9.主人公その3
彼を一言で表すのなら可哀想の一言に尽きる。
生まれもそうだし、母親の存在もそう、現在置かれている立場と友人になってしまった相手。すべてが悪い方へと物語は進んでいく。
そう、いきなり物語の結末を語るのはあれだがこの物語の中で最大の敵、悪役なのは彼の母親である。そしてその人の後を継ぎ、彼が闇落ちラスボスになるのが最後の戦い。アカヤの望んだ魔法バトルである。
物心がついた頃から母親は行方不明で祖父母の元で育てられたキヨ。
祖父母は魔法界と全く接点がなく、幼少期感情のブレからポルターガイスト現象のようなものを起こす孫に手を焼いていたものの優しく育て上げた善人の塊のような人たちだ。
ただ、孫が奇妙であることには気づいていたため世間からひた隠しするように家から出さず義務教育もまともに受けさせていなかった。
ただ愛情深いことは違わず、いつ社会復帰してもいいように社会生活において最低限以上の知識とルールを教え、コミュニケーションの一環として家族内での会話は欠かさなかったし、パソコンでオンライン上での人との関わりを持たせる頭の柔らかい人たち。
結果、彼の持つ異能を制御するすべを学ぶことのできる学園の存在を見つけるわけだから結果オーライなわけだ。
学校は13歳からの入学であるが、キヨは8歳の時に学校を見つけ連絡を取り一時的にそこで力について学ぶこととなった。
それ自体は間違った選択ではなかったはずだ。
有り余る力を抑え、正しい使い方を習った。うまくコントロールできるような練習方法も教えられ、家に帰ってからもきちんと教えに倣い鍛錬し続けた。
それが裏目に出てしまったのは押し入り強盗がキヨの家に入ってきたときだ。
表向きキヨの暮らす家は普通の老夫婦が二人で住む昔ながらの日本家屋。足のない老夫婦はお手伝いさんを雇って買い物などを賄い、最近ではネット注文で事を済ませていた。
お手伝いさんと言ってもあくまで買い物と病院などに行く時だけの話だ。
それがどう勘違いしたのか、お手伝いさんのいるお金持ちの家と勘違いされ、キヨがいることも隠されていたから年老いた夫婦が二人きりで狙いやすいと悪い奴らの目には写ったのかもしれない。
奥の部屋で過ごしているキヨは妙なもの音でことを知った。
老夫婦から金品を奪うだけならば縛るなり、大人しくしろと言えばいいだけなのに、犯人たちは二人を切りつけそこは嗅いだこともないような血の匂いで充満していた。
のちに気づいたのは二人は幼い孫がいるため必死になって抵抗。それゆえ殺害されたのだ。
20巻あるうちの後ろから数えた方が早い巻数だったと思う。
物語の展開はすでに重く、児童書なのか疑いたくなるような話が続いた頃このエピソードも語られた。
キヨはその後、犯人たちにそれまでコントロールで培った強大な魔力を叩きつけた。
その犯人たちがどうなったかは語られていなかったが、キヨ自身が「僕は魔法で人を殺したことがある」と言っていることから亡くなったのではないかと読者の中では判断されている。
魔法が表社会から隠されている世界なため、その事件はなかったものとされたが身寄りはなく、ある意味加害者となってしまったキヨは学園に引き取られることとなった。10歳の時だ。少年法適応により罰せられることもなく、またこの時の教師陣の対応も少々問題だった。
それは物語上、キヨ個人の問題よりも優先すべき案件が隠されていたため仕方のないことだったのだが、誰にも叱られることも罰せられることもなく、家族を失い孤独になってしまった少年にとってまだ生きているかもしれない母親の存在が強くなってしまった。
*
彼に付いてはまだまだ語るべきこともあるけれど、こんな背景があったからこそ私はアカヤの言動が許せなかった。
別にキヨがお気に入りのキャラクターだったという訳でもないし、第三者として物語を俯瞰して見ているからこそそう思えることも理解している。
自分がアカヤと同じ立場ならば彼と同様の、
(いや、それはない)
あそこまで無神経なことは言わないししない。
ともかく、初めての友達であるアカヤの言葉をキヨは概ね肯定してしまう。
それゆえ彼は望んでもいなかった能力を選択し、結果それが教師陣の警戒心を高めることとなった。
普通に友達を増やしていければそこまで母親に執着しなかったかもしれない。これもアカヤが同じSクラス以外を見下すというよりはレオ(Aクラスのライバルキャラ)と仲が悪く、Aクラスと対立関係になったことでキヨの学園生活はアカヤとモモだけになってしまった。
(そのくせ、キヨがいない時アカヤは他の子と仲良くしているのだから何とも言えない)
アカヤとキヨの仲を切り裂けばいいのかしら?
それが私の使命?
なんて思ったところで頭がすりつぶされそうになる。
一時間がたってしまったのだ。
私は脂汗をぬぐい、急いで別のことを考えるように努めた。




