25.変動した立ち位置
「今度一緒に勉強会しませんか?」
「は?なんでお前と?」
私がそう声をかけたのはモモちゃんとスミレちゃんだ。
それなのに返事をしたのはアカヤだった。
「(お前じゃねぇよ。)」
思わず引きつりそうになる表情筋を抑えアカヤに苦笑したのち、私はあくまで彼女たちに顔を向け話しかける。
露骨にスルーするとうるさくなるのは目に見えていたため、一応アカヤに顔を向けたのち彼女たちに向き直った。
「だって学年一位の方がまとめたノートですよ。私気になります。少ない女子同士仲良くできたら嬉しいなぁと思ったんですが、だめですか?」
私の言葉に可愛い女子二人は目を見開き、モモは分かりやすくスミレちゃんは表情を隠すようなしぐさを見せながらも「もちろん!」「別にいいけど。」と肯定してくれた。
「はぁ?こんな奴のノートで勉強なんてしたくないんだけど!」
「(だからお前に言ってるんじゃないっての!)」
又しても勝手に会話に参加するアカヤの言葉に空気はピリッとした。
「(本当に邪魔)え?湯月君と結城君って入学前からの知り合いだったんですか?」
そんな設定はないことを知っているが私は驚いたとばかりに声を上げる。
「いや、違うが?」
「はぁ?」
息ぴったりに同じタイミングで返事をしてくれた彼らに、私は不思議そうな顔で言い返す。
「(これくらいのことは意地悪には入らないだろう)いや、だってまだ一か月も一緒にいない相手にこんな奴って言えるほど結城君は佑月君のことを知っているのかなぁって。しかも自分でまとめたノートを貸してくれるいい人をこんな奴っていうぐらいだから、何か因縁とかあるのかなって、ねぇ?」
とりあえず隣にいるスミレちゃんに聞き返すように問う。
確かに多少威圧的に見えるかもしれないが、レオはモモちゃんに自分の作った参考資料を貸してくれようとしただけだ。そしてこのノートを双子が断ったのち、今度は勉強に躓くキヨにレオが参考書を貸すエピソードに繋がる。
「(あんな目にあった後も他の生徒の心配をするレオは悪い奴ではないと冷静な人間ならばわかるはずだ。)」
それを『こんな奴』と決めつけ、まだ何も知らない相手を敵認定するアカヤのこのエピソードは元から物申したかった。
「(まぁ、自信満々で受けたテスト。自分よりはるかに上の成績だった彼にライバル心を燃やす子供らしい感情と言えばそれも納得だが…。)」
でも巻き込まれた方はたまったもんじゃないだろう。
「うん!レオはすごく優しいよ!顔は恐いけどすごく面倒見がよくて、頭がよくてすごいんだから!」
空気をぶち壊すようにレオを褒めたたえるスミレちゃんに私はほっこりする。
彼女のこういう面を見れば案の定、モモも彼女の気持ちに気づいたのか思わずにっこり顔だ。
それから放課後の自由時間、私たち女子三人と時々レオとキヨ、稀にアカヤが加わり勉強する時間が日課となった。
この勉強会のおかげで私のクラスでの立ち位置は少しばかり変わった。
今までは好意的に見れば一匹狼、実際は浮いているいけ好かない女と女子から思われていた。
それが成績発表により上位クラス確定の私が学年一位のレオを教師にして勉強会を行っている。
元々陰口をたたくぐらいしか攻撃してきたことはなく、彼女たちも大事はしたくないのだろう。
私は彼女たちの標的ではなくなり、清々しいまでの手のひら返しで今では親し気に挨拶をしてくる。
キヨはこの勉強会に参加したいのだろうがアカヤがいる手前、というかアカヤがキヨを連れまわしている時は参加できずどこまでも迷惑なやつだった。
まぁ、私がアカヤにあまりいい印象を持っていないからこう語っているが物語のキャラクターとしては人気があったし、同年代の同性からは好かれる性格なのかもしれない。
「(私が女子だからアカヤに魅力を感じないとか?)」
後半、膨大な魔力を使いバトル物化したり読む人によっては気持ちがいいキャラクターになった可能性もある。
何よりも彼がそういった性格でなければ物語は進まない。
「ハイバちゃん?」
何度かの訂正後、ようやくモモちゃんは私を名字で呼んでくれるようになった。
「あ、ごめん。何だっけ?」
うっかり意識が別の方に向いていた。
この勉強会で私がすることは彼女たちとの交流を深めることではなく、キヨに五行判定の際『水属性』を自分で選ぶよう潜在意識にそれを植え付ける作業だ。
キヨがこの場に来るのは放課後アカヤに別の用事がある時だけ。
「(まぁ、男の子同士だしそこまでべったりな関係ではないんだろうけど…)」
サッカーにバスケ、主に集団でするスポーツにあまり積極的ではないキヨはアカヤが放課後別の友人と遊ぶ際はここにやってくる。
「(でも原作よりももっとあっさりしている?)」
もちろん、原作に書かれている時間外は彼らがどのように日常をおくっていた読者たちには分からない。
あくまで文章がある範囲からの予想、考察であるが、アカヤとキヨの関係は主人公同士だからと言うこともあってかもっとべったりとした関係のように見えた。
「(いい感じにアカヤからキヨを剥がせた?)…そう言えば、もうすぐ五行の判定日ですよね。どの属性がいいとかあったりします?」
でもまだ油断はできない。
重要なのは今の関係ではなくて、後日行われるキヨの五行の属性だ。
アカヤとキヨの関係がいいとか悪いとかはこの際置いておいて、今は重要なそれに目を向ける。
「私は多分、水だろうな。治癒系の力は生まれ持ってあったし。」
モモはなんてことのないように言っているがこれはすごいことだった。
属性決定、そこから専属の教員による修業が行われて初めて五行を使いこなし、それから自分にあった能力を見つけ、ようやく<異能>を身につけていくのが普通だ。
「ええ?もう力が使いこなせているの!?」
スミレちゃんの驚いた声に嫉妬心や恐怖心のようなものは感じられず、私はこっそり安堵する。
この二人の関係も原作とは全く違い今では仲良しだ。
恋をする女の子とそれを応援する友達は必然的に近づく。
二人を見ていると私のした原作改変も悪いものではないなと思えるから余計に嬉しい。
「すごいですね!しかも治癒系。めっちゃ羨ましいです!」
私の敬語がおかしいのは意図的である。
余りにも固すぎる言葉遣いは相手に警戒心を与えるし、かといって今更中学生らしいテンションで話すことも難しい。
あと相手に対し何らかの影響を与えようとする際、それなりの言葉遣いでなければ言葉に説得力が生まれず相手に響かない。
結果この中途半端な敬語が生まれた。
「一番活用の場があるのって治癒系じゃないですか。自分の大切な人が怪我をした時とか治してあげられるなんてすごく貴重です。」
私の言葉にキヨは深く頷いた。彼は祖父母の事件のこともあり、本当はこの能力を身につけたかったのだ。
「えー、でもアカヤなんかは治癒よりワープ系の方がよかったって言ってるよ。」
この時からアカヤはワープ系の能力を他人に求めていたのかと、顔を顰めそうになる。
「(危ない危ない)でもワープ系って考えようによっては結構危険じゃないですか?何かあるたびに疑われるって言うか、あといいように使われそうっていうのもあるし。」
ワープ能力のネガティブキャンペーンを今日は実施してみた。
「あ~、確かに物を盗んだり悪戯したり、悪い人が持っていると危険な能力ではあるよね。そのたびに疑われるのは確かに嫌かも。」
スミレちゃんの後押しもあり、モモもキヨもなるほどと頷く。
「いまテレビに出ているアイドルって皆、金属性持ちっていうの本当かなぁ?」なんて話題は別の方に逸れつつ、私はキヨを観察する。
正直なところ私の言葉が彼にどこまで届いたかは分からない。
でもやれることはやった。
これ以上は逆効果になりそうで現段階で出来ることはここまでと、あとはもう少しでやって来る五行判定の日を待つだけになった。




