5話
昼休み。
「かおりー」
優が、わざとらしく声を伸ばす。
かおりが顔を上げた。
「なに?」
「今日も朝から先輩探してた?」
「探してない!」
即否定。
でも耳が赤い。
優は吹き出す。
「いや絶対探してたじゃん」
「探してないって!」
「じゃあなんでずっと窓の外見てたんだよ」
「たまたま!」
完全に図星だった。
咲は少し離れた席で、そのやり取りを見ていた。
周りから見れば、ただ楽しそうな会話。
でも咲には分かる。
優は最近、よくかおりを見ている。
かおりが先輩の話をすると、楽しそうに笑う。
その顔を見るたび、胸の奥が少しだけ重くなる。
「で?」
優がニヤニヤしながら聞く。
「先輩のこと好きなの?」
かおりが一瞬固まった。
「……っ!」
顔が一気に赤くなる。
優が目を細める。
「好きなんだ」
「違うし!」
「いや今の反応は好きだろ」
「うるさい!」
かおりは本気で恥ずかしそうにしている。
その顔を見て、優は笑った。
楽しそうに。
優しそうに。
咲はその横顔を見ながら、そっと視線を落とす。
(楽しそう)
それだけで十分分かる。
優は、本当にかおりが好きなんだ。
⸻
——それから少しして。
「えっ!? ほんと!?」
教室で女子たちの声が上がる。
咲が顔を上げる。
かおりが困ったみたいに笑っていた。
「昨日、告白されて……」
周りが一気に騒ぎ始める。
「え、先輩!?」
「付き合ったの!?」
かおりは恥ずかしそうに頷いた。
その瞬間。
咲は反射的に、優を見る。
優は少し離れた席で、その会話を聞いていた。
一瞬だけ、動きが止まる。
でもすぐに、いつもの顔で笑った。
「へぇ、おめでと」
軽い声。
いつもの調子。
かおりはほっとしたように笑う。
「ありがとう」
周りはまだ盛り上がっている。
でも咲だけは、優の横顔を見ていた。
笑ってる。
普通に。
ちゃんといつも通りだ。
でも。
(あー……)
長い幼馴染みだから分かる。
あれ、結構ショック受けてる。
優は椅子にもたれたまま、騒ぐ女子たちをぼんやり眺めていた。
その横顔が、少しだけ遠く見える。
咲は胸の奥が、ぎゅっと苦しくなる。
嬉しくない。
でも少し安心してる自分もいて。
そんな自分が、嫌だった。




