24.善意の押し売り
学園生活が始まって少しばかり時間はたってしまったが、幸いなことにまだ主人公組とレオの衝突は起きていない。
今はまだ始まったばかりの学園に誰もが適応している最中。
授業も学校のルールや魔法界の禁足事項などをたたき込まれている最中だ。
そもそもこの魔法学校は魔法のコントロールを目的としているように見えるが、本来のそれは異界への亀裂の発見、報告と修復ができる人間を増やすためにあると一部考察サイトでは言われている。
もっともそれは結実が異界への門を開いた後からできた措置ではないかとも言われているから、本来はコントロール目的で間違ってはいないのかもしれないが実際のところは不明だ。どちらにしてもこの期間が学園側にとっても重要なことは確かで、学友と親交を深める余裕など時間的にも精神的にもまだないと言えるのだろう。
ぎっちりと組まれたカリキュラム、慣れない魔力の消費、親元から初めて離れ他人と生活を共にする環境。部屋に戻れば誰もが泥のように眠っているのではないかと考える。
まだ互いの実力も分からず、誰もスタートラインに立っていない状態。
おそらくは今日から始まる朝の小テスト、ここで主人公組のレベルの低さにレオが心配しお節介を焼いた結果、衝突が生まれる。
本来はこれより前にモモとスミレちゃんのいざこざもあり衝突が生みやすい状況だったが、そちらは偶然にもなくなったため多少は火が付きにくくなっているかもしれない。
(でも油断は禁物。)
卒業アルバムは一応結実が在籍した年の物も揃っている。真新しいことに引っかかりを覚えるかもしれないが、見落としてくれることを祈る。
少なくとも何の情報もなしに卒業アルバムから母親を探そうというのは無理がある。
たまたま三冊が抜けていたからその中にいるかもと思っただけで、名前も顔も知らない結実を見つけ出すことはおそらく不可能だ。
これでキヨからアカヤへの協力要請はなくなるし、卒業生を訪ね歩きアルバム探しの冒険もなくなる。
(そもそも協力要請もアカヤが勝手にそう受け取っただけで、キヨは別に求めてもいなかった。だからこのイベントはなくなってもいいわよね?)
頭の中で原作と現実を照らし合わせ、少しずつ改変を行っていく。
直近でやることと言えばこのテストの後、レオとの衝突を防ぎ実技の五行判定の日、キヨに『土』属性ではなく『水』属性を選ばせることだ。
(これだってキヨ自身は水属性を選びたかったのに、アカヤに言われ土属性を選んだ。しかもその理由が友だちがワープ機能を持っていたら便利という理由だったと知った時はマジで死___)
突如襲われた頭痛。
頭痛と毎回言っているが、そんなものではない痛みに脂汗が出る。
「顔色が悪いけど大丈夫か?」
隣から声をかけられ、とりあえず頷く。
この痛みのせいで私は保健室の常連だ。
うっかりイベントを見逃すなんてことになったらあとに響く、何とか痛みをやり過ごし小テストの時間を待つ。
(外でアカヤについて考えるべきじゃなかった。)
うっかりアカヤへ向けた苛立ちは殺意を伴っていたようで私は反省する。
彼に付いては部屋で、可能ならば縛りから解放される時間にするべきだったと己に刻み戒める。
土属性のワープの能力。
思考をそちら側へと持っていく。
結実が使っていた土属性は扉の構築。
本来はどこで〇ドア的な能力だった。
それが異界への強い執着の結果、歪上に作れば次元を結ぶ扉となった。
結実と同じ属性というだけでも警戒されているのに、ワープ機能までリクエストしたアカヤの地雷の踏み抜き率はどれほどのものだろうか。
元々モモが治癒能力を持っていたこともあり、自身が攻撃力、あとは移動手段と考えたのか移動を防御と取ったのか分からない。
ただ物語の中で『魔法で移動出来たら便利じゃん。』と言っている。
(便利じゃんって理由で他人の能力を勝手に決めるなよな。)
悪態を心の中で付きつつどうするべきか考える。
真っ向から向かって行ったら絶対にアカヤと対峙することになる。
それは精神的にも肉体 痛み的にも避けたいところだった。
(早い段階から誘導するべき?でもどうやって?)
そんなことを考えつつ、それよりも先にこのテストが明日には返却されるだろう。その時どうやって彼に割って入るべきか正直憂鬱だ。
*
(四位‥‥。)
いいような、悪いような。
転生者である私が本物の十三歳の子供に巻けていると嘆けばいいのか、それともこの順位は目立ちすぎて今まで以上に出る杭は打たれることになるかどちらにしても複雑。
いや、この成績は学業とは関係のない魔法知識のテストの順位で、ここでは一般的な学力はさほど重要視されないため前世での知識は関係ない。
むしろ色々と混乱がある中でこの順位は自分頑張ったと褒めたい。
(褒めてもいいわよね?)
ただ女子で一番と言うことがのちにどう響くか分からない。
ちなみに一位は原作通りレオで二位はアオイ君。三位がセージで二十一人中最下位はモモ。
ちなみに七位がキヨで八位がアカヤ。
「なんでぇ?なんであんなに勉強したのに!!!」
そう叫んだのはスミレちゃんで彼女は九位だった。
原作を知っている私にしてみれば彼女のこの成績は褒めるべき結果に思えたが、A組を狙うスミレちゃんにとっては上位に入れない=レオと同じクラスになれないかもしれないというショックで今にも泣き出しそうだった。
高く結い上げたツインテールが彼女の動きと共に可愛らしくぴょんぴょんと動いている。
スミレちゃんは何てというか、頑張っても結果に結びつかない子なのだ。
さぼっているわけでもないし、勉強している場所を間違えているとかそういう訳でもない。
要領が悪く、物覚えが異常に悪い。その上、過程に納得ができないとどうしてもそこで止まってしまう。
「まぁまぁ、半分より上なんだし全然頭いいじゃん!」
慰めのつもりで声をかけたモモの言葉に私はすぐさま彼女たちに近寄る。
これが未来のS組とA組の亀裂イベントの開始の合図だった。
「むしろ君は少し気にした方がいいのではないか?」
アオイ君が使うような大人びた敬語とはまた意外、硬い口調なのはレオだ。
真面目で規則中にな彼にとって最下位にも関わらず、笑っているモモは信じられない存在だったのだろう。
(と、いうか今回のテストモモは解答欄がずれて大幅に減点されただけ。本人もそこまで危機感はないだろう。)
しかしレオはそれを知らない。
だからこれは多少の侮蔑も入っている。
「よければこれを貸そう。」
でもほとんどは親切心から自分の参考書ばりの自作ノートをモモに差し出している。
(それと自分の同期生は皆優秀になって欲しいというエゴも多少は入っているかもしれないけど。)
色々と混ざり合った感情を敵意と判断した主人公組はここでレオともめるのだ。
「言っとくけ「それって湯月君がまとめたものですか?」
面倒なことになるかもしれないが、私はアカヤの言葉を遮り会話に参加する。
「ごめんなさい急に。学年一位のまとめノートと思ったらつい。」
「良子ちゃん!」
普段から多少交流のある私『良子』にモモは反応した。
「モモちゃんできればハイバでお願い。その名前ちょっと駄目なの。」
今更だけど、私の今生での名前は『灰羽良子』。
天使と悪魔的な灰色の羽に良い子という意味なのか何なのか。
前世の名前とは全く関連性はなく。良子という名前自体が嫌いなわけではないけれど、あの神様が私に付けた名前が『良子』であることがとても気に食わなかった。
正直名字もまだしっくりとはきていないが、名前よりかは幾分ましだ。
何度言っても名前で呼ぶモモにはいずれ適当な理由を付けて名前呼びを辞めてもらおうと頭の端で思いつつ、今は目の前のイベントに向き合う。
『その名前ちょっと駄目なの。』と言う言葉に若干意識が逸れたのか、先ほどまでのピリピリした空気はなくなったものの、今度は空気を読まずに入ってきた私に注目が集まった。
(笑え!笑うんだ私!)
「今度一緒に勉強会しませんか?」
私はモモちゃんとスミレちゃんに声をかけた。




