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16話

昼休みの廊下。


「咲」


「なに」


呼ばれて振り向くと、優がいた。


最近やけに、その回数が増えている。


「今日さ、購買行く?」


「行かないけど」


即答すると、優は「ふーん」とだけ返した。


……いや、それで終わる会話じゃないだろ、普通。


咲はメガネを押し上げて、少しだけ目を細める。


「なに、それだけ?」


「いや別に」


「“別に”で呼ばないでほしいんだけど」


「そういう日もあるだろ」


優は軽く笑う。


その笑い方が、最近ずっとこんな感じだった。


用事があるわけでもないのに話しかけてくる。


でも、理由は説明しない。


咲は腕を組んだ。


「最近さ」


「うん」


「なんか多くない?」


「何が」


「私に話しかける回数」


優は一瞬だけ止まる。


「そうか?」


「そうだよ」


間。


優は視線をそらして、窓の外を見る。


「たまたまだろ」


「たまたまにしては多い」


咲の声は淡々としている。


でも目だけは、ちゃんと優を見ていた。


優はそこで、ようやく視線を戻す。


「……ダメか?」


その言い方が、少しだけ変だった。


咲は一瞬、言葉に詰まる。


「ダメっていうか、意味が分からない」


「意味?」


「うん。今までそんな話しかけてこなかったじゃん」


優は少しだけ黙る。


それから、いつもの調子を作るみたいに笑った。


「別に、普通だろ」


「普通じゃない」


即答。


優は笑ってごまかそうとする。


でも、その笑いは少し薄い。


咲はさらに一歩詰めた。


「なに? なんか企んでるの?」


「いや」


「じゃあなんで」


優は答えない。


その沈黙が、逆に一番分かりやすかった。


咲は少しだけ眉をひそめる。


「……気持ち悪いんだけど」


「ひど」


優は苦笑する。


でも、咲は冗談で言ってない。


「ほんとに。急に距離詰めてくるのやめて」


優はそこで、少しだけ目を伏せた。


「別に、詰めてるつもりはない」


「じゃあなに」


しばらく黙ったあと。


優がぽつりと言う。


「気になるだけ」


咲の動きが止まる。


「……は?」


優はそれ以上説明しない。


ただ少しだけ視線を外して、またいつもの調子に戻した。


「まあいいじゃん」


「よくない」


咲は即座に返す。


でも、その声の奥で、少しだけ心臓が変な音をした。


優は軽く手を振る。


「行くぞ」


「どこに」


「知らん」


「意味わかんない」


そう言いながらも、咲は結局ついていく。


その横顔を見ながら、優は小さく息を吐いた。


(……なんか違うんだよな)


前と同じはずなのに。


前みたいじゃない。


理由はまだ言葉にならないまま。


ただ、“気になる”だけが残っていた。

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