続・最初の異世界(8)
バリスタから大型の攻城戦用の鏃を放ち、特殊地竜、ホンマデッカーの首を撃ち落としたラーゼは。
「あぁ、しまった……ホンマデッカーの首落としちゃった……首が繋がってるほうが高く売れたのに」
と残念がっていたが、ラーゼはすでに、これまでにモウカリマッカーを複数体討伐している。
ラーゼがキラー・ボウガンを購入するための金額が、あとどれだけ足りないのかはわからないが、もう十分なのではないか?
そう思ってしまうが、モウカリマッカー以外の魔物の素体がどれだけの価値として取引されているかを知らない以上は判断のしようがなかった。
何より自分自身、まだモウカリマッカーを4体しか倒していない。
ルケーと物々交換してもらえる数は10体、まだ半分にも到達していないのだ。
ラーゼは余った分を分けてあげてもいいと言ってはいるが、さすがにそういうわけにもいかないだろう。
それに何より、ここまで関わっておいて本当に何だが、やはり必要以上の関係構築は避けるべきだ。
(とはいえ、ラーゼのほうが先に見つけて狩っちまうんだよな……ほんと狂戦士すぎるだろ。ススムがいた頃は一体どうしてたんだ? この子)
それは今元晋がまだこの世界で勇者をしていた頃だけでなく、現在の彼女が勇者として君臨するパーティーでもそうだ。
こんな調子で仲間を無視して突っ込んでいって暴れているのだろうか?
それで本当に仲間との連携取れてるの?
余計なお世話だろうし、何よりこの世界と関わるつもりもなく、必要以上に干渉しないというのなら気にする必要はないのだが、どうにも気になってしまう。
そんな心配をしながら進んでいくと、通路の先にモウカリマッカーがゆっくりと歩いているのが見えた。
モウカリマッカーって確か希少なんだよな? なのになんで、こんなに遭遇するのこの洞窟……
まじで絶滅しね? 大丈夫? 乱獲じゃないのこれ? ワシントン条約に違反しない? あぁ、異世界だから問題ないか……じゃなくて、もしこの乱獲で絶滅したら、それが原因で次元の亀裂生じたりしない? 今更だけど平気なの?
そんな事を考えながら、それでも身代わりのペンダントを手に入れるためには仕方がないと、懐からアビリティユニットを取り出し、レーザーの刃を出したところで。
「早い者勝ちだよ! お先!!」
ラーゼがそう言って、自分より先に駆け出し。
「あっ!! しまっ」
先を越された! と慌てたところでラーゼがボウガンの矢を放つ。
しかし、さすがに今回は大きな声を出しすぎたのか、モウカリマッカーが気付いて素早く回避行動を取り、ラーゼの放った矢をかわした。
しかし、構わずラーゼはボウガンを手にしたままモウカリマッカーに向かって駆ける。
そんなラーゼを見て、モウカリマッカーはこちらに背を向け、猛スピードで奥へと逃げていくが。
「逃がすか!!」
ラーゼは叫びながら右脚を大きく蹴り上げ、足先から先端に鉤爪のようなものが取り付けられた鎖を放つと、その鎖は逃げるモウカリマッカーの尻尾に巻き付きモウカリマッカーの動きを止める。
そして、ラーゼが右脚を後ろに引くと、そのまま鎖に引きずられる形でモウカリマッカーがラーゼの目の前にやってきた。
そんな目の前の地面に倒れているモウカリマッカーの首元に、すでに装填が完了したボウガンを向けて矢を放った。
至近距離で首元を射抜かれたモウカリマッカーは絶命し、その首に刺さった矢を引き抜いたラーゼはモウカリマッカーの死体を持ち上げ、こちらを振り返り、ニヤリと笑う。
「ごめんね、また狩っちゃった」
「……」
なんとも恐ろしい事だが、あれがラーゼのボウガン、ダガーに続く第3の武器である。
キラー・チェーン……そう、キラー装備なのだ。
その鎖は普段はラーゼが履いているブーツの右脚に巻かれており、何も知らなかった当初はどうして右脚にだけ鎖をじゃらじゃら巻いてるんだろうか? この異世界では流行りのファッションなのだろうか? てか中二病くさくね? と思っていたのだが、いざ戦闘となるとその鎖は恐ろしいまでの活躍を見せた。
まずラーゼが右脚で軽く地面をとんと蹴ると、巻かれていた鎖を止めていたの先端の鉤爪が外れ、鎖が外れるのだが、直後にラーゼが何もない宙に向かって足蹴りをすると、外れた鎖が足元から鞭のように放たれる。
ブーツに巻かれていた鎖は先端が足首のあたりで固定されており、ゆえに足を動かす事によって鞭のように振るう事ができた。
これによってラーゼは足を動かしながら鎖を振り回し、時に相手を拘束したり、時に鞭のように叩きつけたり、遠くのものを掴んで放り投げたりと多彩な攻撃を仕掛ける事ができた。
虚空に蹴りを入れながら鎖を振り回して敵を痛めつけている間にボウガンに矢を装填し、そして矢を放つという。単独でボウガンの矢を装填しながら戦うスタイルを確立していた。
しかしキラー・チェーンにキラー・ダガーとすでにラーゼはキラーシリーズを2つ装備している。
これにキラー・ボウガンが加われば、ラーゼはキラーシリーズを3つも装備した魔神にとって最も厄介な相手となるだろう。
何せキラー装備はたったひとつだけでも、対魔神戦において攻撃力なりを数千倍に引き上げるのだ。
それを3つも装備しているなど、魔神からすれば狂気の沙汰としか思われないはずだ。
つまりは、キラー・ボウガンを手に入れた後のラーゼは魔神側から最優先の抹殺対象として、今まで以上に命を狙われる事になる。
彼女の旅はこれより先、ますます苛烈を極めるだろう。
(まぁ、それは俺が気にする事でも心配する事でもないんだけどな)
そう思い、モウカリマッカーを探すべく洞窟の奥へと進んでいく。
モウカリマッカーは普段一体どんな生活をおこなっているのか?
洞窟の中にいるのはわかっていても、洞窟内の住みやすい環境がある区域にいるはずだ。
普通はそう考えるのだが、モウカリマッカーは洞窟内ならどこにでもいた。
洞窟内に点在する地底湖を泳いでいたり、くっそ狭い隙間に入り込んでたり、蒸し暑い区域だったり、涼しいどころか、逆にクソ寒い区域だとか、天井がせまく岩がごろごろ転がる歩きにくい区域や、逆に湿気が多くて苔が多く生えている区域など、本当に環境など気にせず洞窟内ならどこにでもいた。
うん、こいつ希少種じゃなかったの? 全然希少に思えないんだけど?
そんなわけで、ラーゼがいくら狂戦士だろうと、彼女が暴れにくい区域は存在する。
そんなラーゼがハッスルできない区域にて、どうにかモウカリマッカーを規定数狩る事ができた。希少種なのにどこにでもいるモウカリマッカー様様である。
「ふぅ……これでようやく10体だな」
額の汗を拭いながら地面に倒れたモウカリマッカーを回収すべく死体に近づく。
そんな自分を見てラーゼはわざとらしく落胆したような仕草をしてみせた。
「残念、もう少しで横取りできたのに」
これには冗談だとわかっていても、思わずため息をついてしまう。
「いや、邪魔するなよ……そっちはもう十分狩っただろ?」
「ははは、どうかな? まだまだ足りない気がするけど」
「君はモウカリマッカーを絶滅させる気か? やめてさしあげろ」
そんな事をいいながら、それじゃ戻ろうかと二人して外の世界へと戻るべく引き返そうところで。
「ん?」
突然ラーゼが立ち止まり、何かに気付いたように奥の方を見つめる。
「どうした?」
なので声をかけるとラーゼが。
「いや、なんだろう……何かに呼ばれている気がする」
そんな事を言い出した。
いきなり何を言い出すんだこの子はと思ったが、彼女が見つめる先には何もない、大きな岩に通路を塞がれた行き止まりだ。
思わず眉を潜めてしまうが、同時にこの先が行き止まりだからといって、本当にこの先に進めないわけではないという事も理解できた。
そう、隠し通路か、もしくは本来はちゃんと奥に続いてるはずなのに、魔法なりで行き止まりのように偽装されている可能性だ。
つまりは洞窟内に入って来た一般人を排除するための工作。
けど、今のラーゼのように、わかる人にはわかる工作。
おいおい、つまりは何かのイベント発生ってわけか? 勘弁してくれ……
この世界にこれ以上かかわるつもりはないんだぞ?
このまま狩った10体のモウカリマッカーを装飾店に運んでルケーと……身代わりのペンダントと交換してもらう。
そうして目的の品をゲットしたのだからこの世界とはおさらば……そうしないといけないんだ。
でなければ、修復した次元の亀裂が再び発生するリスクが高まってしまう。
ラーゼが記憶を取り戻すリスクが増してしまう。
(ここはどうにか、一度町に戻って準備を整えた後、改めて勇者パーティーとここに来てはどうか? と提案して呑んでもらうしかないか……)
そう思い、ラーゼに声をかけようとしたところで。
「いかなきゃ!」
ラーゼはそう口にして大きな岩に塞がれた行き止まりに向かって走り出す。
「お、おい!!」
こちらが制止する間もなく、ラーゼは大きな岩にぶつかり、そしてそのまま岩の中へと入り込んでいった。
「ちっ!! やっぱり偽装かよ!!」
思わず舌打ちしてしまうが、とはいえ、このままラーゼの後を追うかどうか真剣に考えてしまう。
普通に考えれば彼女を追いかけないといけないのだろうが、しかしこのままついていけば間違いなく、この世界のこれからに関わるイベントに巻き込まれるのは間違いないはずだ。
どんなイベントが発生するかはわからないにしても、面倒ごとになるのはほぼ確定だろう。
とはいえ、自分は異世界渡航者。訪れた異世界の事象にはできるだけ関わらないのが鉄則だ。
何より、ここでラーゼに最後まで付き合う義理はない。
彼女はすでにキラー・ボウガンを買えるだけの素材は得たはずだ、そして自分も身代わりのペンダントと交換してもらえるだけの数を狩っている。
となれば、もう十分に互いの目的は達している。つまりは現地解散しても文句は言われないだろう。
なら彼女がこの先で何かしらのイベントに立ち向かうと言うなら、じゃあ俺は先に町に戻ってるね! でも問題はないはずだ。
そう、ここから先のイベントはこれで回避できる。
次元の亀裂やらの問題を気にする必要はなくなる。
そう、なくなるのだが……
「追いかけるべきじゃないってのはわかってるんだが……あぁ、くそ!! 放っておけるかよクソッタレが!!」
次の瞬間には自分も行き止まりの大きな岩に向かって駆けだしていた。
そしてラーゼと同じく大きな岩をすり抜けると。
「つ!!」
その先には長い道が続いており、それを超えた先には広い空間が広がっていた。
地下の巨大な空洞スペースというべきか、広さは東京ドームほどだろう。
その空洞スペースに入ってすぐくらいのところでラーゼは立ち止まり、驚いた顔で上を見上げていた。
「ラーゼ!! どうしたんだ!?」
ラーゼの様子を不審に思い、同じく上を見上げると。
「なっ!!」
そこには天井一面に巨大な壁画が……気味の悪い生き物を描いた壁画があった。
「なんだあれ」
思わずそう口にするとラーゼが。
「大悪魔マカベル……」
口元を震わせながら、その名を口にした。




