18話
昼休みの終わり。
咲はスマホを見ながら、小さく声をあげた。
「……あ!」
「なに?」
隣のかおりが覗き込む。
咲は少し身を乗り出して画面を見せた。
「映画のチケット当たった!」
「え、すご」
「これ、前やってたドラマの劇場版」
「あー! 咲好きだったやつ!」
かおりが笑う。
咲も少しだけ嬉しそうに頷いた。
「今度の土曜」
「行こう行こう!」
かおりは即答した。
——はずだった。
金曜日。
「ごめん、明日急用入っちゃって、映画いけなくなっちゃった」
「……まじか」
咲はぽつりと呟く。
チケットは二枚。
しかも明日。
「一人で行こうかな」
「ほんとごめんね」
かおりが申し訳なさそうに言う。
そのとき。
「咲」
後ろから声がした。
振り向くと、優が立っている。
「なに」
いつも通り返したつもりだったけど、少しだけテンションが低い。
優はスマホを持ったままの咲を見た。
「明日映画行くんだろ」
「……なんで知ってんの」
「聞こえた」
優は少し間を置いてから言う。
「かおり行けなくなったんだって?」
「うん」
短い返事。
少し沈黙が落ちる。
すると、優が軽く言った。
「じゃあ、俺と行く?」
咲は一瞬固まる。
「……は?」
「その映画、俺も見たかったやつだし」
「え」
思わず見返す。
優は少し笑った。
「前、一緒に見てただろ。ドラマ」
「あ……」
たしかにそうだった。
中学生の頃、毎週感想を言い合って盛り上がった記憶がある。
咲が毎週見ていて、すぐるは最初「くだらねー」とか言いながら、気づいたら普通に続き気にしてたやつ。
「最終回の犯人考察、めちゃくちゃ外してたし」
「うるさい」
咲は即答する。
でも、その瞬間だけ少し空気が緩む。
優は肩をすくめた。
「だから普通に見たい」
その言い方が妙に自然で。
咲は逆に困る。
「いや、でも……」
「チケット余ってるんだろ?」
「そうだけど」
「じゃあいいじゃん」
咲はメガネを押し上げながら、少しだけ視線を逸らした。
「……私と映画って、普通に変じゃない?」
優は少しだけ眉を上げる。
「なんで」
「なんでって……」
説明しづらい。
幼馴染みだからこそ、変に意識してしまう。
でも、それを言葉にする方がもっと変だ。
咲が黙っていると、横で聞いていたかおりが小さく笑った。
「いいじゃん、行ってきなよ」
「かおりまで何言ってんの」
「だって、そのドラマ好きだったんでしょ? 二人とも」
かおりは楽しそうに続ける。
「しかもチケットもったいないし」
「それはそうだけど……」
咲は一人だけ、ついていけない顔をする。
かおりはそんな二人を見て、くすっと笑った。
「なんか普通に楽しそうじゃん」
「全然普通じゃない」
「咲が意識しすぎなんじゃない?」
「してない!」
即答。
でも、ちょっと声が大きい。
優が横で笑う。
「してんじゃん」
「してない!」
かおりまで笑い出す。
咲だけが悔しそうに眉を寄せた。
優はそのまま話を進める。
「じゃ、明日な」
「決まってない」
「家の前集合で」
「人の話聞いて」
「ポップコーン奢れよ」
「なんで!?」
いつものテンポで押し切られていく。
咲は最後にもう一度だけ睨んだ。
「ほんと意味わかんないからね」
優は軽く笑う。
「うん」
その「うん」は、少しだけ楽しそうだった。




