続・最初の異世界(5)
なぜ自分は勇者だと名乗りでないのか? ラーゼにそう尋ねると。
「は? いや、名乗り出たら足もと見られて、もっと価格つり上げられるでしょ!」
と、何言ってんだお前? と言いたげな顔で言われた。
キラー装備は本来、武具としての価値より学術的価値のほうが高いとされてきた品物だ。
故に買い求める者は学者や収集家ばかりだったのだが、そこに突然、兵士や冒険者、凄腕の傭兵たちがこぞってキラー装備を求めるようになってきた。
売る側からすれば何事? と思うわけである。
魔王が最大の脅威とされてきたこの世界で、その魔王が排除された今、商人たちからすれば世界は平和になったという認識なのである。
一部の情報通の商人や世界規模でチェーン展開をしている大手の商会などは、魔神復活の情報とそれの意味するところのヤバさを理解はしているが、世界全体でいえば、魔王が暴れていた時よりも状況はひっ迫していると知っている者はごく一握りだ。
そう、商人たちからすれば魔神の復活とそれによって引き起こされる世界の危機はまだピンときていないのである。
だからこそ、まだ情報を得られていない多くの商人からすれば、学者や知識人が欲していた、武器としても使える骨董品をなぜかここ最近、兵士や傭兵、冒険者たちが突然欲しはじめたという認識なのだ。
そして、それを最も欲しているのは勇者一行だという。そんな商売に関する情報だけが先行して商人たちの間で共有され、それならば勇者一行には値段を吊り上げてふっかけても問題ない。何せ、世界を救って褒美はたんまりもらっているはずなのだからという、暗黙の了解が広まったのだ。
だからこそ、キラーシリーズを露店で見かけ、購入しようとする際には自らが勇者と悟られてはいけないのである。
ただでさえクソ高いキラーシリーズをこれ以上高くしないために。
「なるほど、言いたいことはわかった」
ラーゼの説明を受けて現状は理解した。
今目の前にある世界の危機を大多数の商人が理解していないという事も。
それをわかったうえで、ではどうやってラーゼはあの出店からキラー装備を手に入れるつもりなのだろうか? と、そんな疑問がふと沸いた。
今現在、あの恐ろしいまでの値段を払えるだけのお金がラーゼの手元にないのは明らかだ。
何せ、それだけの大金が手元にあったならば、あの場で即決して購入しているはずなのだから……
値札を見て、もう少し下がっていると思っていたという発言をしたあたりからも、今ある所持金では足りないのは明白である。
とはいえ、具体的にあとどれだけの金額が足りないのかはわからないが、ラーゼ自身がいたって冷静で特段焦っていないあたり、金を用意できるあてはあるという事だろう。もしくは別の手段によって手に入れるつもりなのか……まさか、奪うつもりじゃなかろうな?
しかし、そんな懸念は杞憂であった。
「まぁ、足りない金額は素材を売って補うかな」
そう、ラーゼはいたって健全な回答をしたのだ。
これには安堵した一方、少し拍子抜けしてしまったのも事実である。
というか、あれだけの額、何を売るつもりかは知らないけど、そんな素材を売ったくらいですぐ貯まるの? まぁ、あとどのくらい足らないかにもよるだろうけど……
そんな疑問が沸いたのでラーゼに何の素材を売るつもりなのか尋ねてみる。
すると。
「モウカリマッカーの部位」
そんな事を言われた。
え? 今なんて?
儲かりまっか?
なんで急に大阪の商人の挨拶されたの?
ぼちぼちでんな~って返さないといけないの?
そう思って困惑してるとラーゼにまたしても不審な目で見られた。
「モウカリマッカー知らないの? マッカーの希少な亜種じゃない。冒険者の間では数匹狩れば大金が稼げるって有名な」
あなた本当に冒険者? とラーゼに疑いの眼差しを向けられたが、しかしラーゼはため息をつきながらも説明してくれた。
マッカーという魔物は気候が穏やかな地域に生息するアルマジロのような外見の魔物だ。
通常のマッカーの素体にはそこまでの価値はないが、洞窟に生息するマッカーの亜種であるモウカリマッカーの素体はとにかく希少で高値で取引されるのだという。
理由はその背中と尻尾に生えた鉱石だ。モウカリマッカーの背中にはモウというダイヤモンドのような外見の希少な鉱物が、尻尾の先には金緑石のようなカリという希少な鉱物が生えており、モウとカリという希少な鉱石を纏っているマッカーだからモウカリマッカーという名がつけられた、大変珍しい生き物であるらしい。
ちなみにモウカリマッカーだけでなく、ボチボチデンナという魔物も存在するようだ。
こちらもデンナというアリクイのような見た目の魔物の亜種であり、背中にボチボチと呼ばれる棘状
の鉱石を生やした希少な生き物であるらしい。
しかし、ボチボチデンナは標高が高い岩山の頂上付近という生物にとって大変厳しい環境で生息しており、その数も年々減少してきている絶滅危惧種なのだとか。
なので、ボチボチという希少鉱石目当ての乱獲は御法度となっているという。
そして、気になるのが何で生き物の背中に鉱石が生えているのか? というところなのだが、モウカリマッカーは洞窟内で、ボチボチデンナは岩山の山頂付近でそれぞれ不足するミネラルを補給するために、岩を砕いて粉状にして食すという。そうしているうちに体内に鉱石の素が蓄積して、それらが一定値をこえると固まって体表面に出るのではないか? と学者が仮説を立ててはいるが、詳しい事はまだ解明されていないのだという。
そんな話をしているうちに身代わりのペンダント(ラーゼ曰く、この世界での名前はルケー)が売っているという装飾店の前にたどり着いた。
自分が用があるのは身代わりのペンダントでありキラー装備ではない。なので、本来ならここまで案内してもらったならば、ラーゼとはもう目的が違うだからお別れとなるはずなのだが……なぜかラーゼも店内に付いて来た。
武器エリアの出店や露店と違い、装飾店は一軒家のため、店内に広いスペースが確保されており、無数のアイテムが数多く並べられていた。
それらを見回していると、ラーゼがある一角を指差し。
「ほら、あそこにあるよルケー」
身代わりのペンダントがあると教えてくれた。
ラーゼが指差した方を向くと、確かにその棚にはリーナ(成長ギャル化版)が持っていたペンダントが並べてあった。
「あ、本当だ! 助かったよラーゼ」
「いえいえ。じゃあ値段見てみたら?」
ラーゼがそういうので近づいて値札を見てみると。
「………確かにあれと同じ値段だな」
キラー・ボウガンと同じ、ただの一般人には到底払えるわけがない、とんでもない金額が記載されていた。
いや、まじでこれありえない金額じゃね? ここの店主は商品を売る気がないのか?
そうとしか思えない! おかしいだろ? この金額まじで誰が払えるの? アホなの? アホだろ!
そう心の中で叫ぶが、しかしここはさきほどの出店と違って室内だ。
法外な値段だ! と叫びたい気持ちを押し殺して、ぐぬぬと唸るだけにしておく。
すると、そんな自分の顔を覗き込んだラーゼが。
「あれ? どうしたの? ここでは騒がないの? 法外な値段だー! ぼったくりだー! って」
ニヤニヤしている口元を手で隠しながら、そんな事を言ってきた。
なんだ? 煽ってやがるのか? と思いながらも、カウンター内に置かれた椅子に腰かけている、人が良さそうな老人の店主の姿を見ると、どうにもこの値段設定おかしいだろ! どういうつもりだ店主! ぼったくりか? と怒鳴りつけてのクレームをいれずらかった。
なので……
「というか、なんでルケー、こんなにも高いんだ?」
そう尋ねる事にした。
ここで納得がいくまともな説明がなかったり、言いよどんだりしたら、その時はクレームをいれてもバチは当たらないはずだ。
すると。
「あぁ、それはの。即死魔法師団のせいじゃな」
そんな事を言い出した。
「即死魔法師団?」
思わず眉を潜めたが、話を聞くに、その集団は魔王が討伐された後に出現した魔神直属の魔術師部隊であるらしい。
その魔術師部隊は遭遇すれば、全員が全員、かならず問答無用で即死魔法をこちらに放ってくるという。
そう、まずは威嚇や様子見で威力の弱い攻撃魔法を放ったりなどせず、開幕先制で即死魔法をぶっ放してくるのだ。
まぁ、そこまではいいだろう。
それ自体は即死魔法対策で護符を装備すればいいだけの話だ。自分たちも即死防止の護符は装備しているし、即死魔法に関してはそれで防げる。
そう、故に自分たちが求めているのは即死魔法とは似て非なるアシュラの攻撃、一瞬で体をミンチにして粉砕する攻撃を防ぐ手段なのだ。
見た目には即死魔法も粉砕攻撃も、どちらも即死なのは違いない。
しかし、そこには明確な違いが存在する。
即死魔法は即死防止の護符で防げるが、粉砕攻撃は同じく即死といえど、正確には物理的な圧迫による圧死であるため即死防止の護符が効かないのだ。
だからこそ、これを防ぐためには身代わりのペンダントが必要となるのだが、この世界の者たちが身代わりのペンダントを求めるのも似たような理由であった。
即死魔法師団の魔術師たちが放つ即死魔法は確かに即死防止の護符や聖者の加護に祈りで一度は防ぐことができる。
だが、一度だけだ。一度防げば効果は消え、続けて放たれる即死魔法を防ぐことはできない。
そう、これが即死防止の護符の弱点だ。
護符は連続して即死魔法が放たれる事を想定していないのである。
とはいえ、これは普通の事だ。
何せ即死魔法は強力な呪術であると同時に、相手を一撃で倒せるという絶大な効果を持つ代償として膨大な魔力を消費し、単発でしか放つ事ができない。
そして、一度放てば魔力が回復するのを待たねばならず、回復しても一定期間を開けなければ再び放つことはできない。
短い間隔で放つ事がたとえできても、その成功率は格段に落ちる。それが即死魔法なのだ。
だからこそ、即死魔法をくらっても、その一撃を無効化する事ができれば、当面の間は即死魔法を警戒する必要はないのである。
そう、本来であれば……
即死魔法師団の恐ろしいところは、魔術師部隊に属する全員が即死魔法しか放ってこないところである。
つまりは魔術師全員が発動をずらして即死魔法を放てば、対峙する側からすれば、連続して即死魔法が襲いかかてくる状態になるのである。
最初の即死魔法は問題ないだろう。護符なりなんなりで防げるのだ。
問題はその後だ。
一度受けた即死魔法を防いだ影響で護符は効果を失い、聖者の加護は消失する。
そんな状態で次の即死魔法を受けたらどうなるか?
一定期間を開けて、魔力が回復した後に放たれた成功率が下がる2発目ではなく、別の誰かの最初の即死魔法を受けたならば……
それが次から次へと間髪入れず襲いかかてくるのである。
まさに連続即死魔法だ。
これをたったひとつの護符や、一度きりの加護で防ぐ事はできない。
そう、即死魔法は護符や加護、まじないで防げるが、それは一度だけ、連続して防げないのだ。
しかし、これは仕方がないだろう。
何せ即死魔法は普通に考えれば、その一発で相手が即死するのだから連続して放つ意味はない。
だから放つ側も受ける側も、その一発に集中する。当然の事だ。
故に防げるのは一度だけ……連続して防ぐ事はできない、当然だ。
常識的に考えて、即座に次が来る事がないのだから……
だからこその即死魔法師団だ。
護符や加護などで防がれれば即死魔法は意味をなくす、それを防ぐために連発する。
回復を待って放つ即死魔法は効果が下がる。
だから致死率の高い一撃を連続して放つため、即死魔法を放つためだけに特化した魔術師ばかりを集めた部隊を作り上げる。
一度即死を防いで効果がなくなった直後に即死魔法を再びくらえばどうなるか?
そんな即死魔法を連発する連中を何十人と集めて、まとめて運用する。
それが即魔法師団だ。
まったくもって理解しがたい運用方法の、殺意ましまし集団である。
そんな話を聞いて、思わずゾッとしてしまった。
何その絶対相手殺すマン集団……怖いわ、キチガイすぎるだろ……
とにもかくにも、そんなヤバい集団が出現してしまった影響で、この世界での即死魔法対策は即死防止の護符を装備するか、聖者から加護を授けてもらうかのどちらかだけで良かったところを、さらに追加で対策を施さなくてはならなくなった。
護符を装備し、加護を授かるだけでは不十分、最低でも3~4の対策を講じておかなければ生き残れなくなったのだ。
そして、即死防止の護符は基本的に1人が複数装備すると反発して効果が薄れてしまうという欠点があり、1人1つしか装備できない。
また、聖者の加護は重ね掛けはできないため1度きりだ。巫女のまじないも然りである。
そんな加護だけでなく、複数のアイテムを併用しなくてはならなくなった即死魔法対策において、ルケー(身代わりのペンダント)だけが汎用性が高い代物のおかげで、1人が複数装備しても問題なく効果を発揮するため、ルケー(身代わりのペンダント)の需要が高まっているのである。
しかし、ここで大きな落とし穴があった。それは、ルケー(身代わりのペンダント)が希少で大量生産できないという点だ。
ゆえに皆が欲しても市場に数は出回らず、結果として恐ろしいまでに価格が跳ね上がっているのである。
そういえば、身代わりのペンダントはレシピがあっても、錬金で複製は作れないと言われたなと思い出し、そういった事情を考慮して改めてルケー(身代わりのペンダント)の値札を見る。
(こればかりは仕方がないか……できればアシュラとの戦いに備えて申し分ない数を確保したかったが、値段以前に数がそんなにないんじゃな……)
価格交渉は諦めざるを得ない、数も確保できない……それでも、最低1つは購入しておかなければ、もしかしたら雑貨屋の異能で、引き出せるアイテムに登録すれば数を増やせる可能性は残っているのだ。
現状、話を聞く限りではあまり期待はできないが……
だがそうなると、やはり最低1つでも購入するには、この値札に書かれた場違いな法外な金額を用意しなければならない。
さて、どうしたものか……
そうして、ルケー(身代わりのペンダント)の値札と睨みっこしていると、ラーゼがこんな提案をしてきた。
「ねぇねぇ、ルケーを購入するためのお金が欲しんでしょ? だったら私とモウカリマッカー狩りにいかない? たぶん10体ほど狩れば十分な額になると思うよ」
「へ?」
「ここ、素材の買い取りもしてくれるから、狩ったモウカリマッカーの死体とルケーを交換してもらえばいんじゃないかな? 私はちゃんと換金してもらうけど」
「それは……」
「それで問題ないでしょ?」
ラーゼが店主に尋ねると、店主は大きく頷き、モウカリマッカー10体と物々交換すると約束してくれた。
ただし、さきほど聞いた話の通り、この世界はルケー(身代わりのペンダント)の需要が高まっているため、交換できるのは1つまでと言われた。
1つでは心許ないのは確かだが、それでもこの状況下で1つでも手に入ったのならば上出来だろう。
なので、ラーゼの提案を受け入れ、モウカリマッカーを狩るべく、交易都市の近場にあるという洞窟へとラーゼと向かう事となった。




