11.ママについて
いつまでたっても睡魔がやって来ず、眠れない時間を持て余す。
制約解除の時間がとっくに過ぎていて、下手なことを考えれば死ぬほどの痛みを味合うことは分かっているためひたすらに教科書を眺め続ける。
(でも、キヨママなら大丈夫かな)
それは私が相手に対し何の敵意も持たない人。分かりやすく言うのなら推しであるキャラクターはこの物語の黒幕であるキヨママこと鳥居結実だ。
9歳の時にこの本に出会い、彼女の影は常にあったものの登場したのは最終巻から数えて3巻目と4巻目。それと彼女の学生時代が番外編としての1冊。生きた彼女の描写はたった3冊しかない。
それでも強烈なまでの印象とキャラクターたちに恐怖を与えたその人は、一貫してぶれることのない願いと精神力の強さでいつまでも私の中に色濃く残っている。
最初は厨二心をくすぐるチートキャラに見えた彼女を私は好きになった。
私が彼女と同じ年(番外編)になった時、改めて読んだその物語の中でチートに思えたそのキャラクターは夢を追い続け、成し遂げ、恋に溺れ一途にどこまでも突き進むパワフルな少女と印象が変わった。
強くて、カッコよくて、可愛くて、一生懸命。
この言葉だけ聞けば彼女がどれだけ魅力的な人なのか伝わるのではないだろうか?
残念ながらこの評価は読者共通認識ではないが、感想や考察サイトを調べれば一定数同じ考えの人はいた。
私のなりたい女の子象は彼女と出会ってからずっと結実ちゃんだった。
読み方はゆうみであるが、この名前には〈けつじつ〉には成果をむすぶという意味がある。
彼女は名前の通り自分の夢を叶え、あちら側の世界へ行き好きな人と結ばれたのだ。
彼女にだけクローズアップすればこれは壮大な恋愛ファンタジーになりそうな歩みだった。
*
彼女に重きを置かない一般的な感想としての言葉なら、彼女の奇行の始まりは力の暴走によりさびれた祠を倒したことからだった。
当時一般的な感覚を持っていた結実は祠を戻そうと持ち上げると、その祠の中から出てきた、何の変哲もない少し大きい石が転げ落ちた。
奇妙なことにその石を持ち上げるとそれは脈打っていたのだ。
その石は祭られていた神様の依り代で結実はその怒りにふれ攻撃されそうになる。それを助けたのがたまたまそれを見ていた異界の住人だった。
元々神社や寺、他らなどある場所は現実と異界が重なっているところが多く、その時も偶然亀裂が入っていたのかもしくは結実の力で裂けたのか、小さな子供が襲われていると異界の住人は彼女をそちら側へ匿った。
いわゆる神隠しと言うものである。
異界の住人は別に神ではないが、彼女からしたら命を助けてくれた神にも等しい存在になったのだろう。まして結実は持って生まれたその力のせいでずっといじめられ続けてきた。家族からも迫害を受け、自分を助けてくれる人など存在しないと思っていたのだ。
この時代はまだインターネット普及も今ほどではなく、キヨのように自力で力の制御を身につける方法を知るすべがなかった。
だからこそ彼女は異界に居ついてしまった。
それこそ、異界の住人が心配し現世に押し戻す15歳までの約5年間、彼女は行方不明のままそこで幸せに暮らしていた。
彼女が異界に執着し、その扉を開けようとするのはあちら側にもう一度行きたいからとそこで好きになった思い人に会うため。
現世に戻された結実はすぐに魔法学校に入学、力の成り立ちや現世でのルールなどを学んだ。
彼女の凄いところは学園で様々な魔法を覚え、それを自分を虐げてきた人へ刃として向けないところだった。
普通ならば落ち込むか泣き叫ぶか、反対に怒り苦しみ憎悪を募らせるところを彼女はただ受け流し生きてきた。
それこそが彼女の異常性という読者も多くはいたが、私は何て強い人なのだろうと感じた。
彼女は言っていた。
「私は間違ったことをしていないのだから堂々とするわ。」
それは異常なんかではなく、彼女の方が正常に物事を客観視できている。優れているからこそ虐げてくる人たちを相手にしていなかったのだろうと思った。
いじめられる側にも問題があるという人もいるけれど、結実の場合は持って生まれた力が虐げられる原因になった。それは誰が悪いのか?結実は自分は悪くはないと気づいていた。
皆と同じではないが、誰かを傷つけたわけでもない。
どう考えてもいじめる側が悪い。彼女はそう判断したのだ。
そしてそんな相手を憎むこともなく、そう言う人たちなのだと切り捨て関わらない選択をした。
そんな幼少期を迎えたためか他者にさほど感情移入をせず、人間に特別な誰かを作らなかった彼女は後先考えず異界の開門。それにより多くの人の命は奪われたが、それこそ天災のようなものだったのかもしれない。
彼女の願いは一貫して異界と現世を繋ぐこと。
自分と同じように現世が生きにくい者たちにとっての逃げ場となるように、また現世を異界の者たちに見せたいがため彼女は門を探し開け続けた。
彼女からすれば外国に行きたいから飛行機を作ったぐらいの感覚なのかもしれない。
ただ問題だったのは異界は現世ほど秩序が整ってはおらず、中には知能が限りなく虫に近い者も多く存在した。
それらは異界、現世関係なしに生きている者を餌と判断し貪り、生きるための本能でのみ動いている。そしてそれらは現世での虫のようなサイズではなく人やそれ以上に大きい者も存在した。ただ、知能指数が低いわけだから対処のしようはいくらでもあり、異界では放し飼い状態だったわけで、結実は彼らが現世に出たところで考える頭を持っている人間ならば食べられることもないだろうと判断した。
彼女は結果として(間接的に)大量殺人犯とされてしまったものの、心根はいつまでも清らかで純粋な美しい人だった。
片や私は生前品行方正な態度はしていただろうが、心まで綺麗かと言われれば頷く自信はない。
神様は私に結実のような子になれとこの世界を選んだのかもしれない。
(でも無理だと分かっているから憧れていたところもあるんだよな)
無理難題すぎるとベットの上で転がる。




