第32話:管理人・長谷川さんの仲裁
朝の光というものは、時に残酷なまでに現実の輪郭を暴き出す。
土曜日の午前八時過ぎ。マンション『メゾン・ド・フルール』の一階エントランスホールには、ガラス張りの大きな自動ドアから、初夏の眩いばかりの陽光が斜めに差し込んでいた。磨き上げられた大理石調のタイルが淡い光を照り返し、外のロータリーの植え込みでは、雀たちが楽しげに羽を震わせてさえずっている。
穏やかで、誰もが休日の開放感に胸を弾ませるはずの朝。
けれど、その明るい光の真ん中で、まるでそこだけ時間が凍りついたかのように重苦しい影が落ちていた。
「……すず。頼むから、靴を履いてくれ」
佐伯航平の声は、掠れ、乾き、今にも喉の奥で千切れそうだった。
エントランスの隅、入居者用の郵便受けの向かい側に置かれた、木製の飾りベンチ。その硬い座面の上に、四歳の娘――すずが、膝を抱え込むようにして丸まっていた。
脱ぎ捨てられた小さな赤いスニーカーが、タイルの上に無残に転がっている。
すずは、淡い黄色のスモックを着て、背中には通園用の黄色いキルティングバッグを背負ったままだった。あおぞら保育園は土曜日も開園しており、航平はこの後、客先との臨時ミーティングのため、どうしても午前中だけすずを園に預けなければならなかった。
だが、すずは頑として立ち上がろうとしなかった。
昨夜、冷え切ったスーパーの総菜コロッケを前にして激しいハンガーストライキを起こし、寝室に閉じこもって泣き明かした少女の目は、痛々しいほど赤く腫れ上がっている。
今朝も、航平が必死の思いで焼いたトーストには一口も手をつけず、コップ一杯の牛乳すら半分以上残してしまった。
空っぽの胃袋。泣き腫らした瞼。
小さな胸を上下させながら、すずは両手でトトロのぬいぐるみを押し潰さんばかりに抱きしめ、ぽろぽろと大粒の涙を床に零し続けていた。
「いかない……! すず、ほいくえん、いかないもん……!」
「すず……パパはお仕事に行かなきゃいけないんだ。お願いだから、言うことを聞いてくれ……」
航平は床に片膝をつき、娘の足元で懇願するように両手を伸ばした。
だが、その航平自身の姿もまた、目を覆いたくなるほどに限界を極めていた。
昨夜は一睡もできなかった。寝室のドアの向こうで泣きじゃくる娘の声を聞きながら、冷え切った食卓の前で頭を抱え、夜明けまで自分を責めさいなみ続けたのだ。
仕立ての良いはずのチャコールグレーのスラックスは皺が寄り、羽織ったジャケットの肩は力なく落ちている。
目の下には、まるで紫色の痣のように濃く重たい隈が張り付き、頬はこけ、剃り残した薄い無精髭が肌の土気色を一層際立たせていた。
数日前まで、文乃の手料理によって取り戻していたあの健康的な血色は、完全に失われていた。
「あやのちゃんがいい……!」
すずは小さな両足を踏み鳴らし、ベンチの背もたれに身体を押し当てて叫んだ。
「あやのちゃんのところ行く! あやのちゃんにおはようって言うの! パパなんか大っ嫌い! あやのちゃんのごはんじゃなきゃ、すず、ぜったいにごはん食べないもん!!」
「すずッ……!」
航平の喉から、悲鳴のような制止の声が漏れた。
エントランスに反響する幼児の金切声。
エレベーターホールから数人の住人が降りてきて、何事かと驚いたようにこちらの様子を伺い、足早に自動ドアを抜けていく。その突き刺さるような好奇と困惑の視線が、航平の皮膚を針のようにチクチクと苛んだ。
他人に迷惑をかけている。
また、自分の不甲斐なさのせいで、周囲を不快にさせている。
瀬戸文乃の顔が、脳裏を焼き尽くすように明滅した。
火曜日の夕暮れ、あの閉ざしたドア。
泣きそうな顔でタッパーを抱えていた彼女の姿。
すずの口から『あやのちゃん』という名が出るたびに、航平の胸の奥底で、罪悪感と自責の念が激しく暴れ狂う。
頼ってはいけないのだ。
あの一線を越えてはならないのだ。
これ以上、あの人の優しい人生を、自分たちの醜い足枷にしてはならない――。
その冷酷な理性が航平の首を絞め上げる一方で、目の前で空腹のまま泣きじゃくる我が子の姿が、彼の父親としての心をズタズタに引き裂いていく。
「どうして……どうして分かってくれないんだ、すず……!」
航平は頭を抱え、タイルの上に両手を突いた。
声が震え、視界が滲む。
怒りではない。娘に対する怒りなど一欠片もなかった。
すべては、母親を奪い、まともな食事すら作れず、娘の心を飢えさせ、他人の善意を拒絶することしかできない、自分という男の無力さに対する、底知れぬ絶望だった。
――サッ、サッ、サッ……。
その時だった。
エントランスの静まり返った空間に、乾いた、規則正しい音が響き始めた。
竹箒が、タイルの上の塵を集める、耳に心地よい摩擦音。
航平がハッとして顔を上げると、ガラス扉の外――ロータリーの脇を掃き掃除していた人影が、箒の動きをぴたりと止めたところだった。
紺色の作業用ジャンパーに、ベージュのチノパン。
白髪交じりの短髪に、日焼けした穏やかな皺を刻んだ顔。
このマンション『メゾン・ド・フルール』の住み込み管理人を長年務めている、長谷川栄作だった。
今年で六十五歳になる長谷川は、元々は大手私鉄の駅長を務め上げていたという経歴の持ち主で、どんなトラブルにも声を荒らげることなく、入居者たちの生活を温かく、時に厳しく見守ってきた好々爺だった。
長谷川は、手にした竹箒をエントランスの植え込みの柵にそっと立てかけた。
そして、作業用手袋を外してポケットに突っ込むと、キュッ、キュッと静かな足音を立てて、自動ドアをくぐり、エントランスの中へと入ってきた。
「長谷川、さん……」
航平は咄嗟に立ち上がろうとしたが、膝に力が入らず、無様にふらついた。
「すみません……っ、朝から、娘が大声を上げてしまって……他の住人の方にご迷惑を……すぐに、すぐに連れて行きますから……っ」
反射的に頭を下げ、平謝りを繰り返す航平。
だが、長谷川は航平のその狼狽えぶりを咎めることもなく、ただ穏やかな眼差しで彼を一瞥した。
そして、航平の前を静かに通り過ぎると、ベンチの上で膝を抱えてしゃくりあげているすずの目の前まで歩み寄り、ゆっくりと、大きな身体を屈めて腰を落とした。
すずの目線と、まったく同じ高さ。
長谷川の目尻の皺が、ふわりと優しく緩んだ。
「おやおや、すずちゃん」
低く、暖炉の薪が爆ぜるような、温かみのある嗄れ声。
「朝から、ずいぶんと元気な涙だねぇ」
「……っ、ぐすっ……うぅ……」
すずはトトロを抱いたまま、警戒するように身を縮めた。
長谷川は怒る気配など微塵も見せず、作業着の胸ポケットから、綺麗に四つ折りにアイロンがかけられた、清潔な白い木綿のハンカチを取り出した。
「ほら、お顔を上げてごらん。そんなに涙をこぼしていたら、せっかくの可愛いお顔が台無しだよ」
長谷川の節くれだった大きな手が、すずの小さな頬へとそっと伸ばされた。
決して無理強いはしない。すずが嫌がって顔を背ければすぐに引けるような、柔らかく慎重な手つき。
すずはその手のひらの温もりに触れると、張り詰めていた頑なな肩の力を、わずかに緩めた。
長谷川はハンカチの角を使い、すずの濡れた睫毛の先や、鼻の下、赤くなった小さな頬を、まるで壊れやすい小鳥の羽を撫でるように、丁寧に、優しく拭い取ってあげた。
「……うん、いい子だ。お鼻も、かめるかい? ふーん、ってしてごらん」
「……ん……ふんっ」
「上手、上手。すずちゃんは偉いねぇ」
長谷川がポンポンとすずの頭を撫でると、すずの喉の痙攣が、徐々に穏やかなしゃくりあげへと変わっていった。
長谷川はすずの頭から手を離すと、ベンチの脇に転がっていた小さな赤いスニーカーを拾い上げた。
トントンと靴底を合わせ、すずの足元にきちんと揃えて並べて置く。
「すずちゃん。ちょっとだけ、パパとお話ししてきてもいいかい? ここでトトロと一緒に、お利口に座って待ってておくれ」
「……うん」
すずはハンカチを握りしめたまま、小さくこくりと頷いた。
長谷川は立ち上がり、すずには聞こえないように、航平に向かって顎をしゃくった。
エントランスの奥、郵便受けの陰になった、外の植え込みが見えるガラス戸の脇。住人の動線から外れた静かなスペースへと、航平を促す。
航平は罪人のように俯きながら、長谷川の後をついて歩いた。
ガラス戸の前に立つと、長谷川は腕を組み、初夏の光に透けるケヤキの葉をじっと見つめた。
沈黙が流れる。
航平はいたたまれなくなり、再び深く頭を下げた。
「長谷川さん……本当に、申し訳ありませんでした。僕の……僕の監督不行届です。娘にあんな我儘を言わせてしまって、近所迷惑も甚だしいと……」
「佐伯さん」
長谷川の静かな声が、航平の自責の言葉を遮った。
長谷川は振り返り、航平の青白い顔を、真正面からじっと見据えた。
その瞳には、呆れも怒りもなかった。
ただ、人生の荒波を幾度も乗り越えてきた老境の男だけが持ちうる、深い、深い慈哀の色が宿っていた。
「あんたが真面目なのは、よーく分かってるよ」
「え……」
「このマンションに越してきてからの半年間、あんたがどれだけ必死にやってきたか。毎朝、走るようにして保育園へ向かって、夜遅くに重たい足音を引きずって帰ってきて……誰の手も借りずに、一人で娘さんを守ろうと歯を食いしばってきたことくらい、この老いぼれの目にも痛いほど見えていたさ」
長谷川の声は、低く、穏やかだった。
「迷惑をかけちゃいけない。誰かに甘えちゃいけない。そうやって、全部自分の胸の中に抱え込んで、一人で背負い込んできたんだろう」
「それは……」
航平は言葉に詰まった。
「僕は、父親ですから。妻がいなくなって……僕が引き取ると決めたんです。僕の責任なんです。だから、他人に迷惑をかけるわけにはいかないんです。特に……瀬戸さんのような、若い独身の女性に……」
航平の喉が、悔しさに震える。
「瀬戸さんは、本当に心優しい方です。でも、だからこそ……僕たち親子がこれ以上甘えてしまったら、それは彼女の善意の搾取になってしまう。彼女の貴重な時間や、これからの未来を、僕たちの生活で縛り付けるわけにはいかないんです。だから……距離を置かなければならないんです。それが、人として……大人の男としての、筋じゃないですか……!」
航平は必死で訴えかけた。
自分が下した決断は、正しいのだと。
胸を引き裂かれるほど苦しくても、娘に泣かれようとも、自分は倫理的な正しさを貫いているのだと、誰かに肯定してほしかったのかもしれない。
けれど。
長谷川は、その航平の悲痛な叫びを静かに聞き届けた後、深く、深く息を吐き出した。
そして――。
まるで迷子の背中をそっと押し止めるかのような、静かで、容赦のない一言を口にした。
「佐伯さん」
「……はい」
「だがね。……意地を張るのと、誠実なのは違うよ」
「っ…………!!!」
航平の息が、喉の奥で止まった。
頭を金槌で殴られたような衝撃。
意地を張るのと、誠実なのは違う。
その言葉の意味を理解しようとして、航平の思考が激しく軋みを上げた。
「ち、違います……僕は意地なんて張っていません。誠実であろうとしているんです。瀬戸さんに迷惑をかけないことが、彼女に対する最大の誠意で――」
「それが意地だって言ってるんだよ」
長谷川の声は、どこまでも静かだったが、その奥には岩をも砕くような重みがあった。
「あんたが守ろうとしている『筋』ってやつは、一体誰のためのもんだい? 瀬戸さんのためかい? それとも、すずちゃんのためかい?」
「それは……両方です!」
「嘘をおつき」
長谷川は首を横に振った。
「あんたが守ろうとしているのはね、佐伯さん。『誰にも迷惑をかけずに一人で完璧にやり切っている立派な自分』っていう、あんた自身のちっぽけな誇りだけだよ」
「っっっ…………!!!!」
航平の顔から、完全に血の気が引いた。
心臓を素手で鷲掴みにされ、魂の底を白日の下に引きずり出されたかのような戦慄。
長谷川の瞳が、航平の心の奥底に潜んでいた、もっとも醜く、もっとも臆病な本質を正確に射抜いていた。
「他人に頭を下げて、助けてもらうのが怖いんだろう。『子持ちの男が無神経に甘えている』と後ろ指を指されるのが怖いんだろう。自分の無力さを認めて、他人の懐に飛び込むのが怖いから……『迷惑をかけない』というもっともらしい正論の鎧を着込んで、自分の部屋に閉じこもっているだけじゃないかい」
「長谷川、さん……」
航平の唇が、ガチガチと小刻みに震えた。
反論したかった。違うと叫びたかった。
けれど、声が出なかった。
長谷川の言う通りだったのだ。
文乃の未来のため。搾取をしないため。
そうやって高尚な倫理観を並べ立てていたけれど、その実、自分はただ「傷つくこと」を恐れていただけだったのだ。
他人の善意に無防備に寄りかかることで、いつか拒絶されるのが怖かった。
自分が一人の男として文乃に惹かれてしまっているという、後ろ暗い感情を直視するのが怖かった。
だからこそ、「誠実な隣人」という仮面を被り、正論という名の壁を築いて、彼女を――そして娘を、乱暴に締め出したのだ。
長谷川は、視線をエントランスのベンチへと向けた。
そこでは、すずが小さな背中を丸め、膝の上のトトロをじっと見つめていた。
「佐伯さん」
長谷川の声音に、柔らかな温もりが戻っていた。
「人間っていうのはね、一人じゃ生きていけないようにできてるんだよ。特に子育てなんてものは、親一人、家の中だけで完結できるようなもんじゃない。昔からそうさ。長屋の連中が、近所のおばちゃんが、通りすがりの爺さんが、みんなで手を出して、声を掛け合って、そうやって子どもを育ててきたんだ」
長谷川は航平の肩に、節くれだった大きな手のひらをポンと置いた。
重たく、けれどじんわりと温かい手のひら。
「困った時に頭を下げて、『助けてください』って言えること。そして助けてもらった時に、心から『ありがとう』って笑い合えること……それがね、人と人との暮らしってもんじゃないかい?」
「…………」
「あんたが一人で歯を食いしばって、鬼のような顔をして倒れそうになっているのを、すずちゃんが見てどう思う? あの子が欲しいのはね、完璧で頑固な父親じゃないんだよ。ご飯を美味しく食べて、笑って抱きしめてくれる、温かい父親なんだ」
長谷川は、三階へと続くエレベーターのシャフトを見上げた。
「瀬戸さんもね……あんたがそんな顔をして、娘さんを泣かせているのを望んで、あんな心のこもった手料理を届けてたんじゃないと思うがね」
「っ…………!!」
航平の喉の奥から、押し殺した嗚咽が漏れかけた。
文乃の顔が。
火曜日の夕暮れ、あの閉ざされたドアの向こう側で、涙をいっぱいに溜めて立ち尽くしていた文乃の表情が、鮮烈に脳裏に蘇った。
あの人は、喜ばせたくて作ってくれたのだ。
すずが偏食を乗り越えて、笑顔でお腹いっぱいになる姿が見たくて。
航平が激務の疲れを少しでも癒やして、穏やかな夜を過ごせるようにと願って。
それなのに、自分はその温かな心を、「人として間違っている」と冷酷な刃で切り捨てたのだ。
誰のための誠実だったのか。
誰のための正しさだったのか。
自分のくだらない保身と意地のせいで、文乃を深く傷つけ、そして今、最愛の娘までをも飢えと涙の底へと突き落としている。
「……僕、は」
航平の瞳から、ポロポロと大粒の雫が零れ落ち、タイルの上に濃い染みを作った。
「僕は……なんて、愚かな父親なんだ……」
「愚かじゃないさ」
長谷川は力強く、航平の肩を揺さぶった。
「不器用なだけだよ。一生懸命すぎて、前しか見えなくなっちまってるだけだ。……気づいたら、やり直せばいい。大人なんだから、素直に頭を下げて、笑い合えばいいんだよ」
長谷川はそう言うと、航平の背中をバチンと景気よく叩いた。
「さあ、行きなさい。すずちゃんが待ってるよ。今日の保育園は、少し遅れたって構やしない。先生には俺から電話を入れておいてやるから、しっかり娘さんと向き合っておいで」
「長谷川、さん……」
「いいから、行きな!」
好々爺の温かな叱咤が、航平の凍てついていた背中を、力強く押し出した。
航平は涙を手の甲で拭い、長谷川に向かって深々と、腰を折って一礼した。
「……ありがとうございました」
震える足を踏み出し、航平はベンチへと歩み寄った。
ベンチの上では、すずが不安そうに、近づいてくる父親の顔を見上げていた。
航平はすずの前にしゃがみ込んだ。
先ほどのような、焦燥と怒りの仮面はどこにもなかった。
航平は揃えられた赤いスニーカーを手に取ると、すずの小さな足先を優しく持ち上げ、そっと靴に滑り込ませた。
マジックテープを、キュッと丁寧に留める。
そして、すずの目を見つめ、静かに、けれど心からの声を絞り出した。
「……すず」
「……パパ?」
「ごめんな。パパが……パパが間違ってた」
航平はすずの小さな身体を、トトロごと、両腕で力いっぱいに抱きしめた。
「パパが意地を張って……すずに寂しい思いをさせて、本当にごめん。……あやのちゃんのご飯、美味しかったよな。みんなで食べるご飯、楽しかったよな」
「…………っ、うん……!」
すずの瞳から、再び涙が溢れ出したが、それは先ほどまでの拒絶の涙ではなかった。
すずは小さな両腕を伸ばし、航平の首筋にぎゅっと抱きついた。
「あやのちゃん……すず、あやのちゃんに会いたいよ……」
「ああ。……会いに行こう」
航平は娘の背中を撫でながら、力強く頷いた。
「パパが、ちゃんと謝るから。もう一度、三人で笑ってご飯が食べられるように……パパが、ちゃんとお願いするからな」
初夏の風が、エントランスの自動ドアから吹き抜けていく。
竹箒を手に持ち、再びロータリーへと向かう長谷川の丸い背中。
そして、娘をしっかりと抱き上げ、立ち上がった航平の瞳には、かつての迷いと頑なな鎧は、もうどこにも残っていなかった。




