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10話

家までの道は、さっきより少しだけ静かになっていた。


咲はメガネをかけ直したまま、いつも通りの顔を作って歩いている。


さっきの一瞬を、なかったことにしたいみたいに。


足取りだけが少し早い。


「おい、そんな急ぐなって」


後ろから優が言う。


咲は振り向かないまま返した。


「急いでないし」


「いや速いだろ」


「気のせい」


会話はいつも通り。


なのに、咲の耳だけ少し赤い。


優はその横顔を見ながら、心の中でだけ思う。


(さっきの)


メガネが外れた瞬間の咲は、いつもと全然違った。


ぼやけた視界の中で、不安そうに目を瞬かせて。


それでも強がろうとしていて。


正直、一瞬だけ息が止まった。


可愛い、という言葉が頭をよぎる。


でもすぐ押し込めた。


(言ったら絶対うるさい)


咲はそういうのに敏感だ。


すぐ怒るし、すぐ否定する。


だから、いつもみたいに適当に流すしかない。


優はポケットに手を入れながら、何でもないふりをした。


「お前さ」


「なに」


咲が振り向く。


まだ少しだけ警戒してる目。


優は一拍置いてから言った。


「メガネないと歩くの危なっかしいな」


「は? どこが」


「今さっきも落としてたし」


「たまたまだし」


「はいはい」


軽く流す。


咲はむっとした顔をするけど、それ以上は突っ込んでこない。


それを見て、優は少しだけ安心した。


(今のは言わないで正解)


咲は前を向き直して、また歩き出す。


優はその横顔を見ながら、もう一度だけ思う。


(……まあ、普通に可愛かったけどな)


でも、それは絶対口に出さない。


言った瞬間、全部壊れる気がするから。


咲は隣で、いつも通りうるさいまま歩いている。


優はその距離を保ったまま、少しだけ後ろからついていく。


それが今の二人には、ちょうどよかった。

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