13話
「最近さ、告白されても付き合わないよね」
その声で、優は足を止めた。
昼休みの廊下。
人の流れの少し外側で、咲が立っている。
メガネ越しの目はいつも通りなのに、言葉だけが妙にまっすぐだった。
「……見てんの?」
優がそう言うと、咲はすぐに言い返す。
「普通に分かるし」
咲は淡々と言う。
優は少しだけ笑って、肩をすくめた。
「まあな」
「なんで」
その質問は、いつもより少しだけ真面目だった。
優は窓の外を見ながら、少し考える。
「なんかさ」
「うん」
「違うんだよな」
咲は眉をひそめた。
「何が」
「ちゃんと好きって言われても、なんか違うって思う」
「贅沢じゃない?」
言い方はいつも通り少しきつい。
でも、優は否定しなかった。
「かもな」
少し沈黙が落ちる。
咲は視線を外しながら、ぽつりと言った。
「……かおりのこと、まだ引きずってるとか?」
優は少しだけ笑う。
「いや、それはもう違う」
はっきりした声だった。
その言い方に、咲が一瞬だけ反応する。
「じゃあなに」
優はそこで、ようやく咲を見た。
少しだけ間を置いてから言う。
「分かんない」
「は?」
「でも、今はいいやって思う」
咲は小さく息を吐く。
「意味わかんない」
「だよな」
優は軽く笑った。
それから少し視線を落として続ける。
「前はさ、ちゃんと“好き”とか“ときめく”とか、分かりやすかったんだけど」
「うん」
「今は、違うって思う方が先に来る」
咲は黙ったまま聞いている。
優は続けた。
「無理に付き合っても、ちゃんと好きになれない気がするっていうか」
そこで言葉が止まる。
咲は少しだけ目を細めた。
「それで断ってんの?」
「まあな」
軽い声。
でも嘘ではない感じがする。
咲はしばらく黙って、それから小さく言った。
「ふーん。ちゃんとしてんだ」
「褒めてる?」
「別に」
そう返した声は、少しだけ柔らかかった。
優は軽く笑って、ポケットに手を入れる。
「まあ、お前には関係ない話だろ」
その一言に、咲は一瞬だけ止まる。
「……そうだけど」
短く返す。
でも、そのあと少しだけ視線を逸らした。
優は気づかないふりをして歩き出す。
「行くぞ」
「うん」
咲も後ろからついていく。
いつもの距離。
いつもの会話。
でもその中で、咲だけが少し置いていかれた気がしていた。




