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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
19章:続・最初の異世界

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続・最初の異世界(10)

 「石に寄生されてる? どういう事だ?」


 誰かがそう今元晋に聞き返すと、その場にいた誰もが今元晋に注目した。

 そんな中、今元晋は画面に目を向けながら。


 「そのままの意味だよ……彼女は……ラーゼはその身に大悪魔マカベルが封印された石を宿している。言うなれば大悪魔マカベルの宿主だ」


 そう答えた。




 今元晋がラーゼと出会ったのは、今元晋が異世界に転生して割とすぐの頃だった。

 転生したばかりの頃の今元晋は自身の身に一体何が起きたのか理解できず途方に暮れていた。


 しかし、これは仕方がない事だろう。何せ今元晋の地球での死因は溺死……宮城県気仙沼市において発生した、1000人近い死者数と450人近い行方不明者を出した大津波に流されて死んだのだ。

 そう、2011年3月11日に発生した東日本大震災である。


 当時、今元晋は生まれ育った気仙沼の地元の高校で友人たちとしゃべりながら学校を後にするところだった。

 そんなおり、震度6の大きな揺れが彼らを襲う。

 立っていられないほどの激しい揺れに、その場にうずくまる事しかできなかった今元晋だが、直後、彼のすぐ横の地面が地割れした。

 そんな光景を目にした今元晋はこれはただ事ではないと、揺れが収まった直後、即座に友人たちとともに校内へと戻り、周囲に何もない広いグランドの中心地へと向かった。


 「とりあえず、ここなら校舎だったり、学校の周囲の建物が倒壊しても安心だろ」


 そう言った今元晋に友人のひとりが。


 「けどここ、津波は大丈夫なのか? うちの学校、そこまで海岸から離れてないし、平地に建ってるだろ?」


 そんな事を口にした。

 それを聞いた誰もが顔を見合わせ、不安そうな表情となるが。


 「だ、大丈夫だって! 一様はうちの学校、このあたり一帯の地域の避難場所に指定されてるわけだしさ。確かに高台じゃないけど、問題があるなら普通、避難場所に指定されないだろ?」


 誰かがそう口にしたが。


 「ま、まぁそれもそうだよな……けど、それって津波を想定した時の避難場所だっけ? 確か避難場所って災害の種類によって避難先が違ったような……」


 別の誰かがそんな事を口にした。


 「え? そうなの? 避難場所に指定されてたらどこでもいいんじゃないの?」

 「いや、避難訓練の時、そう習っただろ。もっと興味持てよ! だから今みたいな時に困るんだよ」

 「いや、普通ガチで遭遇すると思わないでしょ。みんなもはやく終わらないかなー? って思いながらやってたでしょ訓練」

 「「「まじ引くわー」」」

 「あれ? うそ? まじ? だるいと思ってたの俺だけなの?」

 「とりあえず、今は情報収集すべきじゃない? 高台に避難すべきかここに留まるべきか、それから考えよう」

 「うそ、スルーされた?」


 そんな彼の言葉を無視して、情報収集しようと言った誰かがポケットから携帯電話を取り出し、ワンセグを起動させる。

 そして、映し出されたテレビの映像に皆が視線を向ける中、誰かが。


 「そういや俺の親戚、岩手の宮古市の姉吉ってところに住んでるんだけどさ。そこに『此処より下に家を建てるな』って書かれた石碑があるんだよ。何でも明治時代と戦前の2回にわたって大きな津波被害に見舞われて、毎度生存者がほぼいない壊滅状態だったらしくて、その時の津波が到達した地点に石碑があるんだってさ。だから、そういう教訓も安全な目安もない土地で何の警戒心もなく海の近くに家を建てるのは不安だって言ってたな」


 そんな事を口にした。

 それを聞いた誰かが。


 「それを言ったら気仙沼(ここ)にだって、大島に津波が来たら島が3つに分断されたって昔話あるじゃん」


 そう言った直後、携帯電話のワンセグに映し出されたテレビの中継映像を見て、誰もが言葉を失った。


 「なっ……まじかよ、これ」


 ようやく言葉を絞り出した直後。


 「お、おい! なんか川の水がすごい勢いで引いてるらしいぞ?」

 「そ、それって……」

 「な、なぁ……ここにいたらまずいんじゃないのか? はやく高台に避難したほうが」

 「今から逃げて間に合うの? むしろ屋上にいったほうがよくないか? さすがにそこまでは押し寄せてこないだろ」

 「いや、全速で車を飛ばせばまだなんとか」

 「家に荷物取りに帰れるかな? まだばあちゃんも連絡つかないし」


 学校に避難してきた人たちのそんな会話が聞こえてくる。

 それを聞いて、さらにはテレビに映し出される映像を見て。


 「逃げよう、ここにいちゃまずい」


 今元晋はそう口にした。

 この言葉に友人たちは頷き、すぐさま学校を飛び出す。

 目指すは一番近い高台。しかし……


 「お、おい……うそだろ!? まだ川の水が引いた段階のはずだろ!?」


 すでに道路の向こうの海岸方面から濁流がこちらに迫っているのが見えた。

 その色は酷く濁っており、すでに大量の物や土砂を飲み込んでいるのがわかった。

 そんな光景を見て、誰もが絶望に打ちひしがれる。


 「な、なんで……もうこんなところまで迫ってるんだよ!? というか、これ逃げ切れるのか!?」

 「高台目指すより学校に戻って屋上に行った方が」

 「今から校舎に戻って階段駆け上がるより高台まで走った方がはやいだろ!! 生存率を考えろ!!」


 そんな言い合いを始めた友人たちを見て。


 「いい加減にしろ!! 口を動かしてる間に走れ!! 死にたくなかったら走れ!! どう考えてもあれ、普通の津波の高さじゃねーだろ!! 見たらわかるだろ!!町飲み込んでこっちに来てるんだぞ!! 考えたくもねーけど、学校だって飲み込まれるだろ!! どう考えても異常だろ!! だったら高台に行くしかねーだろ!! いいから走るぞ!! はやく!!」


 今元晋はそう叫んで、いち早く走り出した。

 迫りくる津波を背にして、必死に高台を目指す。


 そんな今元晋に続いて友人たちも高台へと走り出す。

 とはいえ、友人たちの多くは帰宅部か文科系の部活所属であり、体育会系の部活所属であっても、スタミナに自身がある者はいなかった。

 ゆえに、すぐに今元晋たちはバテてしまい、走る速度が落ちてしまう。


 そんな中、高台へと続く道には他の建物や施設から飛び出して逃げて来た人々で次第に溢れかえり、警察官も大声をあげて避難誘導をおこない、互いに声をかけあいながら高台を目指す集団となった。

 すると、ずっと走りっぱなしで体力は限界を迎えているにも関わらず、奇妙な仲間意識が芽生えてくる。


 互いを助け合おうという感覚だ。

 足が悪く、走れない老人がいれば、こちらの体力はとうに尽きているのに、老人を背中に背負い高台を目指した。

 靴が脱げて転んでしまい、泣き出す子供がいれば抱き上げて、高台を目指した。


 そうして皆が一丸となって高台を目指すが、しかしそんな互いを助け合う行為は逃げる速度を鈍らせる。

 ただでさえ、体力が限界を迎え、走る速度が落ちているのにだ……

 ゆえに、振り返ればすぐそこまで津波が迫っていた。


 「皆さんははやく避難を!!」


 そう言って警察官2人が高台へと向かうのをやめ、立ち止まると無駄とわかっているはずなのに、道路の脇に倒れている、地震で倒壊したであろう飲食店の大きな看板を力いっぱい押して、それで道路を塞ごうとしていた。

 臨時の止水板というわけである。


 しかし、そんなもので津波を食い止められるわけがない。そんな事は警察官もわかっているだろう。

 けど、このまま皆で走って高台へと逃げたところで、高台に到達する前に全員が濁流にのみ込まれるだけだ。

 それならば、たとえすぐに波に飲み込まれてしまう臨時の止水板であっても、それによって1秒でも波が進む進行を遅らせられるのであれば、その1秒で誰かが助かるかもしれない。

 高台に間に合うかもしれない。

 命が救われるかもしれない。


 それならば、このまま全滅するより、そのわずかな可能性に賭けよう。

 そのわずかな可能性を生み出すための犠牲となろう。

 善良な市民を守る2人の警察官はそう決意して大きな看板を押しているのだ。


 そんな警察官を見て、誰もが苦虫を噛んだような表情を浮かべ、全力で高台を目指す。

 2人の警察官の思いを無駄にしないために。

 それは今元晋の友人たちも同じであり、皆悔しそうな、申し訳なさそうな表情を浮かべながら必死で足を動かす。


 だが、今元晋は納得がいかなかった。

 このまま警察官2人を見捨てていいものなのかと……


 だから、今元晋は高台を目指すのをやめ、立ち止まった。

 そして踵を返し警察官たちの元へと向かい、2人の隣に並んで一緒に大きな看板を押す。

 そんな今元晋に対し警察官は。


 「何をしている!! 君もはやく避難するんだ!!」


 そう怒鳴りつけるが、今元晋は気にせず大きな看板を押しながら。


 「俺のじいちゃん、どこだったかは忘れましたけど、若い頃自警団やってて、よく火災現場で真っ先に飛び込んで火災家屋解体してたらしいんですよ。で、そのじいちゃん、死ぬ直前まで俺にずっと、お前は勇気ある者になれ! って耳にタコができるほど言ってきたんですよね……だからここで2人を見捨てて逃げたらじいちゃんに俺、絶対あの世でしばかれます」


 そう言って笑ってみせた。

 そんな今元晋を警察官は。


 「バカ野郎!! 死んだら元も子もないだろ! わかってるのか!?」


 そう怒鳴りつけるが、しかし今元晋は小さく笑い。


 「かもしれませんね? だからさっさと道塞いで逃げましょうよ!!」


 そう言って、より一層看板を力いっぱい押す。

 そんな今元晋の態度に警察官2人は観念したのか、大きくため息をついた後、力いっぱい看板を押すと。


 「無事生き延びられたら説教だからな? 覚悟しとけよ?」

 「たとえ市民栄誉賞をもらえても命の危険を冒した事に変わりはないんだからな?」


 ふたりして今元晋にそう言うが、しかし今元晋は小さく笑うだけで返事はしなかった。

 そして3人は必死に大きな看板を押し、ついに道を塞いだ。


 その直後、3人は押し寄せた濁流にのみ込まれた。




 そこから先はどうなったのか、まったく覚えていない。

 ただ、気が付けば、気仙沼では見た事もない、地平線の彼方まで……どこまでも草原が広がる場所に今元晋は倒れ込んでいた。


 ゆえに思う。

 ここは、どこだ? と……

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