受け継がれし鋼の魂(49)
「まさか地球でそんな事が……」
潮留よしもりにすべてを話し終えると、彼は信じられないといった表情を浮かべ、しばし困惑していた。
無理もないだろう。彼からすれば、この異世界に漂流してしまったとはいえ、バイオスターの親玉たるラスボスは倒し、一様は地球は救ったと思っていたのだから。
とはいえ、実際は地球に襲来したバイオスターは先遣隊のようなものであり、潮留よしもりたちが倒したのはラスボスでもなんでもなく、斥侯部隊の隊長であり、バイオスターどもの真の親玉は宇宙の深淵で今もまだ健在なのだが……
と、そんな事情はさて置き、潮留よしもりからすれば救ったはずの地球が自分たちが去った後で(それから25年経っているとはいえ)呆気なく壊滅したというのはショックな話だろう。
とはいうものの、潮留よしもりが地球での最終決戦を終えてこの異世界に漂流してきたのは彼が小学生の時である。
それからすでに25年の歳月が過ぎており、実際問題地球にいた頃よりも、この異世界で過ごしている時間の方が長いのだ。
さらにはこの異世界でナオキという子供まで授かっている。
そんな潮留よしもりからすれば、地球は確かに故郷であり、かつては命がけで戦い守り抜いた場所ではあるものの、もはやそこまで気に掛ける場所ではないのだろう。
だからなのか、潮留よしもりがショックを受けたのは一瞬で、すぐにケロっとして元の表情に戻ると。
「で? カイト君、君はその自称神とやらを信じていないのに、どうしてまだ旅を続けているんだい? 俺だったら胡散臭い話が出た時点でストライキなりなんなり起こすけどな。だってそうだろ? 君は星の守護者に会いたくても会えない俺たちと違って、その自称神と旅をしているんだ。常にコミュニケーションが取れる状態なのに、なぜ不審に思った時点で問い詰めないんだ? なぜまだ自称神に従って異世界を巡っているんだ?」
そう疑問を口にした。
それはいままで自爆機能の事を隠されてきて、星の守護者に裏切られた気持ちになった潮留よしもりだからこその疑問だった。
これには。
「いや、そもそも俺は正直最初から自称神を信じてないが?」
「は?」
そうはっきりと答えた。
これを聞いた潮留よしもりは呆気に取られた顔になったが、すぐに我に返り。
「じゃあなんで信じてないのに、まだ自称神の言う事聞いて旅を続けてるんだ?」
そう困惑しながら聞いてきた。
いや、別段自称神の言う事を聞いてるわけでもないし、元より、地球ではじめて自称神であるカグと出会ったあの場面では他に選択肢はなかったのだから仕方ないだろう。
あと、付け加えるなら最初の頃はカグのやろうも次元の狭間の空間に普通にいたが、最近はまったく見かけていない。
アシュラと対峙し、そのアシュラからジムクベルトに関するある話を聞かされてから姿を見せなくなったが、それはアシュラの言う事が真実だとほぼ認めたも同然だろう。
それを踏まえれば、確かに潮留よしもりの疑問もわからんでもない。
ただ、次元の狭間の空間はこちらで行き先を変更できないし、目的を達しない事には次元の狭間の空間は次の異世界へと動き出さない。
どれだけこちらが抵抗したところで、どうにもならないのだ。
何より、次元の狭間の空間内にあるアビリティーユニットをメンテナンスする施設にあるスーパーコンピューターを使って色々シミュレートした結果、自称神の思惑はともあれ、地球から転生転移召喚された者たちが次元振動を引き起こし、震源地たる地球に空間の亀裂が生じたというのはほぼ間違いないらしい。
だからというわけではないが、今も転生転移召喚された者たちから異能を奪って殺す旅を続けているのだ。
それらの事情を話した上で、潮留よしもりには。
「ま、要するに、なるようにしかならないって事だよ。今はな」
そう答えた。
それを聞いた潮留よしもりは少し考え込みながら。
「なるほどな……」
そう言ってひとり頷くと。
「事情は理解した。けどよかったのか? そんな詳細までこちらに教えて……一様はターゲットなんだろ? 俺」
潮留よしもりは心配そうに尋ねてきた。
今からあなたの異能を奪って殺しますよと宣言した相手を心配するとは、どれだけ余裕なんだ? とも思ったが、しかし潮留よしもりからはどうにも心の底から心配している様子だった。
そんな潮留よしもりの態度に困惑していると、潮留よしもりは笑いながら。
「あぁ、なんで敵の心配してるんだって思ってるのか。まぁ、普通はそう思うよな? けど、正直俺はもうこの世界に未練はないからな……日本にいた頃から一緒に戦ってきた仲間はもうみんな死んで俺だけしか生き残っていないし、愛する妻ももういない。ナオキは……息子はまだまだひよっこだが、それでもこの先の未来を託せる選択をした。つまりは後の事はもうナオキたちに安心して任せられるんだ。だったらもう十分だろ」
そんな事を口にした。
これを聞いたナオキが何か言おうとするが、それより先に潮留よしもりがこんな事を口にした。
「それにな……これ以上ここでバイオスターと戦っていたら、また過ちを繰り返すかもしれない。かつて日本でやった過ちを……」
潮留よしもりのその言葉にナオキもミーヤも眉を潜めるが、しかし潮留よしもりは気にせず、サイボーグ化した右手を天に突きあげると。
「またこの技を……ディメンションストロームを使ってしまうかもしれない」
そんな事を口にした。
その言葉には聞き覚えがあった。
確か相手をこの世界の外側……次元の彼方に葬り去るという一度きりの大技だったはず。
そして、潮留よしもりはそれをすでに日本で使っている。
だからこそ、その一度きりの大技、ディメンションストロームをくらったエムブロがこの世界に流れ着いたのだ。
そんな、この異世界でバイオスターとの戦いの延長戦をやる事になった原因たる大技を潮留よしもりはここでも使ってしまうかもしれないと恐れ、警戒しているのだ。
そう、仲間もいなくなり、この施設で一人孤独に仲間たちの墓を守りながら、自分の子どもを含めた次世代の面々が1日もはやく、この戦いを終わらせてくれる事を願ってはいるが、もしそれが叶いそうにないと分かれば、再びエムブロにディメンションストロームをくらわせる心積もりでいる。
だが、ディメンションストロームは一度しか使えない大技だ。それを日本ですでに行使している以上、潮留よしもりはもうその大技を使えないはずなのだ。
なのに潮留よしもりはまたその大技を使ってしまう事を恐れていた。
実はディメンションストロームを行使できるのは生涯で一度きりではなく、本人には説明できない、何かしらの未知の力が体内に蓄積され、それが一定値を超えたら行使できるようになるのだという。
そして、その未知の力は数週間や数か月で一気に蓄積されるものではないという。
それこそ数十年かかるのだとか……
つまりは、この異世界に漂流して25年の歳月が経った今、体内に蓄積された未知の力の値はディメンションストロームを再び行使できるまでに回復していたのだ。
ではなぜそれをエムブロ相手に使わないのか? なぜ使う事を恐れるのか?
それは、この異世界の今の惨状が原因だった。
エムブロ率いるバイオスターたちに蹂躙されている今の状況そのものが、潮留よしもりにディメンションストロームを行使する事を躊躇させていた。
そう、潮留よしもりはこう思っているのだ。
今、この異世界がこんな状況なのはディメンションストロームでエムブロを地球からこの異世界に追い払ったが為であり、再びエムブロ相手にディメンションストロームを行使しても、また別の異世界にエムブロを押し付けるだけで何の解決にもならないだろうと……
確かに地球は救われた。しかし、そのせいで今はこの異世界が苦しんでいる。
そして、ディメンションストロームの再びの行使でこの異世界は救われるだろう。
だが、今度は押し付けられたさらなる別の異世界が苦しむ事になる。
潮留よしもりはそれをよしとは考えられない……だからもう耐えられないのだ。
だからそうなる前に……ディメンションストロームをエムブロ相手に行使してしまう前にこの異能を奪って殺してくれと言っているのだろう。
その事を理解し、思わずため息がでた。
(それじゃまるで自殺志願じゃねーか……)
異世界渡航者の任務達成という目的だけを見れば、願ってもない話だろう。
何せ相手が無気力で、自らの意思で異能と命を差し出してくるわけだから。
だが実際問題、面倒であっても、抵抗されたり、地球の事なんて知るか! 滅んでしまえ! と反抗されたほうが気が楽だった。
異能を奪った後で相手を殺す際に罪悪感が多少薄れるからだ。抵抗されて仕方がなかったと言い訳ができるからだ。
本当に無抵抗で命を差し出しますといってくる相手の場合だとそんな言い訳をする必要がない。
だからしんんどいのである。
(まぁ、何にせよ、楽に異能を奪えるならそれに越したことはないな)
とりあえず、今は倫理観の事は頭の隅に置いておいて、この異世界での任務を達成しよう。
そう思ったところで気付く。
「そう言えば、まだよしもりさんの異能を見てないな……それを見ない事には話が先に進まないぞ」
この言葉を聞いた潮留よしもりが直後。
「異能を見ないといけないか……なら、しっかり見ててくれよカイトくん」
そう言って左手を軽く横へ降る。
すると、屋上に無数のビークルが出現した。
「っ! これって!」
「あぁ、俺の異能になるのかな? ビースターの合体集合機能を使わなくても、俺はビースターを即座に目の前に呼び出せるんだ」
そう口にして、隣に出現したビースターの側面を軽くコンコンを突き。
「さ! これで条件は整ったかい?」
そう尋ねてきた。
これに対して大きく頷き。
「えぇ、問題ないです」
そう返答すると。
「よかった……では最後にひとつ、頼みごとをしていいかな?」
笑顔で尋ねてくる。
一体なんだろうか? と思うも、拒否るかOKするかは内容をきかない事には判断できないので、何をしてほしいのかを尋ねる。
「はい、一体なんでしょう? できる範囲であれば聞いてもいいですが」
これを聞いた潮留よしもりはニヤリと笑うと。
「クラタスだったかな? 君が召喚したビー……ロボットは」
そう言って、ナイトゴーントとの戦いに参加していた、ヨハンが召喚したクラタスを指差す。
その予想外の言葉に思わず「は?」と変な声が漏れたが、気にせず潮留よしもりは。
「それで戦わせてくれないか? 君と最後に有人ロボ対決がしたいんだ」
楽しそうにそう語った。




