受け継がれし鋼の魂(48)
戦いは終わった。
すでに屋上にナイトゴーントの姿はない、その肉片はすべて粒子化して消滅していた。
後に残ったのはナイトゴーントに取り込まれていたミーヤの愛機たるビースター「ペガサス」の残骸だけだ。
そんな残骸をミーヤはしばらく無言で見つめていたが、やがてナオキの方を向き、何かを口にしようとしたところで。
「ミーヤ! 今のはなんだ? 一体何をしたんだ!?」
ファイナルヒュージョンを解いた潮留よしもりが大慌てでやってきた。
そんな潮留よしもりを見てミーヤは困ったような表情を浮かべると。
「よしもりさん、実は……」
ブレスレッドを見せて自爆機能の事を話した。
ミーヤから自爆機能について聞かされた潮留よしもりは信じられないといった表情を浮かべる。
「そんな機能があったなんて知らなかった……なんだよそれ……そんな事、星の守護者は一言も言わなかったぞ?」
そんな潮留よしもりを見て、まぁ無理もないよなぁとも思う。
潮留よしもりはまだ小学生だった頃にこの異世界に漂流してきたのだ。
しかも、ビースターの親玉を倒した直後にである。
そして、地球で終わったはずのバイオスターとの戦いがこっちの世界でも延長され、地球でのバイオスターとの戦いを総括する事なく、この26年を戦い抜いてきたのだ。
その間に年齢で見れば、確かに大人にはなったが、ずっとバイオスターとの戦いが続き、それに明け暮れる中で果たして潮留よしもりは真の意味で本当に大人になったのだろうか?
言い方を悪くすれば、星の守護者を疑う事もない、完全に信じ切った状態で26年間、ずっと騙されていたとも気付かずバイオスターとの戦いのみに注力してきた。
一度でも立ち止まって、冷静に状況を分析した事があっただろうか?
それができなかったからこそ、潮留よしもりは自爆機能が隠されていた事に衝撃を受けたのだろう。
盲目的に星の守護者を信じていたからこそ、実は勝つためならば自分たちが乗っているビースターの機体もろともバイオスターを木っ端みじんにする術が仕込まれていた事にショックを隠せなかったのだ。
そんな潮留よしもりを見て、何か声をかけようかとしたところでミーヤが。
「よしもりさん、無理ないですよ。こんな事がなければ、まずもってこの機能は開放されなかったと思うから」
そう言って。
「よしもりさんたちにビースターを託した星の守護者も、この機能はできるなら最後まで使いたくなかったんじゃないですかね? いや、使ってほしくなかった……だから言わなかったんだと思います。言ってしまうと、それも選択肢の一つになるから……自死を選んでしまう可能性がでてくるから……誰かを捨て駒にする戦術が生まれてしまうから……そんな事をしてほしくなかったから、隠したんだと思います」
潮留よしもりの目を見つめた。
これにはナオキも同調して頷く。
そんな二人を見て、潮留よしもりも少し考え込み。
「確かに、それもそうだよな……言われてみれば、最初から自爆機能の事を知ってたら、戦術の立て方は違っていたかもしれない……」
そう口にして。
「それに星の守護者とはこっちの世界に来てから一度も会っていない。元よりピンチの時にしか姿を見せない相手だから文句の言いようがないんだよな」
ふっきれたように笑う。
「だから、そんな機能を仕込まれていた事に今更腹を立てても仕方がないか。文句の言いようがないんじゃしょーがない……何より、今回自爆機能が開放されたが、それがどういった条件で開放されやのか不明なんだろ?」
「はい、わたしがナイトゴーントに支配されてバイオスター側にビースターが渡ったっていうのは関係してるとは思いますが、具体的に何がどうなって開放されたのかは検証しない事には……」
申し訳なさそうに言うミーヤを見て潮留よしもりは小さく笑うと。
「だったら検証しようがないし、する必要もないな。だってもうナイトゴーントはいないんだ。ならバイオスター側に誰かが寝返る心配はないだろ?」
そう言ってミーヤの肩をぽんと叩くと。
「となれば、もう自爆機能は使えないってわけだ。今はそれで納得するとしよう」
大きく伸びをして周囲を見回し。
「しかし随分と派手に暴れたな……これ、片付けどうすんだ?」
そう言いながら髪の毛をボリボリと掻いた。
屋上は惨憺たる有様で、当分は憩いのカフェの営業はお預けだろう。
ミーヤはそんな光景を見てため息をついた潮留よしもりの背中を見て、申し訳なさそうに身を縮こませるが、しかし潮留よしもりは気にした風もなく笑顔でミーヤとナオキのほうに振り返ると。
「ところでナオキよ、父さんまだミーヤの心の中で何があったのか報告を受けてないんだが? 何があったか詳しく教えてくれないか? ニヒヒ」
ニヤニヤと笑いながら、そう言ってナオキの肩に手を回した。
そんな潮留よしもりの態度にナオキは「父さん……」と言って呆れ、ミーヤは顔を真っ赤にして目を逸らした。
そしてナオキが潮留よしもりにミーヤの精神世界での出来事を話そうとしたところで。
「マスター!!」
四脚クローラー方式双腕型コンセプトマシンから下りたリーナ、エマ、イレーナの3人がこちらに手を振りながら駆け寄ってくる。
そんな3人を見て、否、そのうちのひとりイレーナを見てミーヤが少しムッとした表情になった。
あ、これはちょっとまずいんじゃ? と冷や汗が出たが、それは同じく戦闘が終わりこちらへとやってきたTD-66とクラタスから下りたヨハンも感じたようで、3人がこちらにやってくるのを止めようとするが、しかしこちらが動くよりも早くイレーナは駆け足でナオキとミーヤの前までやってきた。
そして息を整えると。
「ナオキくん!!」
ナオキの目を見て彼の名を呼ぶ。
それを見て思わずミーヤがナオキの前に出てイレーナの前に立ちふさがろうとした時。
「っ!」
そんなミーヤの肩に手を置いて、ナオキがミーヤを制した。
「ナオキ!?」
「大丈夫、安心してミーヤ」
ナオキはミーヤにそう言うとイレーナと向き合う。
そんなナオキをミーヤは心配そうに見つめながらも、わかったと小さく口にして頷く。
その場にいる誰もが固唾を飲んで見守る中、ナオキは意を決して口を開いた。
「あの、イレーナさん!!俺……」
「ナオキくん、ごめんなさい!!」
しかし、ナオキが何かを言い切る前に、イレーナが大声で頭を下げた。
「へ?」
思わずナオキが間抜けな声を出すが、しかし頭を下げたままのイレーナは大声で続ける。
「私はあなたの気持ちには応えられない、応えられる立場にないの……元よりマスターと一緒に色んな異世界を旅して回ってる私の記憶は現地人には残らないの。痕跡だって……いなかった事になるの。だからこの地を離れたらあなたは私の事をすぐに忘れるわ。だからナオキくん、あなたは私じゃなくてミーヤさんの気持ちに応えるべきなの。もっとはやくこの事を伝えられていれば、ミーヤさんが敵に取り込まれる事もなかったかもしれない……本当にごめんなさい。そういうわけだから、私はあなたの好意はこれ以上受け取れないの!」
この言葉を聞いたナオキは固まってしまい、ナオキの隣にいたミーヤはしばし黙っていたが、やがて肩を震わせると口元を押さえ、必死で笑いを堪える。
それはミーヤだけでなく潮留よしもりも同じであった。
かくいう自分は引き攣った笑みでナオキの様子を確認すると。
「あ、あわわわわわわ」
混乱した様子であった。
無理もない、ナオキとしてはイレーナにミーヤの件も含めて自分のせいで迷惑をかけたのだから謝罪しようと思っていたわけだが、その謝罪を口にする前に先制でフラれてしまったわけである。
そのナオキの現在の心情たるや、察するに余りある。
「ぷ、ぷぷ、あはははははは!! 何よナオキ!! フラれてやんの!! あーははははははは!!」
やがて、笑いを堪えていたミーヤがもう無理とばかりに腹を抱えて笑い出した。
それを起点として、潮留よしもりをはじめとしたその場ににいる誰もが笑い出す。
かくいう自分もナオキには申し訳ないが、吹き出してしまった。
そんな周囲の反応にナオキは頭を抱えて「笑うなー!」と叫ぶが、笑い声が収まる事はなかった。
ミーヤは腹を抱えてわらい、目に浮かんだ涙を拭いながら。
「あーもう! 何なのよ、ナオキをとられるかもって不安になってた自分がバカみたいじゃない!」
そう言ってイレーナの元に歩み寄り。
「さっきはひどい事言ったり、攻撃したりしてごめんね?」
そう言って手を差し出した。
その手をイレーナは握り。
「私も、もっとはやくこの事が口にできてたらよかったのに、ごめんなさい」
笑顔を見せた。
そんなイレーナとミーヤを見て、この件は一件落着かな? と思いながらナオキの方に目を向けると、ナオキは地面に突っ伏していた。
どんまい! こういう事もたまにはあるさ!
そう思ったところで潮留よしもりが一人真顔になり。
「なぁ、今の彼女が言った事……どういう事だ?」
そうこちらに尋ねてきた。
そんな潮留よしもりを見て、首を傾げると。
「ん?」
「記憶に残らない、痕跡も残らないって話だよ」
潮留よしもりはイレーナがナオキをフッた際に用いた言葉を述べた。
それを聞いて、少し深呼吸する。
元よりこちらが原因の厄介ごとが片付いたところだ。本題に移るにはいいタイミングだろう。
そう思い。
「そうですね、よしもりさん。話しましょう、俺らの目的を」
すべてを打ち明ける事にした。




