29.常識人に相談
いい加減、人に構われることに苛立ちを覚えそのたびに私は考えてはいけない悪意を心の中に生み出しては痛みに苦しむという負の連鎖に陥った梅雨の時期。
じめじめしていることも相まって余計に苛立っていた自覚はある。
実年齢が五つ以上離れている同級生との会話は非生産的で、馬鹿にしているわけではないがどうしたって話が合わない。
まして親元を離れたばかりの少年少女はいつだって自分の話を聞いてとばかりに言葉を紡ぐ。
きっかけこそ私の体調を心配してのことだとは分かっているが、私の体調が許す限り彼らは自分のことを話してばかりいる。
休み時間、昼休憩、放課後、そればかりかトイレに行く間ですらその口が閉じることはない。
そして話している内容は大したことはなく、気づけばループしていることなんてざらだ。
元々、私はべったりとした関係は友情、恋愛はもちろん家族間だって苦手な方だった。
自分の話をすることは嫌いだし、他人の話なんて興味はない。
人間が嫌いという訳ではなく、ただ一人の時間を一定数貰わないと耐えられない性分なのだ。
それは悪意とは無関係のはずで、神様もこの世界でべったりとした付き合いを望んでいたわけではない、たぶん。
「(つまり私は選択を間違えたと言うことで…)」
今日も姦しく話し続ける彼女たちを見てうんざりする。
「(嫌いじゃなかったけど、流石にこう毎日だと嫌になる)」
でもうっかり苛立った衝動で余計なことを考えるとさらに事態は悪化する。
一人の時間が欲しかった。
モモとスミレちゃんと仲良くなるまでは読書に充てていた時間が今は一分だってなかった。
自室に戻ってからも、倒れていないか心配とたびたび訪ねてくるのは二人以外にもいて(その中には先生たちも含まれる)心配してくれることはありがたい、たとえ訪ねてきた後、そのまま部屋に居座っていくことはあるものの根本にあるのは私への気遣いだ。
「(でも有難迷惑~。)」
怒りを通り越し、今は恐怖すら感じる現状に私はほとほと困り果てていた。
物語の改変よりも自分の現状に不安を覚える。
神様は贅沢な悩みだというかもしれない。
「…つらい。」
独り言は基本しない方だ。
いつ誰に聞かれているか分からないし、この世界に来てからは立場上、自分の首を絞めかねないため重々に気を付けていた。
それなのにこぼれた言葉は誰かに聞いてもらう前提だったのか、小さな声であったが隣の席に座っている彼には当然届いていたようで「保健室に行きますか?」と問われる。
これ以上の病弱キャラはごめんだし、そもそも辛いのは肉体ではなく精神。
私は苦笑しつつ首を振る。
「疲れているのは精神面ですよね。」
いつの間に来ていたのだろう。アオイ君と全く同じ口調なのに思わず身構えたくなるような重低音な声が私の心情を語った。
「おはようございます。」
中学一年生で声変わりが完了しているのかと、原作には書かれていなかった設定を目の当たりにしたものの今は喜べずにいる。
まだ始業時間よりも三十分以上早い時間。
普段なら私とアオイ君の静かな時間。それが後、十数分は続くはずだった。
「珍しく速いですね。」とアオイ君も思ったようでセージにそう言っていた。
「今日は寝起きがすこぶるよかったから。」
どうやらセージの寝起きは最悪らしく、起きてからベッドを出るまで数十分。起動するまでさらに時間を必要とするらしく、毎朝ギリギリ登校だ。
「それより、一人の時間が持てなくてイライラしてんでしょハイバさん。」
すっかり流れたと思っていた会話に戻され私は少しばかり硬直する。
私が一人の時間が持てないことがストレス、それに気づかれることは別にいい。もしかしたら私の表情のつくり方が甘かったのかもしれない。
それよりも問題なのは『イライラしている』と言われたことだった。
私はこのクラスでは穏健派。
敬語で病弱。頭はいいけれど主張はなく、見る人が見れば偽善的と取られる行動を心掛けて生活していた。
「(なのにイライラ?)」
確かにここのところイライラすることは多かった。
でもそれを顔に出したつもりはない。
もちろん、彼の〈異能〉は私に効果はなく、そこからばれる可能性もないはずだった。
「(なら何で?)」
眉間にしわを寄せることも、顔をしかめることも、体調不良時(まさしくイライラの最高潮な時ではあるが)以外私は自分の部屋以外ではしていなかったはずだ。
「(_____でも、)」
否定は彼に反撃のチャンスを与えることになる。
人は否定されるとその意見を覆すため、反撃してくることがある。
「(だから肯定するが吉)確かに、一人の時間がないことに結構参っているかもしれないです。」
苦笑いを作り、柔らかい言葉で受け入れる。
その反応が意外だったのか、セージは分かりやすく「おや」と言葉にして私を見た。
むしろ私よりもアオイ君の方が「イライラって。」とその言葉に苦言を呈している。
「私だったら耐えられません。あんな四六時中付きまとわれるなんて。」
と若干大げさな手ぶりで告げたセージに「付きまとわれるって。もっと他にいいかたがあるでしょ。」と又してもアオイ君の方が言葉に引っかかりを覚えているようだ。
これ幸いと私は肯定も否定もせず苦笑する。
でも「まぁ、確かに。」と頷くアオイ君を見て同級生の中では大人びた二人から見ても、やはり私を取り巻く環境は息苦しく見えるようだ。
「でも時期に忙しくなりますし、もうしばらくすれば落ち着くんじゃないですか?」
時期というのはもうすぐ属性ごとの実技授業が本格化することをさしている。
「魔力を使えばそれだけ体力も持っていかれますし、人を気にする余裕もなくなると思います。」
「確かにね。まぁ、ハイバさんも疲れちゃうだろうから自分の時間を有意義にっていうのは難しいかもしれないけれど。」
同じ敬語なのにどうして後者は胡散臭いのだろうかと真剣に考えたくなる。




