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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
19章:続・最初の異世界

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続・最初の異世界(2)

 「ラーゼを……カイトの旅に連れていってあげてくれないか? あの子を1人残すことだけはどうしても……どうしてもできないんだ」


 かつて、この異世界の勇者であった転生者の今元晋は、自分に異能を奪われた後、最後にそう懇願してきた。

 なぜ彼女を1人残す事ができないのか? そもそも、仲間がいるから1人にはならないんじゃないのか?

 そういった疑問が浮かんだが、理由は聞かなかった。


 訳ありなのは察する事は出来たが、如何せん当時は最初の異世界という事もあって、事情を聞いたり踏み込んだ質問をする余裕はなかった。

 何より、この異世界の事情にこれ以上首を突っ込むつもりはなかったし、もう関わる事はないと思っていた。


 実際問題、身代わりのペンダントが他の異世界で手に入るなら、わざわざこの異世界に再び来る事はなかったし、アシュラのあの相手を一瞬でミンチにする攻撃を防ぐ手段や無効化できる手段、対抗できる術がすでに手元にあったならば、次の異世界に向かっている途中で広域多次元航行艦ヴィマナに乗り込んでこの異世界に来る事もなかったのだ。


 そう、正規のルートで訪れたわけではないこの寄り道は、本来なら必要のないもの。

 一度訪れて、転生者・転移者・召喚者から異能を奪い殺して次元の亀裂を修復したのに、わざわざ戻って何かすれば、今度は自分たちが次元の亀裂の元凶になってしまう。

 そんなリスク、普通なら犯すわけがない。


 だから、ターゲットの転生者・転移者・召喚者の特定に必要な最低限の情報さえ得られれば、あとのややこしい事情など放っておいていいのだ。

 いや、むしろ放置しないといけないのだ。それが異世界渡航者という者なのだから……


 だからこそ、今元晋が心配していた事など気に掛ける必要はないのだが……


 (まったく、どうしてこんなところでばったり遭遇するんだよクソッタレ!)


 思わず心の中で悪態をつくが、しかし、今この世界は異世界転生者・今元晋に関する記憶と記録と痕跡の一切を無くしている。

 だから実際のところは、今元晋の関係者に遭遇したところで慌てる必要はない。

 現に彼女は自分の事を忘れている、自称神による調整がちゃんと効いている証拠だ。


 とはいえ、あまり関わり合いにならないほうがいいのは確かだろう。

 いくら転生者・転移者・召喚者に関する記憶・記録・痕跡を無くしているとはいえ、いつ何時、何がきっかけで記憶が蘇るとも限らない。

 何せ仲間のため、ギルド<ジャパニーズ・トラベラーズ>をいまだ継続している例外的な異世界を除けば、これまで訪れた異世界を再び訪問するのは初めてなのだ。つまりは本当に記憶も痕跡もなくなっているのかの検証はできておらず、確証はないのである。


 (さて、どうしたもんかな……とりあえずは適当な理由をつけてこの場から、できればこの区画から離れるのがベストだが……面倒だな、身代わりのペンダントを探さなきゃならないってのに)


 そう思ってラーゼの方を見ると、ラーゼがものすごく不審な目でこちらを見ていた。

 これはまずいと思い、面倒ごとになる前に、自分は魔王討伐軍に参加していた冒険者で、その時にラーゼの姿を見ていて知っていたと適当な嘘を述べた。


 すると、ラーゼは。


 「あ、あなたあの時の討伐遠征に参加してたのね!」


 そう言ってから。


 「けど、よく生きてたわね? 帝国の騎士団とヨーム傭兵団はかろうじて生き残ったけど、魔(・)神(・)復(・)活(・)時(・)の(・)瘴(・)気(・)に(・)あ(・)て(・)ら(・)れ(・)て(・)参(・)加(・)し(・)た(・)冒(・)険(・)者(・)は(・)全(・)滅(・)し(・)た(・)っ(・)て(・)聞(・)い(・)た(・)け(・)ど(・)……」


 再び首を傾げ、不審な目を向けてくる。

 なので慌てて適当な嘘をついた。


 「あ、あぁ! 実は恥ずかしながらペース配分を間違えて水と食料が底をつてしまったからね。引き返して難を逃れたんだ」


 咄嗟に出た言葉だったが、しかしその一方で疑問も沸く。


 (は? 冒険者が全滅? どういう事だ? 魔神の復活ってなんだ? 魔王を倒しに海を渡ったんじゃなかったのか? どうなってんだ?)


 この異世界の事情に首を突っ込むつもりはない。

 そう、あくまで自分は身代わりのペンダントを買いにこの異世界を訪れただけだ。

 だから放っておけばいいのだ。


 しかし、どうしても気になってしまう。

 特に魔神……神なんて呼称が名前につく存在が出てくると、自称神どもの関与を疑わずにはいられない。

 だからつい聞いてしまった。


 「な、なぁ、一体何があったんだ? 詳しく聞かせてくれないか?」


 これにラーゼは、なんで知らないんだ? と言いたげな不審な目をこちらに向けてくるが、しかし何かしら事情でもあるのだろうと無理矢理に自らを納得させ、最初から丁寧に話してくれた。




 魔王城が建つ大陸は草木が生えず、生命が息づかない死の大地。

 岩と荒野と漆黒だけが支配する魔の大陸だ。


 とはいえ、魔王城の周囲だけは魔族と強力な魔物が住めるだけの必要最低限な環境が整っている。

 つまりは魔の大陸に上陸した後は、魔王城に到達しない限りは兵站が底を尽きれば引き返す以外に生き残る道はない、過酷な環境なのである。

 ゆえに多くの兵士や冒険者、傭兵団の数々が魔の大陸に上陸し、魔王城を目指したが、その大半が途中で断念して引き返すか、魔王城に向かう道半ばで倒れ餓死した。


 そうして多くの犠牲を払いながら、ようやく魔王城にたどり着いた一行は魔族や魔物を討伐して魔王城一帯を占領して食料を確保し、十分な休息と補給を行ってから魔王城の攻略を始めた。

 そして数週間かけ、ようやく魔王城を攻め落とし、見事ラーゼを中心とした勇者一行が魔王を討ち取ったのだ。


 と、本来ならここで人類は魔王に勝利し、めでたしめでたし、となるはずだったのだが……

 実は魔の大陸にはある秘密があった。


 そもそも、生命が息づかない死の大地のはずなのにどうして魔王城周辺だけは魔族と魔物が生きていける環境が整っているのか?

 それは古の時代に、不毛なこの地にある存在が封印されたのが原因である。


 その存在に誰も近づかせないために、それを封印したかつての賢者たちは、生命が生きていけない不毛なこの大地を封印の地に選んだのだ。

 こんな食料も何もない命が芽吹かない不毛な大地の中心地になど、誰も足を運ばないだろうから……


 しかし、そんな死の大地に封印された存在は、ただ黙って封印されているのではなく、復活するための布石を打っていた。

 自らを封印した賢者たちのうちの一人に呪いをかけて操り、自らが封印された地に城を建てさせたのだ。

 それが魔王城であり、呪いをかけられた賢者はやがてその呪いによって変異し、魔族となった。


 彼だけでなく、彼の一族もみな呪いの影響を受け魔族と変異し、城の周囲に移り住み、大規模魔術によって環境を作り変えた。

 こうして魔王城とその周辺は魔族たちが住める土地となり、そこで封印を解除するための研究が行われ、長い年月をかけ、ついに封印を解く方法が解明されたのである。


 その封印された存在、魔神を復活させるための方法が。


 その方法とは、すなわち封印をほどこした賢者たちの血を封印の地に捧げる事。

 とはいえ、すでに魔神が封印されて長い年月が流れていた。

 封印を施した賢者たちはすでに他界しており、血を封印の地に捧げる事は絶望的といっていいだろう。


 しかし、オリジナルの賢者たちは死のうとも、その血は子へ孫へと受け継がれている。

 そう、賢者の子孫たちがその血を流せば問題はないのだ。

 そして、その賢者たちのうちの一人はすでに魔族へと変異し、その子孫も魔族として封印の地に暮らしている。


 ならば、その賢者の子孫の魔族が魔王として世界全体に恐怖を与え、人類を脅かせば、人類側も魔王討伐に必ず動くだろう。

 そして、絶対に賢者の子孫たちを魔王討伐に向かわせるはずである。


 とはいえ、それも絶対ではない。

 なれば人類側にスパイを紛れ込ませ、そうなるよう巧みに誘導すればいい。

 そうして賢者の子孫全員が魔王討伐に出向けば、あとは彼らと同じく賢者の子孫たる魔王とすべてのパーツが揃うわけである。


 そして彼らが封印の地たる魔王城で殺し合い、血を流して全員が倒れれば魔神の復活というわけだ。

 この事実を知らなかった人類側はまんまと罠にはまり、騎士団、傭兵団、冒険者にそれぞれいた賢者の子孫が魔王に挑むも殺され、そんな彼らを殺した魔王を勇者ラーゼが討ち取った。


 その瞬間、封印は解除され魔神が復活を果たしたのだ。

 後は言うまでもない……魔神復活と同時に放出された瘴気によって魔王討伐軍は壊滅したのである。




 「私の仲間と帝国の騎士団、それにヨーム傭兵団はしっかり準備をおこなっていたから助かったけど、他のみんなは……」


 ラーゼはそこまで言うと辛そうな表情を浮かべ、そこから先を口にする事はできなかった。

 そんな彼女を見て、これ以上は聞く必要はないだろうと思い。


 「わかったよ。話してくれてありがとう。それとごめん、辛い事を思い出させてしまって」


 そう謝って、ラーゼから離れようとした。

 話を聞いて、今のこの異世界の状況は理解したし、これ以上ラーゼの傍にいると巻き込まれる可能性も出てくる。

 なので、そうなる前に退散しようとしたが。


 「あ、ちょっと待って! 本当にいいの? キラー・ボウガンを買おうとしてたんでしょ?」


 ラーゼがそう言って、さきほど手に取ろうとした豪華な装飾が施されたボウガンを指差す。

 これには首を振り。


 「いや、ちょっと気になっただけで、俺はボウガンは使わないから、気にしなくていいよ」


 そう言ってはやく退散しようとするが、しかしラーゼは。


 「あぁ! キラー・ボウガンじゃなく、別のキラーシリーズって事? キラー・ソードかキラー・ランスか……そういう事なのね!」


 なんか盛大に勘違いされた。

 というかキラーシリーズって何?

 そんな装備知らん!


 「え? な、何? キラーシリーズ?」


 なので思わず首を傾げるとラーゼが。


 「古の賢者たちが使ったとされる、幻の対魔神戦特化型の決戦武具!! それがキラーシリーズよ!! そして、この骨董武具屋に並んでいる、そのボウガンこそが魔神に対抗できるキラー・ボウガンなの!!」


 そう鼻息荒くまくしたてた。

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