24話
咲はまだ納得できないまま、視線を前に向けて歩いている。
「……だって」
優が横を見る。
咲は少し間を置いてから言う。
「初恋はお前だった、って言ったじゃん」
優の足が一瞬だけ緩む。
咲は続ける。
「それ、過去形でしょ」
「もう終わったみたいに聞こえる」
優はすぐには否定しない。
その間が余計に咲を不安にさせる。
咲は小さく息を吸って言う。
「優、この前までかおりのこと好きだったし…」
優の表情が少しだけ動く。
一瞬、言葉を探すみたいに黙ってから、優は小さく息を吐いた。
「……それは、そのとおりだけど…」
少しだけ間。
でも視線は逸らさないまま、優は続ける。
「でも」
そこで一度切る。
咲が息を止める。
「惚れ直した」
咲の目が揺れる。
でもまだ疑ってる顔のまま。
「……は?」
優は少しだけ言葉を選ぶ。
「確かに初恋はおまえだったし」
「かおりのことも好きだった」
そこはちゃんと認める。
咲の呼吸が少し止まる。
そのあと、優は視線を咲に戻して言う。
「でも今好きなのは、お前だよ」
空気が止まる。
咲の足も止まる。
「……今?」
小さく聞き返す。
優は頷く。
「今」
咲は少しだけ目を逸らす。
「それってさ」
「気のせいとかじゃなくて?」
優は即答する。
「違う」
間。
少しだけ気まずいくらいの静けさ。
でも優は逃げない。
「一回別のやつ好きになったのは事実だけど」
咲の動きが止まる。
優は一度だけ息を吐いて、まっすぐ続ける。
「それでも、やっぱりお前が好きなんだよ」
空気が止まる。
咲の呼吸も一瞬止まる。
「……は?」
やっと出た声は、さっきまでの強さがない。
優は視線を逸らさない。
「初めて好きになったときより」
少しだけ間を置いて、
「今の方が好き」
その一言で、先の目が揺れる。
でもすぐに、困ったように眉を寄せる。
「……意味わかんない」
小さくこぼれる本音。
優は少しだけ困った顔をするけど、逃げない。
「わかんなくていい」
「とりあえずそれだけ覚えとけ」
咲は黙る。
いつもならすぐ言い返すのに、今日は言葉が出ない。
代わりに、小さく息を吐く。
「……ずるい」
優が横を見る。
「何が」
咲は前を向いたまま、ぼそっと言う。
「そういうの、今言うの」
優は少しだけ考えてから、
「今しかなくない?」
普通に返す。
咲はそれ以上何も言えないまま歩き出す。
でもその歩き方は、もう逃げじゃなかった。
優も並んで歩く。
朝の通学路はそのまま続いていくのに、二人の間だけ少しだけ違う空気になっていた。




