30.生きやすいように
「じゃぁ、ちょっと試してみるね。」
部屋の扉が閉じるのを確認して私は紐を引っ張った。
じりりりりりりりりりりりぃっ
耳をふさぎたくなる騒音。
私は慌てて紐の先についていたピンを元の位置に差し戻す。
これで音は鳴りやんだ。
「大丈夫ちゃんと聞こえたわ!」
となりの部屋のスミレちゃんがそう言って入ってきた。
「かすかだけど、私の部屋でも聞こえた!」
そう言ってやってきたのは二つとなりのモモ。
「ならこれで大丈夫みたい。もし何かあればこれで知らせるね。」
これは防犯ブザーの音がどこまで聞こえるかのテストだ。
部屋で倒れているんじゃないかと心配という二人と他何人かが、自由時間も部屋にやって来るのを防ぐため、建前上はこれから忙しくなる、気を使わせたくないという理由で、もし自分で身動きが取れない状況になればこの音で知らせるという提案をした。
有り体に言うのならば、必要以上に部屋に来てほしくないからと言うことだが流石にそれはいえない。
これにどれほどの効果があるかは分からないが、忙しくなってきたのは本当だ。
入学直後の学校に慣れよう週間はもう終わり、毎週の小テストも始まった。
五行の属性選別も無事終了し、これからは個々に課題も出るようになる。
ありがたいことに個々の課題は誰かに教わるなんてことはできない自分だけの問題。
手伝ってもらうにも誰もが自分の課題を抱えている状況。
小テスト対策はともかく、課題に関しては一緒に勉強なんてことは言っていられないのが現実だ。
これをチャンスとばかりに私は放課後は部屋に引きこもり、それを心配した彼女たちに今回の提案をしたという訳だ。
私の唯一のアドバンテージ大学生活。
この学校で習うことは未知の物ばかりだったが、物事のタスク管理は慣れている。
毎週のテスト対策も出された課題も自分の時間さえあればそれなりにこなせた。
余りにも順調に物事を進めすぎると他の子の様子を見てほしいと言われることを予感し、それなりに表面上を繕いつつ残った時間を私に課せられた最重要、この世界で生き残るための選択に時間を割り振る。
さらに幸運だったのは私の魔力は元々はキヨからもらったものだからなのか、私は魔力を消費したところで皆ほど体力は奪われないと言うことだ。
授業で習った魔力とは生命エネルギーの一部。私はこれを血液をイメージしている。
使ったところで休めば戻るものの、大量に消費すれば命に関わる。
使わずにいることもあまりよくはなく、コントロールを覚えるためだけではなく循環させるためにも毎日の実技の時間があると説明された。
「(血液のない私は一体何なのか‥‥)」
もちろん、本当に魔力=血液という訳ではない。
だからこそ、足りないから貰ったものを使いきったとしても私自体には影響が及ばない様だ。
「(これで考える時間ができた。)」
ようやく戻ってきた自分だけの時間。
私はほっと胸をなでおろし、目をつぶってこれから先を思い出す。




