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14話

「橋本さん、メガネないとほんと違うね」


その声に、咲は手を止めた。


メガネが少し曇っていたので、自分の席で外して、レンズを軽く拭いていたところだった。


ただの、いつもの習慣。


「……なに」


顔を上げると、同じクラスの男子が立っている。


軽い笑い方だった。


「いや、普通にかわいいって思って」


悪気のない、距離の近い声。


咲は一瞬だけ眉をひそめる。


軽いノリだった。


悪気もなさそうで、ただ距離感が近いだけ。


咲は一瞬だけ眉をひそめる。


「そういうのいいから」


そう言ってメガネをかけ直そうとした、その時。


少し離れた席でそれを見ていた優の動きが止まった。


(……は?)


さっきまで普通に笑っていたはずなのに。


胸の奥が、一瞬だけ引っかかる。


男子はまだ何か言っている。


「コンタクトにしないの?」


咲は困った様子もなく、ただ面倒そうにしているだけ。


それが妙に気に入らなかった。


理由はうまく説明できない。


ただ、


(なんか、いやだ)


その感覚だけが先に来る。


優は席を立ち、そのまま咲の方へ歩いていく。


「おい」


咲が振り向く。


「なに」


優は男子を一瞬だけ見てから、何でもないように言った。


「行くぞ」


「まだ途中なんだけど」


「いいから」


短い言い方だった。


男子が少し気まずそうに黙る。


咲は優を見て、少しだけ目を瞬かせた。


「なに急に」


「別に」


優はそれ以上説明しない。


ただ、咲の手からメガネを軽く取って、何も言わずに差し出す。


「ほら」


「……あ、ありがと」


咲は少し戸惑いながら受け取り、メガネをかけ直す。


その間、優は男子を見ないまま軽く言った。


「行くぞ」


今度は咲も黙ってついてくる。


席を離れて廊下に出ると、咲が小さく言った。


「なに、今の」


「別に」


「感じ悪いんだけど」


「そうかもな」


優は否定しない。


咲は少しだけ優の横顔を見る。


いつも通りの顔のはずなのに。


少しだけ機嫌が悪い。


「なんかあった?」


咲が聞く。


優は少しだけ間を置いてから言った。


「別に」


でも、その“別に”は、いつもより少し短かった。


咲はそれ以上聞かない。


ただ、少しだけ歩幅を合わせる。


優は横目でそれを見て、さらに小さく息を吐いた。


(……ほんと、なんなんだよ)


理由は、まだ自分でも分かっていなかった。

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