続・最初の異世界(1)
次元の狭間の空間内の最果てのエリアである港湾エリア、その岸壁から華々しく発進した広域多次元航行艦ヴィマナであったが……
「で、目的地にはいつ到着するんだ?」
そう操縦桿を握るケティーに、航行時間がどれくらいかかるのか尋ねると。
「え? いつも何も、もう着いたよ」
「は?」
そんな返事が返ってきた。
慌てて艦橋内に設置されている、外の様子を映したモニターに目をやると、そこには真っ暗な何もない次元の狭間の光景ではなく、青い空に緑の大地という、命芽吹く光景が広がっていた。
艦長席のデスク上に投影された多次元経路図には、すでに本艦が目的地に到着した事を示すメッセージが表示されている。
まじか……まじでもう着いたのか。
感慨深く、余韻に浸る暇もなかったな……なんだこれ?
うん、これ巨大な軍艦にする意味あったの?
こんな一瞬で着くなら、この巨大な艦内スペースいらなくない?
まぁ、別段持ち歩けないような大型荷物を持ち込んではいないけど……
そんな事を思いながらシートベルトを外し、席から立ち上がる。
正直、こんな一瞬だとシートベルトも意味があったのかどうか……
とはいえ、実際は体感では一瞬で到着したように感じるが、とんでもなく恐ろしいスピードなりで移動していたんだろうから、シートベルトなしだとやはりまずいんだろうな……
そう思って艦橋内を見回し、皆が無事である事を確認する。
皆が特に体調に異常をきたしていないならば、目的地に到着している以上は艦内にとどまる理由はない。
ほんの少し、宇宙船で宇宙空間を移動するワクワク感を楽しめるかとも思ったが、快適な空の旅もへったくれもなかった。
こんな一瞬で着くなら、そりゃCAさんもいないわけだと頭の中で思いながら、荷物をまとめて艦橋を後にした。
「まさか、またこの世界に戻ってくるとはな……」
周囲を見回しながら、思わずそんな事をつぶやいてしまった。
ここは異世界渡航者として最初に訪れた異世界……ジムクベルトによって壊滅状態に追い込まれた地球でカグと出会い、アビリティーユニットを渡された時に告げられた胸糞な異世界渡航者のミッションを最初に遂行した地だ。
最初に訪れた異世界だから当然なのだが、これといった異能もまだ手に入れていない状態で……本当にレーザーブレードと銃火器だけしかない状態で無謀にも異世界転生者の勇者に挑んだ、そんな地だ。
とはいえ、今いる場所はあの時訪れた港町リバールではない。
今いる場所は、あの時訪れた港町よりも、もっと内陸にある城壁に囲まれた交易都市である。
街の中心地である大通りは行き交う人々で溢れかえっており、活気に満ち溢れていた。
港町リバールも活気に溢れてはいたが、あれはこれから魔王のいる大陸へと向かうための準備の側面が強かった。
船に乗り込んで海を渡って魔王のいる大陸へと渡るため、各国の軍隊に傭兵、冒険者たちは町で必要な物資や食料を買い込む。
そんな彼ら相手に商売するため世界各国から行商人が港町リバールに押し寄せ、町全体が賑わっていたのだ。
だがあれは、一種の特需だ。
通年を通しての賑わいではなく、これから魔王討伐のための戦地へと赴く兵士や冒険者たちに向けた商売。
大所帯が町に滞在している間はいいが、いざ侵攻の日程が決まると売り上げ推移のグラフはピークを迎え、そこから下降に転ずる。
そして、いざ魔王がいる大陸へと多くの軍艦が出航したらもう港町はもぬけの殻だ、そこに留まって商売をする意味はない。
とはいえ、兵士や傭兵、冒険者たちが出発した後も町は最前線の補給基地としての役割を担う事になる。
だが、いつ補給にどれだけの規模で訪れるかわからない状況では、そこに留まって商売をするメリットは商人にはない。
国や教会からの経済的な支援や援助があれば話は別だろうが、それらもない状況では、稼げないとわかっていて留まる理由はないのだ。
何せ商売は慈善事業ではない。いくら人類の存亡をかけた戦いの後方支援といえど、商人はボランティアではないのだ。
儲けられなければ彼らも食ってはいけない。
勇者や各国軍隊が魔王や魔王軍に敗れ、人類が滅んでしまえば食っていくもへったくれもないのは事実だが、だからと言って、勇者が魔王を倒すまでの期間の保障が国や教会からされない限りは、人類が滅ぶより先に、勇者が魔王に挑むよりも先にこちらが生活できなくなり死んでしまう。
故に、最前線の補給基地だろうと、そこに商売の旨味がないのだから商人たちは撤退するのである。
とはいえ、港町リバールが現状、どういった状況になっているかは確認しようがないので、賑わいがなくなったかどうかは何ともいえないのだが……
(まぁ、正直あの町がどうなっていようが、今の俺には関係ないけどな)
そう思って、頭の中に渦巻きかけた、妙な感情を振り払い、本来の目的を思い出す。
(とにかく今は身代わりのペンダントを売っている場所を見つけないと! そのためにここに戻って来たんだから)
人々で賑わう大通りから出店が立ち並ぶエリアに移動し、そこで皆で手分けして身代わりのペンダントを探す事にした。
このエリアには出店や立派な一軒家の専門店が数多く立ち並んでいるため、大所帯で移動していては効率が悪い。
フミコやケティーたちは自分と一緒に見てまわりたいと言い出したが却下した。
誰かひとりと一緒に回ると、じゃあわたしも! となって結局大所帯になってしまうのは目に見えている。リーナ、エマ、イレーナの3人と後見人のヨハンの4人だけは一緒に行動する事になったが、それ以外は説得に時間がかかったが、それぞれ単独での行動を開始した。
「はぁ、疲れた……探す前から説得で疲れるとか……やっぱこの世界に連れてくる面子は厳選するべきだったか?」
そんな事を思いながら出店をひとつずつ見ていくと、今自分が見て回っているエリアがそういったエリアなのかもしれないが、売られているものが何故か武器が多い事に気付く。
その事に思わず眉を潜めた。
(なんだ? どうしてこんなに、どこの出店も武器ばっか売ってるんだ? こういう武器屋は普通、在庫が多く抱えられる一軒家で開くもんだろ? こんな少量を狭いスペースで売って儲けになるのか? しかも、この価格は……)
そう思い、何やら豪華な装飾が施された、今見ている出店に並んでいる武器の中で、もっとも高価なボウガンに手を伸ばそうとしたところで。
「あっ!」
同じく、自分の隣に来た誰かの手とぶつかった。
その人物も、自分と同じく、高価なボウガンに手を伸ばそうとしていたのだ。
「すみません! 自分はただ見てただけなのでどうぞ」
そう言って隣に来た人物に譲ると。
「あ、いえ! こちらこそ、何か気をつかわせてしまってすみません。でも本当にいいんですか? 欲しかったんですよね? この貴重なキラー・ボウガンを」
隣に来た人物は申し訳なさそうにそう言って、キラー・ボウガンというらしい高価なボウガンを指差す。
いや、俺別にボウガンを使わないし……そう思って、別に気をつかってないですよ? と言おうとしたところで。
(ん? この声、どこかで……)
聞き覚えのある声に思わず顔を覗き込む。
すると……
「え? ラ……ラーゼ!?」
思いもよらなかった人物の顔がそこにはあった。
思わず仰け反ってしまったが、そんなこちらのリアクションを見て。
「はい? えっと……どうして私の名前を? というかあなた誰ですか?」
その人物、この異世界の現在の勇者ラーゼは首を傾げた。




