配信者や歌い手の『歌ってみた』や『歌枠配信』って著作権はどうなっているの? というお話(後)
さて、今度こそ本当に後編である「音源の製作者の利用許諾が取れているか」について解説をしていきます。
こちらは、厳密には著作隣接権の話になります。
著作隣接権とは要するに演奏や音楽作成ソフトなどで作成された音源自体の権利で、CDなどの原盤権などもこれに含まれます。
少しわかりにくいかもしれませんので、簡単な例を出します。
オリジナルの曲として『ラブソング(仮)』という有名曲があったとします。
これをミュージシャンAが演奏し音楽データを作成すれば、その音楽データの著作隣接権はミュージシャンAのものになります。
同様にミュージシャンBが演奏し音楽データを作成すれば、その音楽データの著作隣接権はミュージシャンBのものになります。
この著作隣接権は著作権とは別の扱いとなりますので、注意が必要です。
実際にどういった問題が発生するかというと、たとえば『ラブソング(仮)』の作曲者や原曲を歌っている歌手であっても、ミュージシャンAの作成した音楽データを使用してライブをしたり配信したりすると違反行為になります。
歌手がカラオケ店で自分の曲を歌って何点出せるか――みたいな企画があったりしますが、ああいった企画で歌唱シーンがカットされるのもそれが理由です(映している場合は許可を取っていることがわかるようにロゴなどが表示がされていると思います)。
なんでオリジナルの作曲者や歌手が自分の曲を歌って違反になるんだよ! とモヤモヤした気持ちになる人も多いと思いますし、音楽データの制作者側としてもオリジナルの権利者に使ってもらえるのはむしろ光栄! と思う人も多いでしょうが、残念ながらそういうルールである以上守らないと違反行為になってしまいます。
ただ、権利者の方であれば許諾自体は取りやすいと思いますので、きちんと手順を踏むことを意識すれば問題無いでしょう。
このように権利者ですら問題となるのですから、何の権利も持たない一般の方がやっても当然違反行為となります。
X(旧Twitter)のスペースや配信アプリなどでカラオケ店から直接配信をしている人もよく見かけますが、あれらは権利者側が観測できていないだけですので、通報されるなどして発覚した場合はアカウント停止や永久凍結などの厳しい処分が下ります。
警告なしの一発アウトになることも多いので、もし今読んでいる方で心当たりがある方は今後やらないことをお勧めします。
X(旧Twitter)は前述した通り著作権違反にもなるので、最悪のケースではアカウント取消以上の状況にまで発展する可能性があります。
特にカラオケ店の音源を無断で使用した場合(カラオケ店によっては配信を許可している店舗もあります)、過去に裁判となった実例もありますので、より現実味のある問題と言えるでしょう。
ここまで読んできた方にはいないと信じたいですが、社会経験のない学生さんなどの中には「うるせぇ」とか「細けぇんだよ」とか「そのくらいいいだろ別に」などと思う方もいるかもしれません。
しかし、冷静に考えていただくとわかると思うのですが、無許可や無断での利用というものは無銭飲食などの窃盗とやっていることは変わらないのです。
そんな大げさな――と感じる人もいると思いますが、音源も料理と同じで作るための材料費や機材、人件費などがかかっていますので、勝手に使われたら堪ったものではありません。
これは実際に、自分が同じような行為をされたことを想像すれば理解しやすいと思います。
特にカラオケ店などの音源を商売に使っているようなケースでは、高額な著作権料を著作権管理団体や著作者に支払い、プロのボーカルや機材、専門のスタッフを動員してカラオケ音源を作成しています。
これを勝手に使われるだけでも逸失利益(本来得られるはずだった利益)になりますし、無から有を生み出すよう収益まで得られていたら裁判沙汰にするくらい怒るのも当然と言えるでしょう。
結構厳しい例を出して説明したので脅かされたような印象を受けた方もいると思いますが、いかに「音源の製作者の利用許諾が取れているか」が重要であるかは伝わったんじゃないでしょうか。
残念ながら、「お金がないから」とか「許可が取れないから」という理由は免罪符になりません。
別に個人で用意できないような金額が必要なわけではありませんし、どう足掻いても難しい場合は単純に諦めればいいだけのお話です。
恐らく無断でやっている人もほとんどは、なんとなく悪いことだと理解しつつも「面倒くさい」や「手間がかかる」、「バレなきゃ大丈夫だろう」などの理由で確認していないのだと思います。
ただ、こういった考え方は製作者側に対し失礼なだけではなく、やっている人にとってもマイナス面が大きいです。
たとえば将来的に企業所属の配信者を目指していたり、そうでなくとも有名になったりビッグになることを目指しているのであれば、必ずこういった考えた方は自分の足を引っ張ることになります。
雇う側や案件を依頼する側だって、いつ問題を起こすかわからない人は採用したくないでしょうからね……
また、既に企業所属の方がやっているのであれば、その企業はタレントをしっかり管理できていない事務所だと思われる可能性もあります。
あくまでも個人の趣味や活動としてやるのであれば自己責任の面が強いですが、複数人が関わる企画やイベントなどに参加する予定があるのであれば、意識改革が必要になってくるでしょう。
無断使用が発覚すれば最悪の場合企画そのものがなくなることもあり得ますし、悪質と判断されれば今後呼ばれることも採用されることもなくなります。
以上、『歌ってみた』や『歌枠配信』で注意すべき二点の解説でした。
最後の方は中々に厳しい内容だったと思いますが、本当に裁判になった事例もありますからね……
そこまで大事になるとは思っていない人も多いと思いますので、少しでも意識してもらえればと思い書かせていただきました。
まとめ的なお話になりますが、今回このような内容になったのは以前私が参加した歌枠リレー(複数人のVtuberが歌枠をリレー繋ぎで行うイベント)で著作権に関する話題になりまして、改めて自分でも確認したいと思ったからです。
特定の個人に対し指摘したり批判する意図はなく、違反している人をあぶり出したいという気持ちもありません。
もちろん注意喚起の意味合いはありますが、指摘などは基本的に権利所有者側の立場にある人がすることだと思っています。
私は去年からVsingerとしても活動しているため、著作権や著作隣接権については結構調べたり勉強したりしてある程度知識はあるのですが、それでも把握しきれていないことがあるくらい著作権関連の話は難しいです。
今回、なるべく読みやすくなるよう内容や文体を意識して書いていますが、それでも結構な文字数になってしまいました。
知らずに違反していた人や、過去に確認漏れで違反してしまったことのある人にとっても中々に耳の痛くなる内容だったと思いますが、私も利用者側なので正直確認が手間に感じる気持ちや面倒と感じてしまう気持ちは理解できます。
イベント事や企画の前であればしっかりと確認すべきと思いますが、定期的な『歌枠配信』などでは多い人なら30曲以上歌う人もいますし、毎回確認するのは実際かなり大変ですからね。
恐らくですが、大手企業所属の方であっても配信で毎回事前確認している人は少ないというか、ほぼいないんじゃないかと思います。
ただ少し安心して欲しいのは、そこまで高頻度(毎日や毎週などの定期的な頻度)な確認や申請は大抵の場合必要ありません。
著作隣接権の視点では製作者ごとにそれぞれルールが設定されていますし、そもそも毎回申請されても対応が大変なので「ルールを守ったうえでご自由にお使いください」としていることがほとんどです。
事後申請で問題なしとしてることも多いので、配信後に落ち着いて申請するのであればそこまで大変ではないと思います。
また、著作権の場合でも管理状況の変更に対するリアルタイムな対応はカラオケなどの企業ですらできていません。
どの曲が管理対象になったとか、逆に管理対象外になったなどの通知を利用者全員にすることは現実的に考えるとかなり難しいですからね……
実際、著作権管理団体の管理曲じゃなくなったり、逆に管理曲になったりというケースが意外とあります。
昔はJASRACに管理を委託していなかったが比較的近年になって委託するようになった――というアーティストもいますし、最近だと某美少女ゲームメーカーの曲が委託され始めているという情報が一部で話題になっていました。
これ自体は利用者としては嬉しいニュースですが、知識が一昔前で固まっている人に「違法だ!」と誤解を受けたり騒がれたりすることもあるかもしれません。
他にも所属レーベルが変わったことで、一時的に管理曲じゃなくてっているケースもあります。
最近だと有名なヴィジュアル系アーティストの曲の一部が、一時的に管理曲じゃなくなっていたことがありました。
恐らくは一時的だったからこそだとは思いますが、この管理曲じゃなかった期間にもカラオケでは配信されていましたし、Youtube上の音源が消されるようなこともありませんでした。
こういったケースだと楽曲を利用している企業すらも把握できていない可能性がありますので、気付かず利用していただけなら警告されることも恐らくはないと思われます。
最後になりますが、違反してしまう人も大抵の場合悪意はなく、思い込みや勘違い、確認不足が主な原因だったりします。
ついこの前も、「JASRACやNexToneで管理されていない曲であれば自由に使っても平気」と勘違いしている人をX(旧Twitter)で見かけました。
実はこれって以前からSNS上で話題になることがあって、「JASRAC対策のためにJASRACで管理されていないインディーズ系アーティストの曲を使いましょう」という投稿をしている人が一定数いたんですよね(今もいるかもしれませんが)。
恐らくですが、今も勘違いしている人はそういった投稿が拡散された結果誤解してしまったんだと思います。
また、「他の人が歌っていたから大丈夫だろう」という判断も結構危険でして、実はその人も確認不足という可能性もありますし、事務所所属の方であれば事務所が特別に許諾を得て歌っているという可能性もあります。
いずれにしても、自分でしっかりと確認するのが安全かつ確実です。
……まあ、色々と厳しい内容が多かったと思いますが、最終的にはそこまで怖がらないでも大丈夫ですよ! と言いたかったのです。
今回解説した二点を注意しておけば、大きな問題になることはないと思います。
大事なのは事前にしっかりと確認することなので、企画参加や『歌ってみた』動画を出す際はJASRACやNexToneで検索するクセをつけるといいでしょう。
もしこれからやってみたいと考えている方は、是非挑戦してみてくださいね!




