広域多次元航行艦ヴィマナ(2)
港湾エリアは驚くほど広い空間であった。正直ここまで広いとは思ってもみなかったほどだ。
とはいえ、あれだけ巨大な宇宙船のような何かを停泊させている場所なのだから、これだけの広さがあるのは当たり前といえば当たり前なのだが、それでも、次元の狭間の空間の通路幅を考えれば、これだけの広大な空間がここに隠されていた事に衝撃を受ける。
とはいえ、今まで壁に囲まれて中に入れなかったとはいえ、壁の近くに設置した展望台からは壁の向こうを覗き見る事はできた。
空間内に設置した中で一番高い施設である展望台からは次元の狭間の空間全体が見渡せるのだから、これは当然の事なのだが、しかし展望台から覗き見た時はここまでの広大なスペースはなかったような気がする。
とはいえ、そもそも次元の狭間の空間内において、外見の広さに意味はない。
奪った異能を試したり、特訓したりする施設であるトレーニングルームも、外見の大きさは東京ドームほどだが、中身はもっと広い空間になっている。
であるならば、展望台から覗き見たスペースの広さと、壁がなくなって開放された港湾エリアに実際に足を踏み入れた時に感じた広さに差異があっても不思議ではない。
そして、そんな事よりも今は目の前に鎮座する巨大な人工物のほうが大事だ。
「間近で見ると、やっぱデカいな……ほんとなんだこれ?」
広大な空間が広がる岸壁の端まで行き、まるで高層ビルのように聳える、停泊している巨大な宇宙船のようなものの側面を見上げてそう口にすると、自分の後を追ってついてきたケティーが。
「まぁ、普通に考えて飛行船だろうね。次元の狭間に海や湖なんてないし、異世界に辿り着いても、着いた場所が意味や湖である可能性は低いから、これに乗って異世界の空を飛んで移動できるって事でしょ」
そんな事を口にした。
すると、同じく自分を追いかけてきて自分の隣に立ったフミコが。
「つまり異世界での徒歩での移動がなくなる?」
期待を込めてそんな事を口にした。
これには思わず苦笑してしまう。
「いや、さすがにこれに乗って異世界の街に乗り込むのはまずいだろ。長距離移動が発生するような事態になれば話は別だが……」
「そっか、それは残念」
「そもそも、こんな大きな船で移動しても、目的地に着いた後でこの船どうしとくの? って問題が発生するだろ? あの超音速爆撃機レグルスですら、まだその問題が解決できてないのに、あれより更に大きいこいつだと、より頭を抱えるぞ?」
フミコにそう言いながら、そういやフ〇イナルファ〇タジーなどに代表されるJRPGで定番の、終盤で手に入るワールドマップどこにでもいけるようになる飛空艇なんかは、着陸して主人公たちが飛空艇から下りた後はあれ、あの飛空艇どうしているんだろうな? という疑問がふと浮かんだ
考えなしに、その場に放置しているのか、何かしら隠ぺい工作して他人には見えないようにしているのか……
そんな事は考えるだけ野暮か。
それに、そもそもこれは、恐らくは異世界内を自由に飛び回る乗り物じゃない。
リーナ(成長ギャル化版)が言ってた事から推測するに、異世界内を飛び回るのではなく、その異世界まで飛行する乗り物のような気がする。
(まぁ、それを確認するには乗船しないといけないんだろうが……)
そう思って、ざっと見回してみるが、しかし船の側面に内部へと入り込むための入り口は見当たらなかった。
甲板に乗り込むためのタラップも見当たらない。
さて、どうすりゃいいんだこれ?
大航海時代の海賊を描いた海賊映画や、第2次大戦時の日本海軍の艦艇を描いた映画に出てくるような紐で作った足掛け梯子を船体側面に垂らしてよじ登っていけばいいのか?
とはいえ、それをするには甲板から誰かがそれを垂らさないといけないのだが……次元の狭間の空間内では飛行魔法は使用できないためどうする事もできない。
うーむ、どうしたものか……
そう思ってしばし岸壁を歩いてみる。
そんな自分の後にフミコとケティーも続き、しばし3人で巨大な宇宙船の船首に向かって歩いていると、やがて船首近くの側面に何やら文字のようなものが書かれているのが見えた。
なんだろう? と思い、目を凝らしてその文字を見ると、それはサンスクリット語であった。
書かれていたのは文字は|विमान、それを読んで思わず目を細める。
「ヴィマナ……まったく神を自称する連中どもが考えそうな大層な名前だな」
思わず悪態をついてしまった。
ヴィマナ、それはインド神話などに登場する空飛ぶ乗り物だ。
時代や文献、宗教によってその形状や役割は様々だが、一貫しているのは、それが飛翔体だという事である。
そんなサンスクリット語が書かれた側面を見上げていると、ケティーが巨大な船に背を向けて、内陸部(という表現が正しいのかはわからないが、とにかく次元の狭間の空間内部の方角)を指差し。
「川畑くん! なんか大きなターミナルがあるよ!」
そんな事を口にした。
それを聞いて自分もフミコもケティーが指さした方角を見ると。
「かい君! 大きな建物が! あんなのあったっけ?」
「少なくとも、このエリアが開放されるまでは確実になかったな」
そこには東京湾のお台場や大阪南港に名古屋港、博多港といった場所にある豪華客船の大型クルーズに対応できるような大型の国際埠頭客ターミナルのような建物が建っていた。
それを見て思わずため息がでてしまう。
「ようするに、この巨大な船に乗るには、あの施設で手続きしないといけないってわけか」
そう口にして、改めて周囲を見回して気が付いた。
よく見ればターミナルの2階からは、よく空港でみかける、搭乗待合室と飛行機内をつなぐ通路のようなものが飛び出していた。
それは巨大な宇宙船のようなものとは繋がっていないが、恐らくはターミナル内で手続きを済ませれば、あれが伸びて船と繋がり、内部に入れるようになるのだろう。
とまぁ、そこまでは想像がつくが、しかし本格的にあのターミナルがどういった施設なのか、調査するには今ここにいる3人では時間がかかるだろう。
なので。
「何にしても本格的な調査は全員でしたほうがいいだろうな。そのほうが早く片付きそうだ」
そう口にすると、ケティーとフミコも頷き。
「確かに、3人だけであの広さを調べるのは面倒だよね。中は更に広くなってそうだし」
「うん、まずはご飯にしよう!」
そう言って港湾エリアの入り口へと歩いていく。
朝目覚めてすぐにここに来たのだ、そりゃ二人ともお腹がすいているだろう。
かくいう自分もそうだ。
そして、そろそろ他の面々も目を覚ます頃合いだろう。
なら、まずは腹ごしらえだな!
そう思い、自分も後に続いた。




