受け継がれし鋼の魂(47)
その機能の事を潮留よしもりは知らない。
そしてそれは潮留よしもりだけでなく、すでにこの世にはいないナオキの母親である潮留しずかに、オリジナルのパイロットたち、オペレーターたちも同様である。
だから、彼らにこの機能について意見を求めても(というより潮留よしもり以外はすでに他界しているのだから意見を求めようがないが……)困り果てて答えてはくれないだろう。
つまりは今この瞬間、その機能ははじめて白日の下に晒されたのである。
ではなぜ潮留よしもり達、オリジナルのパイロット、オペレーターたちはその機能の事を知らないのか? というと、それは星の守護者が彼らに伝えていなかったからだ。
星の守護者が最初に潮留よしもりたちに接触し、ビースターを与えたその時からその機能はすでにビースターに備わっていたが、しかし星の守護者はその機能の事を開示せずに封印し、使用不能にしていた。
そして、彼らの目に決して触れないようにしていたのだ。
とはいえ、実際にはいくつかの厳しい条件が整えば、機能は開放され、使用可能になるようになっていた。
また、止むに止まれぬ、やんごとなき事情が発生すればあるいは……
とはいえ、それは例外中の例外であり、実際のところはバックドアでシステムをハッキングし、ファイアーウォールを突破しない事にはまずもって露見しない機能であった。
ではなぜそんな、知られたくない機能を星の守護者はビースターに搭載したのか?
否、せっかく搭載した機能を隠そうとしたのか?
それは星の守護者が抱いた葛藤の結果だった。
星の守護者は子どもたちに地球の未来を託すため、侵略者たちと戦う力を授けた。
その力で子どもたちには明るい未来を掴み取ってもらいたかったのだ。
ビースターの力はそのためにこそ振るわれるべきものである。
にも関わらず、その機能は使用すれば明るい未来とは真逆の結果をもたらす。
子どもたちの未来を奪い去り、命の芽を摘んでしまうものだった。
とはいえ、地球の命運をかけて侵略者と戦う以上、絶望的な状況に追い込まれる可能性は当然ながら存在するわけで、それを使わないといけないまでに追い込まれてしまう危険は最初から孕んでいた。
しかし、だからと言って最初から敗北を前提としたその選択肢がある事を知らせたくはなかったのだ。
死という重い選択肢を持たせたくなかったのだ。
地球の未来を託す子どもたちには、明るい未来だけを見据えてほしかった。だからその可能性しか見せたくなかったのだ。
何より、侵略者との戦いを子どもたちに託しておきながら、その子どもたちの命を消費して勝つやり方を好まなかった。
だから星の守護者はその機能を封印した。
どうしても、それを使わなければならない状況が訪れない限り、その機能が開放されないようにした。
そして、その条件は数多くの条件が複雑に絡み合わない限り、使用可能にはならない。
ゆえに1995年の神戸における地球での最終決戦において、その機能は開放されなかったのだ。
そう、あの危機的状況でさえ、機能の開放には至らなかったのだ。
その機能、自爆機能は……
「……ん? 何て口にするって?」
「ナオキ……発動のために必要な大事な言葉なんだから、ちゃんと聞いてよもー。だからバ……」
「ゴホン!」
思わず咳き込んでその言葉が覆い隠されてしまったが、ちゃんとナオキは聞き取れたようだ。
しかしまた、ある意味ではわかりやすいといえばわかりやすいワードをチョイスしたもんだな星の守護者よ、一体何を考えてそれにしたんだ?
そう思って微妙な顔をしていると、そんな自分の反応を見てナオキが首を傾げた。
まぁ、そりゃこの異世界で生まれた日系2世の彼にはわからないネタだろう。
とりあえず、その事は一旦隅に置いて、今は目の前の事に集中だ。
「まぁ、何にしてもビースターを自爆させるやり方をふたりが共有したなら後は実行あるのみだな! さっさと終わらせよう。ん? そういえば自爆するビースターはナイトゴーントと合体したあの1機だけなんだよな?」
とはいえ、ふと疑問が浮かんだのでミーヤに尋ねてみる。
もし仮に、すべてのビースターが自爆するとなったら、それはそれでまずいのではないか? と思ったが、それは大丈夫なようで。
「そうだよ。私が自爆させられるのは私が権限をもったビースターだけ。他の機体までは無理だよ」
そう答えるが、しかしこれには手を繋いで一緒に自爆起動ワードを発する事になっているナオキが。
「え? ちょっと待って? それって俺も一緒に言うんだからチーターも自爆しちゃわない? 今父さんがファイナルヒュージョンしてるんだけど、それって父さんも巻き添えで自爆するんじゃ……」
そうガクガクと震えながら口にするが、これにミーヤは。
「何言ってるの、よしもりさんがファイナルヒュージョンしてるんだから権限は今ナオキにないよ? 考えたらわかるじゃない! もう、あわてんぼうさんなんだから!」
そう言って、あははーと笑いながらナオキのおでこをパチンと指で弾いた。
そんなふたりを見て苦笑していると、今まさにナイトゴーントと殴り合いの戦いをしている潮留よしもりがこちらに大声で声をかけてくる。
「うまくミーヤを取り戻せたようだな! よくやった!! で? これからどうする? このまま取り込まれたビースターも奪い返すか?」
そんな潮留よしもりの声にナオキとミーヤは首を振り。
「いや、父さん……わるいけど取り込まれたビースターは取り返さない。それごとナイトゴーントを倒す!」
「っ!!」
そう潮留よしもりに向かって叫ぶと、潮留よしもりは驚き、そしてミーヤに確認する。
「ミーヤはそれでいいのか!?」
「うん、あの子もきっとわかってくれる……」
「……そうか、わかった」
ミーヤの言葉を聞いて潮留よしもりも覚悟を決める。
そして破壊するための必殺の一撃を放つべく、必殺技のシークエンスに入ろうとするが。
「待ってよしもりさん!! 私がやるよ!!」
ミーヤがそのシークエンスを制止すべく大声をあげた。
「は? ミーヤ、何を言って……」
「私が……やる!! だから、よしもりさんはその場を離れて!!」
ミーヤの声を聞いて潮留よしもりは一瞬躊躇するが、しかしミーヤの表情を見て頷き。
「何をするつもりかしらないが……わかった! 任せたぞミーヤ!!」
ナイトゴーントに蹴りをいれて相手を少しよろめかせると、すぐさま地面を蹴って後方に下がり、距離を取った。
そんな潮留よしもりを見てミーヤは隣にいるナオキのほうを向き頷く。
ナオキもミーヤの目を見て頷き、二人は手を繋ぐ。
そして前へと一歩踏み出した。
「ぐ!! 小癪な!!」
潮留よしもりがファイナルヒュージョンしたビースターに蹴られ、よろめき、後退したナイトゴーントはすぐさま体勢を立て直し、前を見据える。
すると、潮留よしもりはこれまでのように追撃をかけてこず、逆にこちらから離れ距離を取っていた。
そんな潮留よしもりの行動にどういう事だ? とナイトゴーントは訝しむが、代わりに潮留よしもりが後方に下がって距離を取った事で視線の先にミーヤとナオキが現れた。
そんなふたりを見てナイトゴーントがニヤリと笑う。
「どうした? せっかく余の支配から抜け出せたというのに、また余の軍門に下りたくなったのか?」
しかし、ナイトゴーントの言葉にふたりは反応しない。
ただ静かに手を繋いで立ち、こちらに向かってその繋いだ手を突き出すと、二人してある言葉を発した。
「っ!? き、貴様ら一体何を!?」
直後、ナイトゴーントの全身が光に包まれた。
ミーヤとナオキは手を繋いで一歩踏み出し、そして立ち止まると、ナイトゴーントの方を向いて繋いだ手を突き出した。
そして……
「ミーヤ、本当にいいんだな?」
「今更何言ってるの? いくよ……」
「あぁ……せーの……」
「「ば……!!」」
その言葉を口にした。
直後、ナイトゴーントに取り込まれていたミーヤの相棒たるビースター「ペガサス」がその動力源を暴走させ自爆、ナイトゴーントを内側から木っ端みじんにした。
ナイトゴーントは断末魔をあげる間もなく爆発に飲み込まれ、消滅した。
爆風と爆炎が屋上に吹き荒れる中、潮留よしもりは呆気に取られたように言葉を失い。
その自爆の威力にカイトやその仲間たちも言葉がでない中、ミーヤはナオキの手をしっかりと握ったまま爆発の中心地を見据え。
「いままでありがとう……さようなら、ペガサス」
そう口にした。
爆風で前髪が激しく揺れる中、その頬には一筋の涙が滴っていた。
「終わった……のかな?」
四脚クローラー方式双腕型コンセプトマシンの操縦席の上で状況を見守っていたイレーナは、煙が立ち上るナイトゴーントが自爆した爆心地を見つめがらそう口にした。
イレーナの隣にいるリーナは目を凝らしながら。
「どうだろ? 体が粉々に吹き飛んだようには見えたけど……でもまだ警戒はしといたほうがいいかも」
そう言うと、操縦席にいるエマは。
「まぁでも取り込まれてた機体を爆破したんでしょ? だったら、仮に生きてても、戦力は半減してるんじゃないの?」
もう終わったと言わんばかりに緊張感のない口調でそう答えた。
これにはイレーナは苦笑してしまうが、直後、屋上全体に強い風が吹いて爆発で生じた煙を消し去った。
すると後には粉々になったビースターの残骸と気味の悪い肉片、ナイトゴーントの成れの果てが所々に散らばっていたが、それらの肉片はすぐに粒子化してその場から消え去ってしまった。
それを見てイレーナはほっと安堵の息を漏らす。
「よかった……どうやら倒せたみたいだね」
イレーナのその言葉にリーナも「やった!」と喜びイレーナに抱きつく。
エマも操縦席から飛び出し、「わたしたちの勝利だね!」と言ってイレーナとリーナに抱きついた。
「わ!? ふたりとも屋根の上なんだから危ないよ!!」
イレーナは困ったように笑いながらそう言うが、一方でミーヤのほうをちらっと見る。
ミーヤは今ナオキと手を繋いで何やら話しており、そんなミーヤを見て。
(やっぱり、このままじゃダメだよね……ちゃんとけじめをつけないと)
ある決意を固めた。




