11話
「咲ってさ」
かおりの何気ない声に、咲は箸を止めた。
「優とほんと仲いいよね」
教室の昼休み。
机をくっつけたまま、咲はかおりと弁当を広げている。
窓際の光が机の上に落ちて、卵焼きの色を少しだけ明るく見せていた。
咲は軽く笑う。
「まあ、腐れ縁ってやつ」
「でもさ、優って咲には結構普通だよね」
「普通?」
「なんか、気を使ってない感じ」
咲は曖昧に頷いた。
「うん、まあ……そういうやつだから」
そう言いながら、ほんの少しだけ視線を落とす。
(普通、か)
ふと、教室の向こう側が目に入る。
優の周りに集まっている女の子たち。
笑って、話しかけて。
優も自然に笑っていた。
ああいうふうに「好き」を出せる子たちは、ちゃんと輪の中に入っていける。
羨ましい、と。
一瞬だけ思ってしまった自分に、咲は少し驚く。
(……何考えてるんだろ)
優に好きなんて、今さら言えるわけがない。
昔から隣にいたのに、言わなかった。
言えなかった、じゃなくて。
言わないまま、ここまで来てしまった。
今さらそんなことを言う方が、きっと変だ。
咲は卵焼きを口に入れながら、視線を窓の方へ向ける。
その時。
かおりがふと笑った。
「でもさ、優って分かりやすいよね」
「どこが」
かおりは楽しそうに続ける。
「好きな子には、結構ちゃんと分かるタイプじゃない?」
その言葉に、咲の手が一瞬止まる。
「……そうかな」
「うん。ちゃんと見てるって感じ」
咲は笑おうとして、少しだけ失敗した。
(そういうの、私には向いてない)
ちゃんと好きって言って。
ちゃんと好かれて。
ちゃんと輪の中に入る。
そういうのは、優の周りにいる子たちがやることだ。
自分はたぶん、ずっと外側。
教室のざわつきが、少しだけ遠く感じる。
咲はメガネを軽く押し上げて、何でもないふりをした。
「……まあ、あいつはそういうやつだしね」
そう言った声は、ちゃんと普通だった。
でもその“普通”の中に、少しだけ置いてきたものがある気がした。




