22.天羽菫
スミレちゃんは登場シーンからレオの隣にいた女の子だ。
彼女について語られるシーンはほとんどなく、ただセージの隣にいて彼を肯定する女の子。
基本高い声でレオ全肯定の発言しか物語での描写はなく、少しばかりうざったいキャラクターと思ったのは私だけではないはずだ。
そんな彼女の印象がぐるっと変わったのは、スミレちゃんがレオを庇い亡くなる直前のシーンだ。
それまではただのおまけだと思われてきた彼女の過去が語られた。
スミレちゃんは幼少期レオに助けられそれからずっと彼を追い続けてきた一途な少女。彼女を『色欲』というものに当てはめるにはあまりにも純粋な思いで、多くの読者が彼女の死に涙した。
スミレちゃんは魔法を知らない家庭に魔力を持って生まれてきてしまった子供で、両親は彼女が生後間もないころから起こすポルターガイスト現象に悩まされ、スミレちゃんがレオと出会う頃にはノイローゼ気味だった。
それでも子供には気丈に振舞い、不可思議な現象は自分たちの子供の力だろうと予想しスミレちゃんにその能力を隠すように言い聞かせた。
一見キヨと祖父母のような関係に思えるがスミレちゃんはある日、両親の会話を聞いてしまうのだ。
「あの子が恐い。あの子を愛せない。」
それは幼い彼女の心に大きな傷をつけた。
スミレちゃんはその言葉を聞かなかったふりをし続け、その後レオと出会い魔法のことを知る。
その後、レオの家族も含めスミレちゃんの両親も魔法界について聞かされ表面上は丸く収まったに見えた。
正確な年齢の表記はなかったが、入学までまだしばらく時間もあったようだから小学校の中学年ぐらいかもしれない。
スミレちゃんはこっそりとレオに「両親から魔法についての記憶を消すことはできないか?」と相談をした。
魔法について受け入れたように見えたスミレちゃんの両親にその処置の必要はないとレオは断ったが、あれは受け入れたのではなく全寮制の学校に彼女を早く追いやりたいだけという両親の思いにスミレちゃんは気づいていたのだ。
本来、魔法は秘匿すべきものでスミレちゃんのように全く知識のない家から魔力を持った子供が生まれた際や、何らかの問題が発生した場合、そこから考えられる魔法世界の漏洩や虐待などの危険などを察知した時のみ記憶の消去は許可される。
スミレちゃんはこれ以上、両親を苦しめたくはない。嫌われたくないと訴えた。
レオは両親のその話をして、改めてスミレちゃんの家族を調査したのち記憶の消去は許可され、執行された。
学園入学まではスミレちゃんの魔力も魔法界のことも忘れた両親の元、彼女は普通に生活していた。
それはスミレちゃんにとってとても幸せな時間だったらしい。
レオと出会い魔法を知り、自分と同じ能力を持つことに安堵したスミレちゃん。
両親との関係を案じ、記憶の消去後も何度も彼女にレオは会いに行った。
レオは刷り込みのようなものだと言ったことがあったが、確かにスミレちゃんの物事における判断基準はすべてレオ。
助けられ、救われ、優しくされた。
二人が恋愛的な意味で両想いだったのかは分からない。
それでもスミレちゃんの中で絶対的な一番はあの日からずっとレオで、レオにとってもスミレちゃんは守らなくてはいけない女の子と認識していた。
スミレちゃんは幼少期からのストレスであまり勉強の成績は乏しくない。
そんな彼女に勉強を教えていたのもレオで、基礎学習が備わっていない彼女にレオは根気強く向き合ってスミレちゃんを切り捨てるようなことはしなかった。
要領もあまりいいとは言えないスミレちゃんはレオの期待に応えるべく、毎日死に物狂いで勉強した。
魔法学園に入ってからも本来のスミレちゃんの成績ならば頑張ってB組というのは本人のモノローグであったが、〈異能〉も無理やり発現させやっとの思いでA組に食いついたのだ。
そんなスミレちゃんの行動を一種の強迫性障害ではないかと考察する者もいたが、そんなのはナンセンスだ。
一生懸命頑張る女の子は可愛い。
だからスミレちゃんも死んでは欲しくない。
死んでほしくないと思ってしまうから関わりたくはない。
(だって死んでほしくないと思っても、自分の命を投げ出せるかと聞かれれば難しい。)
正直誰ともかかわりたくないのかもしれない。
そう気づいたとき、なぜこの世界に飛ばされてしまったのかと神様を恨んだ。




