2話
放課後。
かおりは部活へ向かう前、窓の外をぼんやり見つめていた。
視線の先には、体育館へ向かう三年の先輩。
その背中を目で追いながら、かおりが小さくため息をつく。
咲はそれを横目で見て、口元をゆるめた。
「また見てる」
かおりがびくっとする。
「ち、違うし!」
「いや、分かりやすすぎでしょ」
咲が笑うと、かおりは観念したみたいに肩を落とした。
「……そんなバレてる?」
「うん」
即答。
かおりは恥ずかしそうに頬を押さえる。
「でもさ、無理じゃない?」
「三年だし」
「モテるし」
「全然こっち見てないし」
最後だけ、少しだけ声が小さかった。
その顔を見て、咲はなんとなく笑えなくなる。
(そっか)
と思う。
かおりもちゃんと恋してるんだ。
そして、その相手は優じゃない。
その事実に、少しだけ安心して。
少しだけ苦しくなる。
⸻
帰り道。
隣を歩く優は、コンビニで買ったアイスを食べながら、いつも通り適当な話をしていた。
「今日の英語ぜったい当てられると思った」
「寝そうだったもんね」
「実際ちょっと寝た」
「最低」
そんなやり取りのあと。
咲は少しだけ迷ってから口を開く。
「あんたさ」
「んー?」
「かおりのこと好きでしょ」
ぴたり、と。
優の足が止まる。
咲は前を向いたまま続けた。
「最近分かりやすすぎ」
少し沈黙。
それから、優は観念したみたいに笑った。
「……そんな分かる?」
「分かる」
即答だった。
優は照れくさそうに頭をかく。
その反応だけで、もう答え合わせみたいだった。
咲の胸が少し痛む。
でも顔には出さない。
「へぇー」
なるべく軽く言う。
「優が自分から好きになるとか珍し」
「うるせ」
否定はしない。
それが余計に刺さる。
咲は小さく息を吐いた。
(そっか)
やっぱり本気なんだ。
今までの彼女たちとは違う。
そう思ってしまう。
でも同時に、先輩を見ていたかおりの横顔も思い出す。
だから咲は、少しだけ笑って言った。
「……まあ、頑張れば?」
優がちらっと見る。
「応援してくれんの」
「幼馴染みだからね」
咲はいつもの調子で肩をすくめた。
「失恋したら慰めるくらいはしてあげる」
優は吹き出す。
「なんだそれ」
咲も笑う。
ちゃんと、いつも通り笑えているはずなのに。
胸の奥だけ、少しだけ苦しかった。




