続・最初の異世界(14)
老人は言った。もしかしたらラーゼを救えるかもしれないと。
その言葉に今元晋は反応する。
「救えるかもしれない? 一体どうやって?」
この疑問に老人は。
「まぁ、取ってくればわかる」
とだけ答えた。
老人のこの回答に今元晋は思わず眉を潜めてしまう。
「いや、そんな思わせぶりな事言われてもさ……というか洞窟ってどこにあるんだよ? それすら俺は知らないんだけど?」
そして呆れたように今元晋がそう言うと、今まで黙っていたラーゼが手を挙げて。
「はいはい! だったら私が案内するよ! いいでしょ? 司祭様」
そんな事をいいだした。
これには今元晋も思わず「は?」と口にしてしまい、老人に。
「大丈夫なのか?」
そう尋ねるが、しかし老人は今元晋の質問を無視してラーゼに。
「それはいい! 是非とも案内してさし上げなさい」
にっこり笑顔でそう答えた。
それを聞いたラーゼは「やったー!」と喜ぶが、そんなラーゼを見て今元晋は。
「おい! 本当に大丈夫なんだろうな?」
改めて老人に尋ねるが、老人は。
「問題ない、むしろ因子を抑え込める希望が湧いたともいえる」
そんな事を言うと今元晋に顔を近づけ、内緒話をするような小声で。
「実はな、変異がはじまってしまえば本来ならもう殺すしか方法はないんだが、黄泉の民が傍にいれば話は別でな。ラーゼの変異が治まって人の姿に戻ったのもそれが理由だ」
そんな事を言ってきた。
これには今元晋も思わず目を大きくして。
「おい、それって……つまり俺があの子の傍にいれば、あの子に変異は起きないって事なのか?」
そう聞き返すと老人は。
「どういうわけか、黄泉の民が傍にいると大悪魔マカベルは活性化しないらしい。まぁ、今まで黄泉の民に出会った事はなかったから、本当かどうか確かめようがなかったんだがな……けど、さきほどのおぬしを見て確信したよ。黄泉の民が傍にいれば胆石の浸食は抑え込めるとな」
そのように断言した。
それを聞いた今元晋は安堵した表情となる。
「俺が傍にいればあの子を殺さずにすむ……」
なぜ自分が、否、黄泉の民が傍にいれば大悪魔マカベルが活性化しないのか、その理由はわからない。
けど、自分が一緒にいる事であの子が殺されずにすむのなら、こんなに嬉しい事はない。
まだ出会って間もない、見た目が自分の好みのド直球という事以外、何も知らない相手だけど、それでも、自分が彼女の命を繋ぎとめられるというのなら、喜んで彼女の傍にいよう。
元より自分は黄泉の民、向こう側で死なない限りこちら側には来れない人間だ。
つまりはもう死んでる以上、故郷には帰れない。ならば、この命は彼女を生かすために使おう。
きっとそのために自分はここに流れ着いたのだ。
今元晋はそう自分にいい聞かせ、老人に向き直ると。
「わかった。そういう事なら案内を断る理由はないよな。一緒に行動していればあの子の変異を抑えられるんだから」
そう言って頷いてみせた。
そんな今元晋に老人は。
「ちなみに歴代の勇者は皆、黄泉の民だったという言い伝えもある。これは教会関係者だけにしか伝わっていない話だがな……そして聖剣シルブルムフゲンは勇者にしか扱えん。手に取る事はできても勇者以外には扱えないんだ。言ってる意味がわかるか?」
そう言ってニヤリと笑った。
それを聞いた今元晋は思わず「は?」と間抜けな声をあげてしまい、それから。
「つまり、俺には聖剣を扱える可能性がある……と?」
そうつぶやくと老人は。
「あくまで教会に伝わる言い伝えだ。そう、聖剣を管理している我々にだけ伝わる、な?」
そう言って今元晋の肩をぽんと叩くと。
「だからそれを確かめてきてくれ。任せたぞ、新たな勇者殿?」
意地の悪い笑顔を見せた。
これには今元晋も呆れたようにため息をつく。
本当に言い伝え通りなのか確かめてきてくれと言いながら、すでに自分を勇者と呼んでいる。
それはほぼ確定という事ではないのか?
そもそも、なぜ黄泉の民がそばにいると大悪魔マカベルは活性化しないのか?
なぜ昔の人々の祈りが天に届いて神が地上に落としたとされる聖剣は黄泉の民だけにしか扱えないのか?
それをもってしても大悪魔マカベルは完全に倒せないのか?
それ以前になぜ黄泉の民だけが勇者となりえるのか?
数々の疑問が沸いてくるが、まずはその聖剣とやらの現物を取ってこない事には、今以上の情報をこの老人は提示しないだろう。
つまりは聖剣を手にして戻ってこない事にはこれより先には進めないのだ。
とはいえ、あくまでそれは大悪魔マカベルに関する出来事にこれから先も関わる場合の話だ。
そんなもの自分には関係ない!とこの場を立ち去る事も可能だろう。
たしかに見た目が自分の好みのド直球ではあるが、よく知りもしない出会ったばかりの女の子のためにそこまでする必要はない。
そして、自分が去ったところでこの世界に今すぐ何か重大な危機が訪れる事もないはずだ。
何せ老人の話では、体に変異が起こるまでになった宿主は殺せば、大悪魔マカベルが封じられた胆石は別の誰かに移り、また一からその誰かの体を長い時間かけて蝕んでいく作業に入るのだから、大悪魔マカベルが復活する悪夢は未来に先送りされる、それだけの話だ。
だから、ここで去っても気に病む必要はない。
世はこともなし、これまで続いて来た事がこれからも続いていくだけだ。
逆に、ここで一歩踏み込んでしまえば、自分は大悪魔マカベルに関するあれこれに大きく首を突っ込むこととなり、もう後戻りできなくなる。
そう、下手をしたら聖剣を手にした勇者として、政局だったり紛争だったりといった、この世界の面倒ごとに巻き込まれるかもしれない
そんな事はまっぴらごめんだ、考えただけで憂鬱になる。
だからここは身の程をわきまえて、聖剣とは距離を取るべきともいえる。
そう、今ならまだ引き返せるのだ。
とはいえ、ここで教会から離れたとて、行く当てはない。
そもそも、この世界の知識がない。
知識がない事にはどうしようもない、どこに行けばいいのか、何をすればいいのかもわからない。
そう、ここがどういった場所なのか?もっとも近い人里はどこなのか?どっちに進めばいいのか?
それすらもわらない状態では闇雲に彷徨って草原の中で野垂れ死ぬだけだのだ。
気仙沼に戻れない以上はここで生きていくしかない、そのためには情報がいる。
その情報は現状ではここでしか手に入らない、ならば選択肢はないのだ。
何より、自分がこの場を去れば、それはあの子が殺される事を意味する。
自分が傍にいればまだ生きる事ができたのに、それを奪ってしまうのだ。
そんなの我慢ならないに決まっているし、絶対に後悔するに決まっているし、自責の念に駆られて苦しむに決まっている。
だから今元晋はラーゼとともに洞窟へと向かう。
聖剣シルブルムフゲンを回収するために。
支度を整えたラーゼが扉を開けて教会の中から出て来た。
すでに外では特に身支度も必要ないため、先に出て手持ち無沙汰な今元晋が退屈そうに待っていたが、出て来たラーゼを見ると姿勢を正す。
そんな今元晋にラーゼは元気よく声をかけた。
「お待たせ!それじゃあ行こっか、洞窟に!」
「あぁ、さっさと聖剣とやらをとってこよう!」
「うん!えっと……」
「ススムだよ。イマモト・ススム」
「ススムか。私はラーゼ!これからよろしくね!」
「あぁ!よろしく」
ふたりは教会の前で握手をかわし、こうして今元晋とラーゼの長い長い旅は始まったのである。




