受け継がれし鋼の魂(45)
ナイトゴーントが消え去った事により、周囲の風景に変化が生じていた。
これまで不気味な雰囲気を漂わせていた暗い森は、空が一気に明るくなった影響なのか、そこまで不気味に感じる事はなくなっていた。
夜空はすでに朝焼けの空に変わっており、木々の隙間から陽の光が差し込み草木を照らす。
森の奥からは虫や小動物たちの鳴き声が聞こえ、見上げれば明るくなった空を数羽の鳥が悠々と飛んでいた。
そんな暗闇が去り、生命の息吹が感じられるようになった風景の変化に、しかしナオキとミーヤはまったく反応を示さない。
2人とも、そんな周囲の変化などに気付かず、ただお互いをじっと見つめている。
決意を固め、ミーヤを取り戻すために盛大に告白したナオキ。そして、ナオキの真正面からのストレートな告白によって我に返ったミーヤ。
互いに顔を真っ赤にさせ、無言で見つめ合う事数秒……2人ともが、相手が先に何か言葉を発するのを待っている状態であった。
ゆえにお互いにこう思っていた。
はやく何か言えよ! と……
そうして無言でお互い見つめ合う時間が続いていたが、そんな状況がずっと続くわけがない。
やがて互いにしびれを切らし、同時に言葉を発しようとしたところで。
「あ、あのミ……」
「ナオ……」
「お! ここにいたか!! いやー結構探したぞ? 精神世界とはいえ、さすがに出口のない森を当てもなく探すのは無理があったな」
森の奥からカイトが姿を現し、声をかけてきた。
ナオキとミーヤは互いに何か言おうとしていたところだったが、カイトに声をかけられた事にビクっとして気まずそうに二人して顔を逸らす。
そんな二人を見てカイトは。
「その分だとミーヤさんの奪還には成功したみたいだな? まぁ、この精神世界からナイトゴーントの支配の象徴たる夜が消え去った時点で答えはでているようなものだがって……というかどうしたんだふたりとも? さっきから何だかぎこちないぞ?」
そう口にするが、これにナオキとミーヤは。
「な、何を言ってるんですかカイトさん。な、何もないですよ? なぁミーヤ?」
「え、えぇ。ほんと何もない……うん」
そう棒読みと無理矢理作ったと誰が見てもわかる笑顔で答えた。
そんなふたりの反応を見て、これはどちらかが告白かプロポーズなりをしたんだなと察し、今更隠すような事かよ? 特にナオキに至っては誰が背中を押したと思ってるんだ? と内心でため息をつきながら。
でも、少なくとも潮留よしもりが渡して来たアレは使わなかったんだなと安堵する。
仮にアレを使ってミーヤを取り返していた場合、一体どうなっていた事か……
(まったく、万が一の時の事を考えて渡した俺も悪いとは思っているが、あんな新たなトラブルを招くような代物、世界の命運を握っている息子に渡すんじゃねーぞ)
そう心の中で思ってから、いや自分も人の事を言えた義理じゃないなとカイトは思い、小さく鼻で笑った。
かく言うカイトも、実際には潮留よしもりと大差ないような、似たような事を考えていたからである。
もしミーヤをコックピットの中から引きずりだす事ができず、精神潜航を使ってミーヤの精神世界に潜入できなかった場合、カイトはある強硬手段を考えていた。
それはアビリティーユニット・ミラーモードの使用。
これを使えばナイトゴーントの支配と似たような事ができる。すなわち、ナイトゴーントの支配を受けているミーヤの心を更に上書きして、こちらの支配下に置き、ナイトゴーントからミーヤを引き剥がす事ができるわけだが、しかし、コックピットの中にいる状態のミーヤにどこまで通用するかは未知数であった。
何よりミーヤが乗ったビースターはナイトゴーントと融合合体しており、いうなれば体の一部になっているのだ。
アビリティーユニット・ミラーモードの効果がそんな体の一部分であるミーヤにまで及ぶのか?
いままでそんなケースを検証した事も、そもそもそんな相手に出くわした事もなかったのでわからなかった。
そして、不確定要素が多すぎる以上に、アビリティーユニット・ミラーモードは使用する事をフミコが嫌がるので、基本的にはもう使わないとカイトは心に決めている。
だからこそ、この強硬手段を使う事態にならなくてよかったとカイトは心の中で安堵していたのだ。
それ以外にも、この場にフミコがいれば金銀錯嵌珠龍文鉄鏡を使ってミーヤが受けている支配を解除する事も可能だった。
ココがスタンピートに取り込まれた時は金銀錯嵌珠龍文鉄鏡にまだ呪力が完全に溜まっている状態ではなかったため使用できなかったが、今は完全に呪力が溜まっている状態であるため使用が可能だという。
だからフミコを呼べば実際のところ楽に事は進んだかもしれないが、とはいえ、やはりコックピット内にいるミーヤにまで金銀錯嵌珠龍文鉄鏡の効果が及んだかはこちらも不明であり、何より色々な情報を収集してもらう意味では、フミコにはオペレーションルームに留まってもらう必要があった。寺崎歩美だけでは不安だからだ。
(まぁ、何にせよナオキが自力でミーヤを取り戻せてよかったよ)
そう思いながらカイトは懐からアビリティーユニットを取り出し。
「何があったかは別段、根掘り葉掘り聞くつもりはないから安心してくれ。それより、用は済んだんだ。ならこれ以上ここに長居する意味はない。戻るぞ、現実世界に」
そう言って投影された精神潜航のエンブレムをタッチする。
「わかってると思うが、現実に戻ったら速攻でナイトゴーントとの戦闘が始まる。で、向こうは当然激昂しているはずだ。何せミーヤさんを奪い返されたんだからな……だから、気を引き締めろよナオキ、ミーヤ」
そしてカイトはふたりにそう告げると。
「はい! わかってますよカイトさん!!」
「そんな事、言われなくても!!」
ふたりは力強く頷いてそう答えた。
そんなふたりを見てカイトは。
「よし! それじゃ、決着をつけに行こうか!!」
そう言うと、直後3人の全身が眩しく光り輝き、そしてそのまま精神世界から姿を消した。




