16.世良錆二
第一章の犯人である彼は読者にとって謎の残る人物だった。
彼の一連の行動はキヨママをリスペクトし行った模倣犯だったのか、それとも暇つぶし気分で行った愉快犯だったのか。
一番多かった意見はサイコパスが故の善意という説。
彼がサイコパスかどうかは実際のところ不明ではあるが、それが垣間見られる言動をしていたのだからそう受け取られても仕方がなかったと思う。
セージは分かりやすく善人というわけではないが、それなりに優しい。しかし彼の行動はマニュアル通りに動いているみたいだと言ったのはアカヤで、こればかりは同意せざるを得なかった。
セージから他者への好意というような感情が見られるシーンは一度もなく、言葉の端々に他人と自分を全くの別ものとし生きているというニュアンスが含まれていた。
もちろん他人は別の生き物なのは当然だが、彼の言うそれは自分と箱庭の人形ぐらい違いがあると言えばいいのだろうか?
神様と人間と言ってしまえば大げさかもしれないが、それぐらい俯瞰して物事を見て困っていれば手を貸してくれはするけれど誰かを特別扱いすることもなく優先順位を決め、あくまで物事の重要度からその手を差し出してくる。
友達だとか、目の前にいるとかそう言うのは一切考慮されない。
しかし神様とその神様が動かす人形のような関係というかけ離れすぎた立場だったからか、彼の言動は他者を見下すような響きにはならなかった。
(今の私の状況に似ていてちょっと嫌。神様がセージとか死亡フラグでしかない。)
そんな彼のサイコパスっぷりが最大限に見られたのが例の事件で『可哀想だから』という理由でアオイ君を異界に落とすシーンだ。
物語上の会話や雰囲気からセージと一番仲が良かったのはアオイ君だったと私を始め多くの読者が思っている。
彼は元々関西圏の人間らしく、この学園に来るまでは標準語ではなかったセージの言葉遣いはアオイを倣い丁寧な口調を普段はしている。ただ割と短気、ではないが口は悪く時々それらしい口調に戻ることもしばしばあった。
セージが苛立つのは予定通りに事が進まなかったとき。
大体は主人公三人が問題を起こし時間がロスする時など『何やっとんねん』『真面目にやれや』『自分何様のつもりなん?』とつぶやいている。
あくまで呟いているだけだから滅多に衝突することはないが、時たまアカヤともめることもあった。
アオイとの関係はあくまで言葉遣いを倣うために共にいた。彼にとって他者はすべて同列であり、友達なんていないと言われてしまえばそれまでだが、そんな台詞は出たこともないため一応仲がいい友人と仮定する。
A組同士と言うこともあったし、割と達観した考えを持つアオイ君と少しばかりおかしいが冷静な会話を望むセージは相性も良く見えた。
だからこそあの行動が余計異常に見えたのだ。
セージは多くを語らず、ただ『そういう選択肢もあったんじゃないかな?』と曖昧な言葉を残し自身も最後は異界へと身を投げたのだから、本気であちら側で生きていけると思い込んでいた可能性もある。
分からないからこそ、彼の考察ははかどり一時は主人公たちやキヨママを抜いて彼について語るサイトが多かった時期もあったぐらいだ。
*
そんな人物が真横にいた。
どうやら私はいつも以上の痛みに耐えきれず倒れたようだ。
目を覚まし、ここは保健室だなと判断し体を起こそうとしてからぎょっとする。
横にセージがいたのだ。
(何しているの、こいつ?)
普通付き添いは同性であるべきだろうとか、お前は他人に興味がないだろとか、言いたいことはたくさんあるけれど、口にすることはできない。
「気分は?」
声に何の感情も見えない。
「大丈夫です。お手数おかけしました。」
礼を言ってさっさとここから立ち去りたい。
そもそも彼といるから女子から睨まれている可能性がある。
(むしろ今はそれを狙ってのこれ?)
自分が特定の相手と仲良くすることで私へのヘイトを集めて遊んでいる?なんて一瞬疑ったものの、私は彼の人物像を『愉快犯』だとは思っていない。
サイコパスかどうかは置いておいて、どちらかと言えば『結実よりの人間』と思っている。
理由は分からないが異界と現世を繋げることに興味を持っている。
異界がどんな場所なのか知りたがっている。
少なくとも誰かに強い恨みがあるとか、この世界を壊したいとかそこまで強い感情は持っていないように見えた。
でなければ最後に異界に自ら行く選択をするはずがない。
ただこれには一つ疑問が残る。
ならセージの目的は一体何だったのか。
アオイ君を異界に落とす前、その能力を奪った理由は?
彼の能力は〈催眠誘導〉
何とも悪役的な力であるそれはただ催眠にかけるわけではなく、自分の都合のいいように変換できる能力でそれは対人効果だけではなく、物理的にも効果を発揮する予想以上に万能なものだった。
分かりやすく言うのならテレキネシスの上位互換と言ったところだろうか。
その能力をもっていながら、主人公を含め誰かを陥れようとはしなかった。
あくまで異界の門を開く、そのためだけに力を使っていたのだからわざわざ私を陥れる理由など彼にはないだろう。
「大丈夫なら戻ろうか。」と笑うセージに笑って同意する私。
狐と狸の化かし合いなんてことを思った。
(セージはどう考えても狐だから私が狸か。)
どうでもいいことを考えて気持ちを落ち着かせる。




