第十一章 佐奈恵
「美鈴、がんばれー!」
「あぁ、がんばるよー!」
運動会当日、選抜リレーに出る美鈴を、私は精一杯応援していた。選手全員がグラウンドに整列したとき、私は黄鷹団の長野さんと目が合い、がんばれ、とウィンクした。と、同時に「あっ」と声を上げてしまった。森沢さんも一緒に並んでいる!
リレーのピストルが鳴り、私は、美鈴を応援しなければならないのに、森沢さんの立派な身体付きに見とれていた。これじゃまるで変態じゃない! と自己嫌悪しながらもついつい見てしまっていた。
再びピストルの音。次はいよいよ森沢さんの番だ。森沢さんは運動会だからか、メガネを外して、コンタクトレンズにしているようだ。メガネをしているときの顔はなんだかキリッとしていたが、していないと、少し柔らかい印象を受ける。と、不意に目が合い、さっと目をそらしてしまった。彼の口元がふっと緩み、口角がほんの少し上がった、というのはきっと勘違いだ。
その後も私は森沢さんを目で追っていた。長野さんに負けず劣らず足が速く、次々と他の団の男子を抜かして行き、気が付いたころにはすでに、先頭を切って、余裕の面持ちで走っていた。
「かっこいい……」
そう呟いたと同時に、彼と目が合ってしまった。
目が合った!
急いで私は目をそらした。
無事運動会は終了し、残念ながら青龍団は四位と最下位で、長野さんの黄鷹団は一位だった。騎馬戦でかなり点数を取られたのだろう、と美鈴はがっかりしていた。たしかに、騎馬戦はボロボロだったから。
「でも、美鈴はリレーでがんばったじゃないよ。私なんて、三人四脚でみんなに迷惑かけてばっかしで」
教室から出ながら、そう励ましたが、美鈴はあまり元気は取り戻せなかったようだ。でもそれはしかたのないことだよね、と、美鈴は諦め声で言いながら、一緒に階段を下りた。
「じゃあ、休日はゆっくり休みなよ」
玄関でそう言うと、美鈴はにこっと笑い、
「うん、そっちもね。じゃあね」
と言い、別れた。
美鈴が迎えの車に乗ったのを見届けると、私も玄関から出た。
「佐奈恵!」
「長野さん!」
満面の笑みで振り向いたそこには、いたずらっぽい笑顔の長野さんがいた。
「明日、予定あるか?」
「とくに何も。どうしてですか?」
うーん、と長野さんがにやっとしながらうなる。なんだか楽しい予感。
「明日、一緒に街に出かけないか? おもしろそうな店とかあるんだ」
「えー、ほんとですかっ?」
憧れの先輩的存在である長野さんとなら是非!
「明日十一時、月公園の噴水のところで待ってる。持ち物は任せた。ちゃんとおしゃれしてこいよ?」
そう言いながら、私のおでこをぴんと弾く。何これ、まるでカップルじゃん!
「はぁい。わかってまーす。じゃあ、明日。楽しみにしてますね!」
冗談ぽくおでこに手を当て、敬礼のポーズをとってみせた。
「あれ、今日は一緒に帰らないのか?」
「あ、そっか。じゃあ、一緒に帰ろう」
私は長野くんと道が分かれると、走って家に帰り、とびきりおしゃれな服を選び始めた。




