第13話:雨の日の雨漏り事件
あの一件から、三日が過ぎていた。
火曜日の夕暮れ、玄関先で突きつけられた白い封筒。五万円という無機質な金額と、佐伯航平の放った「正当な対価」「契約」という言葉。そして、文乃が叩きつけた「迷惑な施しだったんですね」という拒絶。
あの日以来、メゾン・ド・フルールの三階フロアは、まるで真冬の氷河の下に沈んだかのような、痛々しいまでの静寂に支配されていた。
水曜日も、木曜日も、文乃は仕事帰りにスーパーへ寄る気力を完全に失っていた。
定時退社しても、足が自然と駅ビルの総菜売り場やコンビニへと向かってしまう。自炊を愛し、出汁を引くことを生きがいとしていたはずの自分が、コンビニの小さなサラダとサンドイッチを買い、部屋の明かりを極力落として機械のように咀嚼する。
何を口に入れても味がしなかった。舌の上に残るのは、砂を噛んだような無機質な感触だけだった。
壁の向こう側――三〇二号室からも、生活音が極端に消えていた。
朝、登園するすずちゃんの声も、夜に帰宅する航平の靴音も、まるで文乃の部屋に気配を悟らせまいとするかのように、息を殺して忍び足で出入りしているのが分かった。
一度だけ、木曜日の朝にエントランスで鉢合わせそうになったことがあった。
エレベーターから降りてきた航平とすずの姿が見えた瞬間、航平は弾かれたように足を止め、すずの手を引いて非常階段の陰へと身を隠したのだ。
まるで、存在そのものを拒絶されたかのような、徹底的な回避行動。
その露骨なまでの距離の取り方に、文乃の胸は鋭い棘で抉られるように痛んだ。
怒りはとっくに消えていた。残ったのは、ただただ冷え切った後悔と自己嫌悪だった。
――あんな言い方、しなければよかった。
――佐伯さんは、彼なりに必死で筋を通そうとしただけだったのに。
自分は善意の皮を被った押しつけがましいエゴを振りかざし、彼の痛々しいプライドを土足で踏みにじったのではないか。そう思うたびに、胃の腑がきりきりと痛み、夜も深く眠れなくなっていた。
そして迎えた、金曜日の午後。
天候は、朝の穏やかな晴天から一転して、昼過ぎから不気味な急変を見せていた。
大気の状態が極めて不安定になり、西の空から湧き上がった巨大な積乱雲が、太陽の光を瞬く間に呑み込んでいく。空全体がドス黒い鉛色に濁り、湿気を含んだ重たい生ぬるい風が、街中の街路樹を大きく揺らし始めていた。
「瀬戸さん、今日は早めに上がった方がいいよ。気象レーダー見たら、猛烈な雨雲がこっちに向かってる。ゲリラ豪雨警報が出そうだ」
営業フロアで、飯島課長が窓の外を見上げながら声をかけてくれた。
「はい、ありがとうございます。課長もお気をつけて」
文乃はデスクを片付け、午後五時半の鐘とともにオフィスを飛び出した。
だが、駅を出てマンションへと向かう並木道に差し掛かった瞬間、空が真っ二つに裂けるような激しい紫色の閃光が走り、鼓膜を揺るがす轟音が地響きとともに炸裂した。
ドガァァァァンッ!!
それを合図にしたかのように、天の底が抜けた。
ザーーーーーッッッ!!!
雨粒というよりは、バケツを引っくり返したような巨大な水の塊が、斜めから容赦なく叩きつけてくる。傘を開いたところで何の役にも立たなかった。吹き荒れる突風が傘の骨をきしませ、わずか数秒で足元から膝上までがぐっしょりと重く濡れそぼっていく。
「きゃっ……! 嘘、何これ……!?」
文乃は頭上に傘を斜めに構え、水飛沫を上げながらマンションの敷地へと必死に駆け込んだ。
エントランスの自動ドアをくぐり抜けた時には、息が切れ、ストッキングは足首に張り付き、コートの裾からは水滴がポタポタと滴り落ちていた。
一階のロビーでは、管理人室のドアが閉まっており、『巡回中』の札が掛けられていた。長谷川さんはおそらく、敷地内の排水口や駐輪場の養生を確認しに回っているのだろう。
エレベーターに乗り込み、濡れた前髪を手で払いながら三階へと上がる。
冷えた身体を温かいシャワーで流したい。その一心で、文乃は三〇一号室の鍵を開け、部屋の中へと滑り込んだ。
「……ただいま」
暗い玄関で靴を脱ぎ、コートを脱ぎ捨ててリビングの明かりをつけた、その瞬間だった。
――ピチャ、ピチャ、ピチャ……。
部屋の奥、掃き出し窓の方角から、耳慣れない湿った水音が響いていた。
「え……?」
文乃は眉をひそめ、靴下を脱ぎ捨ててフローリングを小走りで進んだ。
リビングの中央、お気に入りのアイボリーの円形ラグの端が、濃い灰色に変色していた。
そして、視線をその先――ベランダに面した大きなガラスサッシへと向けた瞬間、文乃の喉から悲鳴が引きちぎられた。
「な、何これ……っ!?」
惨状だった。
ベランダが、浅いプールのようになっていた。
三〇一号室はフロアの角部屋にあたるため、ベランダの床の傾斜の最下点に、フロア全体の雨水を集めて下水へと流す主排水溝が設置されている。
だが今、その排水溝の上には、猛烈な突風によって近隣のケヤキ並木から吹き飛ばされてきた大量の濡れ落ち葉と小枝、そしてどこかの部屋から飛んできたのであろう破れたビニール袋が、幾重にも分厚いヘドロ状の層となって覆い被さっていた。
排水能力を完全に失ったベランダの床には、叩きつける豪雨がみるみるうちに溜まり、すでに水深は十センチ近くに達していた。
そして――水面は、サッシのアルミレールの高さをとっくに越えていた。
パッキンのわずかな隙間から、濁った泥水がジュワジュワと泡を立てて室内へと溢れ出し、フローリングの溝を伝って部屋の奥へと広がっていたのだ。
「嘘でしょ……っ、どうしよう、どうしよう……!」
パニックが、文乃の思考を真っ白に染め上げた。
このまま放置すれば、あと数分でリビング全体が水浸しになる。床が腐るだけでなく、階下の部屋へ漏水事故を起こしてしまえば、数百万円規模の損害賠償になりかねない。
文乃は洗面所へと走り、バスタオルを四枚、フェイスタオルをごっそり抱えて戻ってきた。
サッシの足元にタオルを敷き詰め、必死に水を吸わせようとする。だが、外から押し寄せてくる水圧は凄まじく、置いた瞬間にタオルは泥水を吸って重たい塊へと変わり、その上を越えて水が溢れ出してくる。まるで意味がなかった。
「元を……外のゴミを退かさなきゃ……!」
文乃は意を決して、サッシの鍵を開け、窓をガラリと引いた。
ゴォォォッッッ――!!
凄まじい風圧とともに、冷たい雨の飛沫が文乃の顔面と胸元を容赦なく打ち据える。
文乃は悲鳴を飲み込みながら、膝まで捲り上げたスウェットの足で、泥水の中へと踏み出した。
「冷たっ……!」
氷水のような冷たさが足首を締め付ける。
ベランダの隅、濁った水底に沈む排水溝へ屈み込み、手で落ち葉の塊を掴んで引き剥がそうとした。
ベチャッとした腐葉土の感触。濡れた葉を何掴みも放り投げるが、水は全く引かない。
排水口の目皿――金属製の格子状の蓋そのものの隙間に、細かな枝と繊維質のゴミがガチガチに絡みつき、フェルト状の目詰まりを起こしていたのだ。
「お願い……外れて……っ!」
目皿の金具の縁に指をかけ、引き上げようと渾身の力を込める。
だが、長年の風雨でネジ山が錆びつき、泥が噛み込んで固着した鋳鉄の蓋は、文乃の細い指の力など嘲笑うかのように、ミリ単位たりともびくともしなかった。
ズキッ、と鋭い痛みが走る。
「痛っ……!」
爪が剥がれそうになり、指先から血が滲んで濁った水の中に溶けていく。
雨足はさらに激しさを増し、バチバチと背中を激しく叩きつける。水位はさらに上がり、足首を完全に没していた。部屋の中を見れば、タオルを越えた泥水が、お気に入りのラグの半分を飲み込もうとしていた。
「どうしよう……長谷川さん……管理人さんはどこ……!?」
スマホを取りに戻ろうにも、全身ずぶ濡れの状態で部屋に入ればさらに被害が広がる。何より、今この瞬間にも水は増え続けているのだ。
恐怖と無力感、そして寒さに、文乃の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「誰か……誰か助けて……っ!」
嵐の轟音にかき消されるような、絶望的な呟き。
その時だった。
ガタガタッッッ!!
すぐ隣――三〇一号室と三〇二号室を隔てる、薄いケイカル板の避難仕切り板の向こう側で、激しくサッシが開け放たれる音が響いた。
「瀬戸さんッッ!?!? 瀬戸さん、大丈夫ですかッッ!?」
風雨の咆哮を切り裂いて届いたのは、信じられないほど切迫した、聞き覚えのある男の叫び声だった。
「え……?」
文乃が涙と雨水で霞む目を瞬かせ、仕切り板を見上げる。
板の向こう側から、ドスンドスンと荒々しい足音が近づいてくる気配がした。
「瀬戸さん! そこにいるんですか!? 返事をしてください!」
航平の声だった。
いつも恐縮して、蚊の鳴くような声で謝ってばかりいたあの男の、腹の底から絞り出されたような、張り裂けんばかりの絶叫。
「さ、佐伯……さん……っ!」
文乃は震える声で叫び返した。
「佐伯さん! 排水溝が……! 排水溝が詰まっちゃって、水が引かないの……! 部屋の中に、水が入ってきちゃって……っ!」
「浸水してるんですか!? 今行きます! 絶対にそのまま動かないでください!!」
バタン、と隣のサッシが乱暴に閉まる音がした。
数秒後。
三階の内廊下を、床が抜けんばかりの凄まじい勢いで疾走してくる足音が響いた。
ドガンッ、ドガンッ、ドガンッッ!!
文乃の部屋の玄関ドアが、壊れそうな勢いで拳で叩かれた。
「瀬戸さん! 開けてください! 航平です!!」
「あ、開いてます……っ! 鍵、開いてます!」
叫ぶが早いか、ドアノブが激しく回され、玄関のドアが乱暴に押し開かれた。
ドカドカドカッと、濡れた廊下を踏み荒らす足音とともに、リビングへと突進してきた人影。
「瀬戸さんッッ!!」
現れた航平の姿に、文乃は息を呑んだ。
スーツの上着を脱ぎ捨て、ワイシャツの袖を肩口まで強引に捲り上げた姿。
ネクタイを引きちぎるように外し、素足のまま、手には重厚なブルーのスチール製工具箱を鷲掴みにしていた。
「上がらせてください!」
靴を脱ぐ間すら惜しむように、航平は泥水の広がるリビングのフローリングを一瞥するや否や、迷うことなくベランダへと飛び出してきた。
ピシャァァンッ!
豪快な水飛沫を上げ、航平の足がベランダのプールへと着水する。
「佐伯さん……っ!」
「下がっててください! 怪我します!」
航平は文乃の華奢な肩を大きな手でぐっと押し戻し、自分の背中の後ろへと庇うように立たせた。
その瞬間、吹き荒れる暴風雨が航平の全身を直撃した。
仕立てのいい白いワイシャツは、一瞬にして肌に張り付き、透き通るほどにずぶ濡れになる。整えられていたはずの黒髪からは、滝のように雨水が滴り落ち、目を開けていることすら困難なはずだった。
けれど、航平の瞳は、一点の曇りもなく鋭く研ぎ澄まされていた。
ドスン、と工具箱をエアコンの室外機の上に叩きつけるように置く。
金属のラッチを弾き飛ばすように開け、中から引き抜いたのは、柄の太い頑丈な大型マイナスドライバーと、先端が鋭利に曲がったスチール製の平バールだった。
「くそっ、完全に錆びて固着してるな……!」
航平は躊躇うことなく、泥水の中に両膝をついた。
スラックスの膝が泥水に沈み、ヘドロの混ざった水が彼の腰回りを濡らしていく。だが、彼は服の汚れなど爪の先ほども気にする様子はなかった。
バシャリと、濁った水底に右腕を肘の深さまで突っ込む。
手探りで目皿の金具の縁を探り当てると、マイナスドライバーの先端を、わずかに空いた格子の隙間へと力任せに突き立てた。
ガチッ、と金属が噛み合う鈍い感触。
「フンッッ……!!」
航平の喉から、獣のような低い呼気が漏れた。
ドライバーの柄を両手で握り、体重のすべてをかけて押し込む。さらに、ドライバーによって生じたミリ単位の隙間へ、平バールの平たい先端を容赦なくねじ込んだ。
雨水が航平の顔面を打ち据え、目に入った水滴を振り払う余裕すらない。
腕の血管が太く浮き上がり、捲り上げた前腕の筋が、ちぎれんばかりに隆起していた。
「開け……っ! 外れろッッ!!」
テコの原理。
バールの柄を両腕で抱え込み、全身の背筋と腰の力を使って、一気に上方へと引き絞る。
バキバキッ、メキメキメキッ――!!
数十年間、コンクリートと鉄が交わり合って固着していた錆の結合が、悲鳴のような破壊音を立てて砕け散った。
ガコンッッ!!
重たい鋳鉄の目皿が、跳ね上がるようにして水底から外れた。
「外れた……!」
文乃が歓声を上げかけた、その瞬間。
航平はバールを放り出すと、今度は道具すら使わず、剥き出しの両手を、剥き出しになった配管の暗黒の穴の中へと躊躇なく突っ込んだ。
「佐伯さん、危ない――!」
「これを取り除かないと意味がないッ!」
配管の奥には、長年溜まった毛髪やヘドロ、そして今回流れ込んだ落ち葉が、ぎっしりと栓のように詰まっていた。
鋭利な配管のフチに皮膚が擦れ、泥水の中で血が滲むのも構わず、航平は泥塗れの指先で、配管の奥のヘドロの塊を鷲掴みにした。
グチャッ、ズルズルズルッ……!
両手いっぱいに、黒い塊を引きずり出す。
一掴み、二掴み、三掴み。
悪臭を放つヘドロと落ち葉の塊を、ベランダの端へと次々に投げ捨てる。
そして――四度目に腕を奥深くまで突っ込み、最後の巨大なゴミの塊を引き抜いた、その刹那だった。
――ズジュウゥゥゥゥッッッ!!!
凄まじい吸引音が、足元から鳴り響いた。
塞き止められていた水圧が一気に解放され、配管の穴が巨大な渦を巻き始めたのだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ――!!
まるで巨大な怪物が喉を鳴らして水を飲み干すかのように、ベランダを満たしていた泥水が、渦を巻いて猛烈なスピードで配管の奥へと吸い込まれていく。
十センチあった水位が、五センチ、三センチ、一センチと、目に見える速さで下がっていく。
サッシのレールを越えていた水面が、一瞬にしてレールの下へと落ちていった。
室内のタオルが泥水を吸い上げる音も、ピタリと止まる。
間一髪。
リビングの床が完全に死滅する、まさにその直前で、水の侵略は食い止められたのだ。
「……はぁっ、……っ、……はぁっ……」
ベランダに残ったのは、雨がコンクリートを叩く音と、二人の荒い息遣いだけだった。
水はすべて消え去り、底にはただ、濡れたコンクリートと、取り除かれた落ち葉の残骸だけが散らばっていた。
排水溝は、ゴボゴボと心地よい音を立てて、降り注ぐ雨水を次から次へと飲み込み続けている。
浸水の危機は、完全に去った。
文乃はへたり込むようにしてサッシの枠に手をつき、目の前の光景を呆然と見つめた。
そこにいたのは。
泥だらけのコンクリートの上に両膝をつき、両手を太ももに置いて、肩を大きく上下させている佐伯航平の姿だった。
白いワイシャツは、泥と雨水で茶色く汚れ、透けた背中が激しく波打っている。
額に張り付いた黒髪から、雨水がボタボタと顎を伝って滴り落ちる。
捲り上げた両腕は、肘まで真っ黒なヘドロにまみれ、右手の手の甲には、配管の縁で切ったのであろう赤い擦り傷が、雨水に洗われて痛々しく浮き彫りになっていた。
全身ずぶ濡れで、泥まみれで、息を切らし、寒さに震えている。
かつて見たどの姿よりも無様で、みっともないはずのその姿が。
今の文乃の目には、どんな言葉よりも尊く、どんな英雄よりも逞しく、そして美しく見えていた。
「佐伯、さん……」
文乃の声が、震えた。
航平はゆっくりと顔を上げた。
雨水が目に入らないよう、細められたその瞳。
彼は荒い息を吐き出しながら、文乃の顔を――そして、文乃の足元のリビングの床を見つめた。
「……瀬戸さん」
掠れた、途切れ途切れの声。
「お部屋……水、大丈夫でしたか……? 家具、濡れませんでしたか……?」
「っ…………!!」
文乃の喉の奥が、激しく詰まった。
自分自身がこれほど泥だらけになり、全身ずぶ濡れになり、傷を負っているというのに。
この人は、開口一番に、他人の部屋の心配をしているのだ。
火曜日にあんなに酷い言葉を投げつけて、ドアを叩きつけて追い出した女のために、雨の中を飛び出してきて、泥水に腕を突っ込んで、一番にその女の無事を案じているのだ。
「佐伯さん……っ、そんなの……そんなのどうでもいいです!」
文乃は叫ぶようにして部屋の中へと駆け戻り、棚から一番大きな、ふかふかの清潔な大判バスタオルを引っ張り出した。
再びベランダへと飛び出し、震える手でそのタオルを広げ、航平の濡れそぼった広い肩の上へと、包み込むように掛けた。
「佐伯さん、怪我は……!? 手、血が出てます……! こんなにずぶ濡れになって……っ!」
文乃の手が、タオルの上から航平の肩をぎゅっと押さえた。
タオルの下から伝わってくるのは、雨水の冷たさと、それに抗うように激しく脈打つ、男の熱い体温だった。
航平はタオルの温もりに包まれ、一瞬だけ驚いたように目を見張った。
そして、自分の擦りむけた手の甲を一瞥すると、困ったように、けれどどこか照れくさそうに、眉尻を八の字に下げて力なく笑った。
「……あ、これですか。大したことありません。……それより、間に合って……本当によかった」
その飾らない、心底からの安堵の笑みを見た瞬間。
文乃の目から、堰を切ったように大粒の涙が零れ落ち、航平の肩のタオルを濡らしていった。
吹き荒れる夕立の雨音の中で、二人の間に横たわっていた三日間の分厚い氷が、音を立てて、完全に砕け散った瞬間だった。




