1話
少女漫画の王道を詰め込んだお話です。
高校一年、昼休み。
いつものように、優の周りには女子が集まっていた。
「ねー、優、部活どこ入るの?」
「どうしよっかな」
「私と一緒に入ろうよー」
「考えとく」
適当に返してるくせに、愛想は悪くない。
距離も近い。
だからモテるんだろうな、と咲は思う。
少し離れた席で、咲はかおりとお弁当を広げていた。
「この前の数学やばくなかった?」
「やばかった。途中で寝た」
「最低」
かおりが笑う。
そんな、いつもの昼休み。
その時。
「咲」
急に名前を呼ばれて、咲は顔を上げた。
優だった。
「なに」
優はなぜか少しだけ言葉を探すみたいな顔をしてから、
「……かおりってさ」
と言った。
その瞬間。
咲の箸が止まる。
「え?」
隣では、かおりが何も気づかずに麦茶を飲んでいる。
優は視線をさまよわせながら続けた。
「部活、何部だっけ」
「バスケ部だけど?」
かおりが普通に答える。
「ふーん」
それだけ言って、優は自分の席へ戻っていく。
咲はその背中を見ながら、なんとなく違和感を覚えた。
(……なに今)
別に変な会話じゃない。
でも。
その日からだった。
「かおりって彼氏いんの?」
「かおりって休みの日なにしてんの?」
「かおりって結構抜けてるよな」
やたら、かおりの話題が増えた。
最初はただの興味だと思っていた。
クラスメイトとして、仲良くなっただけ。
そう思おうとしていた。
でも。
「この前さ」
ある日、優が笑いながら言った。
「かおり、ノート持ちながら“ノートどこ?”って探してた」
「ちょ、やめてよ!」
かおりが笑いながら肩を叩く。
優も楽しそうに笑う。
その顔を見た瞬間。
咲の胸が、少しだけ重くなった。
(……あ)
なんとなく、分かってしまう。
優は今まで、彼女ができてもそんなに相手の話をしなかった。
告白されて、なんとなく付き合って、なんとなく別れる。
そんな感じばかりだったのに。
今は違う。
かおりの話をしている時だけ、
少し嬉しそうで。
少し浮かれていて。
見てるこっちが分かるくらい、楽しそうだ。
咲はそっと箸を置く。
胸の奥が、じわっと痛かった。
(これ……)
認めたくないのに、分かってしまう。
(優、かおりのこと好きなんだ)
その瞬間。
教室の音が少しだけ遠くなる。
「咲?」
かおりが不思議そうに顔を覗き込む。
咲は慌てて笑った。
「ん? なに?」
「なんかぼーっとしてた」
「してないし」
いつもの調子で返す。
ちゃんと笑える。
普通に話せる。
でも胸の奥だけ、全然笑えていなかった。




