモの言葉にハイバの表情は固まった。
普段から名前ではなく名字で呼んで欲しいと言っている彼女。
なぜ名前は駄目なのだろうか。そんな気持ちもあったのかもしれない。
ハイバは自身を『良い子だからだね』と振られ、つい感情がセーブできないでいた。
普段の彼女ならば絶対しないような笑い方に、会話に参加していなかった教室にいる面々もただならぬ空気を感じ、口を閉じた。
「ええ、この名は私が良い子に、自分に逆らわないようにと付けられた呪いの名です。」
冷たいほほえみ。
口元は笑っているが目は全く笑っていなかった。
その名は一体だれが付けたのか、誰もが聞きたかったが聞いてはいけない。
本能でそう感じとり、この会話は終了となった。
天上で「違うんですっ!!!」と叫んでいる神様が一人。




