続・最初の異世界(7)
大前提として、ボウガンはたったひとり、最前線に立って戦うための武器ではない。
前述した通り、威力は絶大でも装填に時間がかかりすぎるため、常識的に考えて後方支援の武器と捉えるのが普通だ。
前衛のアタッカーがいて、そいつが暴れまわっている最中に後方から射る。そして装填し、再び射る。
それは前衛がいるからこそ可能なのだ。
そう、前衛がいなければ、矢を射た後に気軽に次矢を装填なんて、悠長な事をしてられない。
矢を射た時点で居場所は相手にバレて、襲撃される。
そんな最中に時間のかかる装填作業など!悠長にしていられるわけがない。
そう、単独で挑むならば一度射れば反撃されないよう即座に逃げる。その一択だ。
ヒット・アンド・アウェー。その戦術しか、ボウガンでの単独行動ならば取れないのである。
古今東西のアクション映画で見てみても、ボウガン片手にたった一人で無数の敵を相手に無双する映画など聞いた事がないはずだ。
……いや、一様超ド級のB級映画やパロディー映画ではあるにあるのだが……まぁ、それはさて置き、有史において登場したばかりの初期のクロスボウ片手に、主人公がそれだけで無双する大作中世騎士映画など見た事がないだろう。
これは中国における弩でも同じ事がいえる。
弩片手に、最初から最後まで弩だけを使って襲い掛かる無数の敵を薙ぎ払うカンフー映画など聞いた事がないはずで、つまりはそういう事なのだ。
日本においては、一部地域では伝来した弩や弩に似た構造の武器が使用された形跡はあるが、歴史の表舞台では古代に外敵に対抗するため弩師という弩を運用する精鋭部隊が置かれた事もあるにはあったが、それらの部隊が歴史の表舞台に名を刻むほど華々しく活躍したり、弩が大いに使用され、大活躍したケースはほぼない。
また、西洋のクロスボウも伝来した頃には、同じく西洋から伝来した鉄砲に劣っていた事から戦場で定着する事はなかった。
その鉄砲すらも、合戦の最前線で、それだけを相棒に無数の敵を相手にできる代物ではない。
火縄銃一丁のみを持って、それだけで主人公が無双する時代劇など見た事がないだろう、それと同じだ。
そう、不可能なのだ。普通に考えて、クロスボウだけを手に最前線で無双するなど……
しかし、それは思い込みだったのかもしれない……いや、普通に考えればそうなのだが、この光景を見れば、誰しもが考えを変えるだろう……ラーゼの戦い方を見れば……
「とどめ!!」
ラーゼが叫び、ボウガンの矢を射る。
その矢を受けてモウカリマッカーは悲痛な叫び声をあげて、その場に倒れ込んだ。
そんなモウカリマッカーを見てラーゼが一息つき。
「ふぅ……これだけ狩れば十分かな?」
そう言ってモウカリマッカーの死体の回収に向かう。
そんな彼女の背中を見て思った。
(この子は勇者じゃねー、狂戦士だ)
そう、ラーゼの戦い方は異常だった。
まず敵を発見すると身を潜め、慎重に相手を見定めてから矢を射る。
そこまでは普通のボウガン使いと何ら変わらない。
その一射で相手を仕留められたならそれでいい。だが、問題は仕留められなかったその後だ。
それまでは慎重に行動していたのに、なぜか立ち上がって相手に自分の姿を見せると、雄たけびをあげながら何も装填していないボウガンを手に相手に突っ込んで行くのだ。
その様は旧日本軍の万歳突撃を彷彿とさせる鬼気迫るものであった。
とはいえ、矢を装填していないのに一体何をするつもりなのかと思えば、ボウガンを持っていない方の手にはちゃんと矢が握られており、まずはその手で握った矢でもって相手をぶん殴る。
え? それでぶん殴るの? ていうか、それだとボウガンを持ってる意味ある? と困惑してしまうが、次の瞬間にはそのぶん殴った矢を素早くボウガンにセットし、それでもって再び相手をぶん殴る。
え? この子何してるの? と唖然としてしまうが、しかし、そのぶん殴った行為によって矢が装填され、発射可能な状態となった。
そんなボウガンを素早く構え、至近距離で相手に向かって矢を射る。
そして再び矢を腰から引き抜いてその手に握り、再び握った矢で相手をぶん殴ってひるませ、その間にボウガンへと矢をセットしてボウガンでぶん殴り、その反動で矢を装填、発射可能となったボウガンを構え射る。
まったくもって理解しがたい戦い方であった。
もはや、これボウガンで戦う意味ある? と言いたくなるが、まぁ全身や地面を使って全体重をかけないと装填できない矢を素早く装填するために敵に接近戦を仕掛け、相手をぶん殴った時の衝撃で装填するのだから、ボウガンで戦うための戦術といえば戦術なのだろう。
理解できないが……
しかし、ボウガンを手にしても結局接近して戦うのなら、素直に剣なり槍なりで戦えばいいのではないか? と思ってしまうし、まずは遠距離から攻撃したいなら魔法を放てばいいのではないか? と思ってしまう。
なので、そのあたりを尋ねてみると。
「うーん……私、魔法使えないんだよね。それに華奢で筋力もないし、剣は振るえないかな? 槍も弓も……だから、そんな私でも戦える武器っていったらボウガンしかないんだよね……どんな状況でも、強力な一撃は放てるんだし、か弱い女の子の私にピッタリでしょ?」
笑いながらそう言った。
ボウガン片手に敵に突っ込んで行って、ぶん殴る行為をしておいて、か弱い?
……か弱い女の子とは?(哲学)
そんな自称か弱い女子であるラーゼの左腕には腕輪が装着されており、指輪も3つ指にはめこんでいた。
その指輪はそれぞれが登録したアイテムを収納し、取り出せるマジックアイテムで、ラーゼは3つの指輪と腕輪にそれぞれ用途が違ったボウガンを収めていた。
その指輪と腕輪には最初にラーゼが使った一般的なボウガンの他に、連射が可能な、中国の連弩を連想させるようなボウガン、さらに片手回し式ハンドルとレバーを使って矢を装填する時間を短縮し、さらに複数本(実際は3本が限度)を同時にセットして放てる大型のクロスボウであるアーバレストが収められていた。
連弩を使えば、複数の敵に囲まれても問題なく対処できるが、その構造は極めて複雑なため、この世界の技術力ではまだ完成されたものではなく、故障して動かなくなるリスクが多いにあった。
またアーバレストも、矢を装填する時間が短縮されたとはいえ、通常のボウガンよりも大型化した分、小回りがきかなくなっていた。
なのでラーゼは状況に合わせてこれらのボウガンを使い分け、無双していく。
とはいえ、どれだけラーゼが狂戦士ぶりを発揮しても、どうしても隙は生じる。
そして、その隙に懐に入り込まれてはさすがのラーゼも太刀打ちできない。
だから、自分はそうなった時に助けに入ろうと思ったのだが……その必要はなかった。
さすがは狂戦士……じゃなかった現在の勇者だ。
装填の合間を縫って懐に入り込み、隙をついた敵に対し、ラーゼは素早く腰のベルトに吊るした鞘からダガーを引き抜き、これを斬り捨てたのだ。
そう、ラーゼはボウガン以外にもダガーも装備していた。
まぁ、さすがにボウガンだけで戦わないわなそりゃ……
とはいえ、そのダガーは少し異常だった。
ラーゼが振るうたびに刀身からオーラが溢れ、時にそのオーラが刀身に纏わりついて光の刃となり、さらにそれを振るうと光の刃が相手へと放たれた。
いや、魔法使えないとか言っといて普通に使っとるやないかい!
そんなツッコミをいれるとラーゼに。
「ん? あぁ、これはこのダガーの能力だよ。このダガー、振るうとオーラを放つから。さすがキラー・ダガーだよね」
そう言われた。
いや、それキラー装備なんかい!
というか、すでにキラーシリーズ持ってるのかよ!
そんなキラー・ダガーは、時にラーゼによって突撃兵器へと変えられた。
アーバレストで3本の矢を同時に放った直後、撃ち損じたと感じたラーゼは矢を装填せず、キラー・ダガーを手にするとアーバレストの先にキラー・ダガーを銃剣のように取り付け、刀身からオーラを放つと、そのまま相手へと斬りかかって行ったのだ。
その光景はどこからどう見ても銃剣突撃である。旧日本陸軍やイラクにおけるイギリス陸軍を彷彿とさせる銃剣突撃である。
嘘だろ? ボウガンでそれする意味ある?
そうして確信した。
ラーゼは勇者ではない、狂戦士であると……
そんなラーゼはモウカリマッカーを捜索中、この洞窟で最大級の魔物である特殊地竜、ホンマデッカーに遭遇した際。
「こいつは!! 普通のボウガンじゃたぶん無理だよね……だったら!! とっておきのボウガン、見せてあげる!!」
そう言って、指輪ではなく腕輪に収めていたボウガンを取り出す。
しかし、その取り出されたボウガンというのは、ボウガンと呼ぶにはあまりに大きすぎた……ゆえに心の中で叫んでしまった。
(ラーゼさんや……それボウガンちゃう、バリスタや!!)




