7話
放課後の廊下は、やけに静かだった。
優は窓際を歩いているけど、いつもみたいに周りに人が集まる感じはない。
女子に声をかけられても、短く返すだけで会話が終わる。
その背中を見つけて、咲は少しだけ足を速めた。
「優」
呼ぶと、優は一応振り向く。
「……ああ」
いつもの軽さがない。
その一言だけで、咲はすぐ察してしまう。
(あ、まだダメなやつだ)
でも、そこで空気を合わせるのは性格じゃない。
咲はわざと明るい声を出した。
「なにその顔。ゾンビみたいなんだけど」
優が一瞬だけ目を細める。
「うるさい」
「生きてる?」
「生きてる」
「よかった」
咲はそのまま隣に並んで歩き出す。
優は黙ったまま、少し遅れてついてきた。
廊下の人の流れに混ざりながら、咲は横目でちらっと見る。
次の言葉だけ、少し慎重に選んだ。
「まあさ、あんたモテるし? そのうち次いくでしょ」
優はそこで少しだけ足を止めかけて、でも止まらない。
「……そういう問題じゃない」
「じゃあ何?」
少し沈黙。
優は視線を落としたまま言った。
「思ってたのと違っただけ」
咲は一瞬だけ言葉に詰まる。
でもすぐに、いつもの調子に戻した。
「なにそれ、かっこつけ?」
「別に」
「じゃあ普通に落ち込んでるだけ?」
優は少し間を置いてから、小さく頷く。
それだけで、咲の胸のどこかがちょっとだけ痛くなる。
でも顔には出さない。
「じゃあさ」
咲はわざと明るく言った。
「今日くらいはジュース奢ってあげようか?」
優がちらっと見る。
「なんで」
「慰め料」
「いらない」
「素直じゃないね」
咲は笑って、先に歩き出した。
優は少し遅れて、その背中を見る。
「……お前さ」
「なに」
振り返ると、優は少しだけ困った顔をしていた。
「うるさいけど、今はちょっと助かる」
その一言に、咲は一瞬だけ動きを止める。
でもすぐに、いつもの顔に戻って笑った。
「でしょ」
そして何事もなかったみたいに、また歩き出す。
その後ろを、優もゆっくりついてくる。
まだ元気じゃないくせに。
完全に一人にはならない距離で。




