13.最初の事件
七つの大罪の話題を出したことからわかるように、メインキャラクターともいえる名前と役目のある人物は七人いる。ここに教師陣やキヨママ、異界の住人は含まれない。
あくまで主人公三人を取り巻く環境にいる同級生のことだ。
その中に一人、第一章の犯人が存在する。
今現在『双子の魔法使い』の物語の中にいる私にとって、近くにいて知ってはいるがまだ会話もしたことのない人物。
そもそもモブである私が話す機会など来るかは分からないが、この先の彼の行動により同級生、いや学校内の生徒の大多数を死傷するわけだから対策は練らないといけない。
第一の事件。異界への亀裂。
これは一巻におけるメインイベントのクラス分けの最中に起こった。
一巻の時点では偶然とされてきたがこれはあくまで始まりの事件であり、続く三年間様々な事件を起こす犯人が実験として行ったことがきっかけで起きた事件だ。
校庭の一角、何もない宙に突然亀裂が走ったのだ。
それを見つけたのはその場でクラス分けをしている一年生で、一人目の名もなき少女はその穴の中にするっと入った。
あまりにも静かで何も前触れもなかったそれは、彼女が自ら亀裂の中に入っていたようにも見えたが、一人を吸収したことでその亀裂は人一人分の横幅を広げ、勢いよく吸い込みだした。
遠くにいた生徒は強い風が吹いている、そんな感想を持っていた。
亀裂の向こうには掃除機が付いているのだろうか?なんて阿呆なことを考えたのはモモで、それぐらいこの時はまだ危機感というものがなかった。
ただ何が起きているか分からない、なぜ同級生があの穴に引き込まれて行っているのだろうただ不思議に見ていることしかできなかったのだろう。
加えて、クラス分けの最中と言うこともあり何人かの生徒がそれは試験の一環だと判断したこともよくなかった。
吸い込まれた先が試験会場なのか、はたまた吸い込まれた仲間を助ければいいのか、吸い込まれる力に耐えながらも生徒たちは意見する。
なぜ教師は何も言わなかったのか?
早く生徒を安全な場所へ避難させるべきだろうという意見も読者からは多く出たが、教師たちは十八年前の事件を思い出していたのだ。
きっと彼女は異界から戻ってきたのだろう。
今度こそ世界は終わる。
なんて絶望的なことを思い、どこへ逃げても無駄だと思ったのかもしれない。
事実、モブの先生と思われる人のセリフで「もう何もかもがおしまいだ。」と茫然とつぶやくシーンもあった。
突如できた歪が裂け、最初は多くの生徒を飲み込み、それから三体の異界の生き物がこちら側へと入ってきた。
開いていたから通った、そんな考えなしの行動をする生物に知能なんてさほどなくそれら三体はあたりにいる人間を食い散らかす。
それに立ち向かっていったのは主人公であるアカヤとモモ。そして二人に引っ張られる形でキヨも戦うこととなった。
この時すでに攻撃魔法を専攻していたアカヤとキヨと基礎魔法で何とか応対するモモで一体。駆け付けてきた先生たちで二体を討伐。
制御なしの魔法で思う存分暴れた三人は結果Sクラスになった。
この時、明らかに異質だったのはアカヤでもモモでもなくキヨだった。
彼の力は誰の目にも明らかで、下手をすればこのあたり一帯更地にできたのではないかという火力を彼は持っていた。
それが原因でほとんどのクラスメイトが彼からはなれ、孤立することで闇落ちルートが開始されたような気がしないでもない。
仮にキヨに攻撃魔法ではなく治癒魔法を選ばせたとして、この惨劇はもっとひどい状況になったのではないか?そう思うと安易にその選択を変えることは命とりな気がするものの、その選択さえなければキヨの未来が変わった気もするのだから私は迷う。
それと同時に自分の命欲しさに他人に命を顧みない考え方をしたはずだが、これには頭が痛くはならない。
自己保身は許される悪意、いや悪意ではなくただの生存本能とカウントされているのだろうかと私は益々分からなくなる。
見知らぬ人の悪行に眉を顰め殺意を持つことは悪。
クラスメイトを見殺しすることは善ではないが可。
(積極的な殺意の差?)
でも前者は本気で行動に移そうとしたものではなく、後者は行動する可能性があった。
どちらも同じ命。
さらに言うのならば後者は顔見知りで複数。
自分の命を守るためという大義名分があればそれらは許されるのだろうか?と私は頭の片隅で神様に問いかけた。
返答はなかった。
*
当初この最初の事件の犯人を教師陣は結実、またはキヨ(が何らかの力で結実に操られている)と思っていたが、のちに現実と異界のオーバーラップか所でたまたまクラス分けの試験が行われ、魔力を多く使ったことによる歪への干渉、亀裂が入った事故とされた。
もちろんこれは事故ではなく、また結実の思惑ではない。
この事件の犯人は主人公たちと同学年でクラス分け試験を受けていた世良錆二だ。
彼に付いての考察は今日その姿を確認してからしようと思う。
今の問題は彼を見つけ出すことでも、事件を止めることでもない。
朝一番に教室に入り私は黒板を見た。
『自由席』
その張り紙に私は顔を顰めそうになる。
確かにこの教室で行われる授業は9時から14時までの座学の時だけで、クラス分け後は授業の単位が取れ次第ここへも来る必要がなくなる。
昨日貰ったシラバスを見たところ夏休み前まではしっかりと授業が入っているものの、それ以降クラスが決まれば各自教室が与えられる(共通授業はここで受けるけれど)、部室もあるし食堂もある。寮もそう遠くはない。
絶対に受けなければいけない授業はあまり多くはなく、基礎教養に関してはほとんどが通信教育に近い。
(課題を提出、テスト合格で終わりって中高の基礎教養をなめているのか?)
この学校はあくまで力のコントロールを身につける場だと物語には書かれていたが、将来自由にさせる気など全くないのだろう。ここで得られる知識だけではおそらく大学に進学は難しい。大学に行かなくとも社会には出られる。
しかしここでの知識のほとんどはあくまで魔法。
それを生かし就職するならともかく、そうでないのなら表の世界の同級生とは大きな差がついていることになる。
(どういうこと?卒業までに生徒がいなくなること前提?それとも就職はあくまで魔法ありきが当たり前なの?)
物語で語られなかった未来に私は焦る。
その時まで生きていられる保証何てどこにもないけれど、それは未来を考えないこととイコールにはならない。
(違う違う)
今はそんなこと考えている時間はない。
つまるところ、大学に近いシステムなのだろう。
今日決めた席が定着するのか、毎日決まった席はなく着た順で座っていくのかは分からないが、こんなあやふやな状況ではいつあの双子、いやアカヤと席が近くなるか分からない。
単純に嫌いと言うこともあるけれど、それ以上に彼が視界に入られると困るのだ。
(行動の一つ一つが目に障る)
もちろんこれだって物語を読んだことによる思い込みの可能性は否定できない。
しかし彼が私の想像するような人物のままだとしたのなら、私は四六時中頭痛に悩まされることになる。
(後ろの席はやめておこう。)
出来るだけ前で端、人と接する箇所を減らしたい。
ただアカヤたちは授業を受けるのを楽しみにしているから、前の席に来る可能性もある。
(彼が前に座る以上、後ろの席はどこだって視界に入るかもしれない。でも前だと隣に来る可能性もある。)
私は一番前の角の席に鞄を置いたものの、着席はせず悩む。
ガラッと扉が開いた。
顔を向けるのは恐かったけれどふと、物語の一節を思い出した。
「おはようございます。どうかされましたか?」
丁寧な口調の彼に私は答える。
「おはようございます。自由席と書かれていますが、端から座っていった方がいいのかしらと悩んでいました。」
私は笑って答える。




