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23話

咲が走っていったあと、優はしばらくその場に立ち尽くしていた。


落ちたメガネを拾い上げる。


手の中がやけに静かだった。


(今の……)


咲の顔。

涙。

逃げる背中。


頭の中で何度も再生されるのに、うまく整理できないまま時間だけが過ぎる。


それでも足は自然と動いていた。


気づけば、すぐ隣の家の前。


咲の家。


優は一度だけ息を吐いて、インターホンを押す。


ピンポン。


少しして、出てきたのは咲ではなく、咲の母親だった。


「あら、優くん」


優は一瞬だけ間を置いてから、軽く頭を下げる。


「すみません、これ」


メガネを差し出す。


「咲さんに……渡しておいてください」


母親は少し驚いた顔をする。


「咲、いるにはいるんだけどね……」


視線が少しだけ上に向く。


「部屋から出てこないのよ」


その言葉に、優は小さく頷く。


「……すみません」


「ううん、ありがとうね」


メガネを受け取った母親が、静かにドアを閉める。


カチャ、と鍵の音。


優はその場に少しだけ立って、それから何も言わずに家に戻る。


隣なのに、今日はやけに距離がある気がした。


——翌朝。


まだ空気が冷たい時間。


咲の家の前。


優はまた立っていた。


今度は「来るのを待つ」じゃなくて、少し早く出てくるのを知っている顔で。


しばらくして、玄関が開く。


咲が出てくる。


明らかに、優を避けるための時間。


一瞬、目が合う。


でも咲はすぐに逸らして歩き出す。


「咲」


呼ぶ。


咲は一瞬だけ反応するけど、止まらない。


「待てって」


そのまま一歩踏み込んで、優は咲の手を掴んだ。


「……っ、離して」


咲が反射的に腕を引く。


でも優は離さない。


強くじゃないけど、確かに止める。


そのまま、短く言った。


「ごめん」


咲の動きが止まる。


風だけが間を通り過ぎる。


咲は振り向かずに、低い声で言う。


「なんで謝るの?」


優は一瞬詰まる。


「昨日泣いてたから……」


その言葉が出た瞬間、咲の空気が変わる。


ゆっくりと振り向く。


目が合う。


「それだけ?」


優は少しだけ視線を逸らす。


「……いや、その」


うまく言葉が出ない。


昨日の顔が頭に浮かんで、それをどう扱っていいか分からない。


咲はその迷いを見て、少しだけ声を強くする。


「意味もなく謝らないで!」


手を振りほどく。


「そういうの、ムカつく」


そして、そのまま歩き出す。


優は咲の背中を追う。


でも今度は、咲の背中を見ながら一歩だけ踏み出して言う。


「意味なくじゃない」


優は続ける。


「昨日、お前泣いてたの、俺のせいだろ」


その一言で、咲のあしが止まる。


「……違うし」


即答。


でも少し遅い。


「違わないだろ」


優も引かない。


「違うって言ってるでしょ!」


咲の声が一段上がる。


優も引かない。


「じゃあなんで泣いたんだよ」


その一言が、最後の引き金になる。


咲は一度、目をぎゅっと閉じる。


それから、ぱっと開いて——


一気に言い放つ。


「あんたが好きだからよ!悪かったわね!」


朝の空気が一瞬止まる。


優も固まる。


「……え」


思わず出た声。


咲はそのまま続ける。


「勝手に期待して勝手に落ち込んで、ほんとバカ!」


言い切って、息を吐く。


でもすぐに、目を逸らして続ける。


「わかってるわよ」


「幼馴染みとしか思ってないって」


「だから早く振ってよ!」


一気に吐き出して、胸が上下する。


朝の空気だけがやけに静かだった。


優は数秒、完全に止まっている。


「……は?」


ようやく出た声。


咲はすぐに睨む。


「なによ」


優はそこで、表情を変える。


さっきまでの驚きが、少しずつ怒りに変わる。


「ちょっと待て」


「待たない」


即答。


優は一歩近づく。


「なんでお前が“振られる前提”で話してんだよ」


咲が止まる。


「……は?」


優は続ける。


「俺、まだ何も振るって言ってねぇだろ」


咲の言葉が詰まる。


でもすぐに反射で返す。


「だってそうでしょ!どうせ困るだけでしょ!」


優の声が少し強くなる。


「勝手に決めんなって言ってんだろ」


沈黙。


朝の音だけが戻ってくる。


咲は少しだけ視線を逸らす。


「……だって」


小さくこぼす。


優はそこで、はっきり言う。


「好きだよ」


短くて、逃げてない声。


咲の目が一瞬だけ揺れる。


でもすぐに、また現実に戻ろうとするみたいに言う。


「……でも」


優は遮る。


「でもじゃねぇ」


そして少しだけ言葉を選んで続ける。


「映画だってさ、お前が好きだから一緒に行きたかったんだよ」


咲の動きが止まる。


優はまっすぐ見ている。


「お前と行くのが嫌だったら、最初から行ってねぇ」


静かな一言。


空気が少しだけ変わる。


咲は言葉が出ないまま、でもまだ納得できない顔をしている。


「……でも今まで」


優は即答する。


「今までとか関係ねぇだろ」


「急にそんなこと言われても!」


「急なのはお前だろ」


また喧嘩になる。


でも今度は、さっきみたいに“終わらせるための喧嘩”じゃない。


ちゃんと向き合ってる喧嘩。


優は最後にもう一度だけ言う。


「とりあえずさ」


「振られるって、勝手に決めんな」


咲は悔しそうに黙る。


朝の通学路で、二人はそのまま並んで歩き出す。


喧嘩の途中なのに、さっきより少しだけ距離が近かった。

キレながらの告白大好きです。

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