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17話

放課後の教室は、人がだいぶ減っていた。


窓から差し込む夕方の光だけが長く伸びて、机の影を薄く落としている。


優は机にカバンを置いたまま、スマホをいじっていた。


最近は、咲と話すのが妙に“普通”になってきている。


気づけば名前を呼んでいて。


気づけば隣にいて。


それが当たり前みたいになっていた。


「ねえ、優」


女子の声がする。


優は顔を上げた。


「なに」


少し距離を詰めて立っているのは、同じクラスの女子だった。


最近よく話しかけてくる。


優に好意があることを、周りもなんとなく気づいてるタイプ。


「最近さ」


「うん」


女子は少し笑いながら、でも目はちゃんと優を見ていた。


「橋本さんと、よく話してるよね」


その一言で。


優の指が、一瞬だけ止まる。


「別に普通だろ」


優はすぐ返す。


女子は少し首をかしげた。


「そうかな? 前はそんなに絡んでなかったじゃん」


「昔からだよ」


「へえ」


明らかに納得してない「へえ」。


少し間が空く。


女子は机の端に軽く手を置いて、探るみたいに見てきた。


でも、優は軽く笑って流す。


「幼馴染みだからだろ」


「ふーん」


女子は笑う。


でも、笑いきれていない。


少し沈黙が落ちたあと。


さらっと、核心に近いことを言う。


「じゃあさ」


「うん」


「優って、橋本さんのことどう思ってるの?」


空気が少しだけ変わる。


優はスマホを机に置いた。


「別に」


即答。


でも、その“別に”は少しだけ遅かった。


女子はそこを見逃さない。


「ほんとに?」


優は少しだけ視線を外す。


「……なんで気にすんの」


女子は少し笑う。


「だって最近、橋本さんにだけ態度違うよ」


「違わない」


「違うよ」


はっきり言われて、優は黙る。


その沈黙が、余計に肯定みたいになってしまう。


女子は少しだけ声を落とした。


「私には、あんまり話しかけてこないのにね」


その一言で、優の中が少しだけざわつく。


でも次の瞬間。


浮かんだのは、咲の顔だった。


メガネを押し上げながら、いつもみたいに突っかかってくる声。


『意味わかんない』


『気持ち悪いんだけど』


なのに、ちゃんと隣に来る。


「……あいつは、別」


思わず出た言葉は、説明になっていなかった。


女子はそこで、少しだけ目を細める。


「別なんだ」


優は舌打ちしそうになって、それを飲み込む。


「そういう意味じゃなくて」


でも、その先が出てこない。


女子はそれ以上追及せず、小さく笑った。


「ふーん。まあいいけど」


そして少しだけ距離を戻す。


「でもさ」


「なに」


「あんまり話しかけると、誤解されるよ」


優は、その言葉にだけ少し顔を上げた。


「誤解?」


女子は肩をすくめる。


「うん。好きなんじゃないかって」


その瞬間。


優の中で、何かが一瞬だけ止まる。


でも、すぐに否定する。


「ない」


短い。


強い。


けれど、そのあとに続く言葉はなかった。


女子は小さく笑って、カバンを持ち直す。


「じゃ、そういうことにしとくね」


そう言って教室を出ていった。


残された優は、しばらく机の前に立ったままだった。


(……好き)


その言葉だけが、妙に残る。


でも、その対象はまだ自分の中でちゃんと形になっていない。


ただ一つだけ分かるのは。


最近ずっと、咲のことを考えているということだった。

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