受け継がれし鋼の魂(41)
ナイトゴーントの攻撃により気味の悪い、深い森で覆われたミーヤの精神世界全体が爆ぜた。
すべてが真っ白に覆われたその光景を夜空から見下ろし、ナイトゴーントは高らかに笑い声をあげる。
「はは……ははは! あーっはっはっはっは!! 見たか下等生物め!! これが余の力だ!! 圧倒的な余の力だ!! で? 下等生物はどこだ? ん? いないか、いるわけねーよな? 何せもう吹き飛んで肉体はバラバラのはずだ! まったく、虫けら同然の末路だな。いや、同然ではないな、正真正銘虫けらだ! 余のこの力の前では所詮ただの虫けら! そう虫けらだ!! 散々こけにしてくれたが、所詮はその程度なんだよこのザコが!! はーっはっはっは!!」
両手を広げ、楽しそうに笑い声をあげるナイトゴーントだが、しかしそんな楽しい時間も一瞬であった。
気分が高揚し、警戒を解いていたナイトゴーントの真下で何かがピカっと光り、次の瞬間には、弾丸がナイトゴーントの片方の羽根を撃ち抜いていた。
「がはぁ!?」
羽根を撃ち抜かれたナイトゴーントはそのままバランスを崩し、自らの攻撃によって真っ白に覆われた世界へと墜落する。
地面に激突し、うつ伏せの状態となったナイトゴーント、そんな彼の周囲に、彼の元へと迫る足音が響き渡る。
「ぐ……下等生物め……」
なんとか顔を起こし、自身の元へと迫ってくる足音がするほうを向くと、視界を塞ぐ砂煙の向こうにゆらりと人影が浮かび上がった。
その人影は手にした小銃の銃口を地面に向ける形で、ゆっくりとした足取りでナイトゴーントに向かって歩いてくる。
そんな人影に向かってナイトゴーントが吠えた。
「ふざけるなよ!! この下等生物め!! よくも余を地面に落としてくれたな!! 絶対に許さんぞ!!」
ナイトゴーントが吠えたと同時に再び世界が爆ぜる。
だが……
「無駄だ。それは効かねーよ」
そんな声と共に目の前に広がっていた世界が爆ぜた景色が一瞬で真っ白に書き換えられ。
「は?」
次の瞬間にはナイトゴーントの周囲一帯が爆ぜた。
「がぁぁぁぁぁぁ!?」
恐るべきその威力にナイトゴーントは抗う事ができず、数キロも後方に吹き飛ばされる。
ようやく止まって地面に倒れ込んだナイトゴーントは全身から気味の悪い色の血を垂れ流しながら、一体何が起きたのかを考える。
(な、なんだ今のは? 一体余は何をされた? というか、今の攻撃……あれは余が放った攻撃では?)
そんな困惑するナイトゴーントの目の前に、ゆっくりとした足取りでカイトが迫って来た。
それを見てナイトゴーント驚愕し、思考が停止する。
「な!? バカな!? 余はかなり飛ばされたはずだぞ? なのにどうしてこの一瞬でここまで来たんだ!?」
そんなナイトゴーントの言葉を聞いて、小銃を片手に歩いてきたカイトは鼻で笑うと。
「どうしてって……ここは精神世界だぞ? 思いの強さでステータスが変わる何でもありの世界だぞ? なのに今更何を驚いてるんだ? てめー、やっぱり戦闘経験が乏しすぎるわ。しかも精神世界なんて特殊な環境で戦うにはまったく向いてない。わざわざ敗北を味わいにこの世界にきたのか?」
そう言って、銃口をナイトゴーントを向ける。
銃口を向けられたナイトゴーントは。
「敗北を味わいにだと? バカめ! 貴様らの目的はエルフのガキを余の支配から奪い返す事だろ? それこそ無駄な努力、貴様らこそ敗北を味わうがいい。一度余の支配下にはいった者は何があろうと余の支配から抜け出せん、絶対にな?」
そう言って尻尾を振るってカイトを攻撃しようとするが、これにカイトはため息をつくと。
「今更そんな攻撃通じると思うか?」
そう言って周囲に半透明の宙に浮く壁を出現させ、それを使って尻尾を弾く。
「っち!」
尻尾を弾かれたナイトゴーントは、続けざまにもう一撃くらわせようとして。
「がはぁ!?」
直後、攻撃をくらっていないにもかかわらず、全身を巨大な何かで叩かれたような感覚に襲われ、激痛が走った。
そして、そのまま後方へと吹き飛び、地面に倒れ込む。
「な、何だ? 一体何をされた?」
激痛に耐えながらも何とか起き上がったナイトゴーントは、一体今自分は何をされたのか? と困惑するが、しかしすぐに受けた攻撃の正体の気付く。
「いや、今の衝撃……それに痛みの範囲から考えて……まさか余の尻尾か? 余の尻尾による攻撃か?」
そう口にしたナイトゴーントはカイトが周囲に展開した半透明の宙に浮く壁を見て、そしてさきほどの爆発事も思い返して、それからカイトを見る。
「貴様……まさか跳ね返したのか? 余の攻撃を……さきほどからずっと……」
カイトはナイトゴーントの言葉を聞いた後、しばらく黙っていたが。
「カウンターシールド。受け止めた攻撃をそのまま相手に弾き返す魔術障壁の一種だ。とはいえ、ある一定以上の威力を持つ攻撃は弾き返せないんだがな……とはいえ、ここは精神世界。思いの強さでステータスが変わる世界だ。だから強く思い描けば……その気になれば核爆発だって弾き返せるってわけだ。今、この瞬間に限って言えばな」
そう口にすると再び銃口をナイトゴーントに向け。
「けど、てめーにはそれができない……てめーは精神世界での戦い方をまるでわかってない。まぁ、これに関しちゃ経験値の差ってやつだけどな? 他人の精神世界に入り込んで戦うなんて経験、普通の人間はまずもってしないからな……だからまぁ、ここで戦う事になった時点で、てめーに勝ち目はなかったんだよ、ナイトゴーント」
そう言って引き金に指をかける。
そんなカイトをナイトゴーントは睨み。
「たしかに……余はこの地では貴様に負けた。だが……余がこの地で負けた事と、エルフのガキが余の支配から脱せられるどうかは別問題だぞ? 余の支配から逃れられるわけがない……救い出せねーよ、貴様らにはな」
楽しそうにそんな事を口走るが。
「それはどうかな?」
カイトがそう口にした直後、今まで上空に広がっていた漆黒の夜空が薄っすらと明るくなりだした。
その事にナイトゴーントが驚愕する。
「なっ!? バカな!! なぜ夜空が!?」
「どうやら夜明けが近いみたいだな? てめーの支配が弱まってる証拠だ」
朝焼けが漆黒を薄めていく様を見上げながらカイトがそう口にすると。
「てめーが何を言おうが勝手だが、けど現実はナオキがミーヤをてめーの支配から解放した。そう、奪還したんだよ。この空が何よりの証拠だ」
改めて銃口をナイトゴーントの眉間に突き付け。
「だからナイトゴーント、もう終わりだ、さっさとミーヤの精神世界から出ていけ」
そう言って引き金を引いた。
銃声が森に響き渡り、ナイトゴーントの姿が塵となって消えていく。
そして、それと連動するように、空は一気に明るくなっていった。
空が明るくなると、不気味に感じた森も、どことなく気分が落ち着く風景に感じる。
そんな景色に目を向けながら。
「ま、ナイトゴーントをこの精神世界から追い出しただけだから、ここから脱出したら改めて戦わないといけないが……どうやら無事お姫様を助け出せたみたいだな」
そう口にして装甲装着を解除した。




